関税評価額の根拠として移転価格スタディを採用 WTO関税評価技術委員がケーススタディを承認

関税評価額の根拠として移転価格スタディを採用 WTO関税評価技術委員がケーススタディを承認

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EY 税理士法人

2016年5月20日
カテゴリー 間接税

Japan tax alert 2016年5月20日号

エグゼクティブサマリー

世界貿易機関(以下、「WTO」)の関税評価技術委員会(以下、「TCCV」)は、移転価格スタディを関連者間取引における関税評価額の根拠として採用することに関して、新たなケーススタディを承認しました。このケーススタディは、世界税関機構の理事会の承認を経て、TCCVケーススタディ14.1として発表される予定です。ケーススタディは、輸入者や販売会社の利益を検証する取引単位営業利益率法(以下TNMM)を適用した移転価格スタディは、関連者間の関係性が移転価格に影響していないこと、したがって、TNMMに基づいて算定された移転価格が関税法評価の観点からの取引価格として適正であることを立証し得ることを解説しています。これは、特筆すべき内容です。

TCCVは、WTO関税評価協定により創設された関税評価専門の委員会として、関税評価協定に関する解釈及びガイダンスを提供することを責務としています。TCCVは、180カ国が参加する政府間機関である世界税関機構(以下、「WCO」)の管理下にあり、そのガイダンスは、いかなる国・地域に対しても拘束力を持つものではありませんが、世界各国の税関当局により恒常的に参照されています。

詳細

背景

移転価格税制及び関税評価規則のどちらも関連者間取引においては独立企業間価格による取引を目的としていますが、それぞれの規則は別個のものです。そのため、世界各国の税関当局は、移転価格税制上の価格を裏付けるために作成された文書が関税評価額を裏付ける根拠となるか悩まされてきました。

輸入者のほとんどは、取引価格による方法に基づいた輸入取引価格、すなわち商品に支払われた又は支払われるべき価格を申告します。文書化や記録保持が容易なことが、企業が取引価格を使用することを選択する主な理由です。

しかし、関連者から輸入する場合、取引価格を使用する際には特別なルールが適用されます。

関連者間取引においては、以下のいずれかの場合にのみ、取引価格による評価方法が認められます。

 (1) 販売状況を検証した結果、関連者間の関係性が実際に支払われた又は支払われるべき価格に影響していない

 (2) 輸入商品の取引価格が特定の検証価格にほぼ等しい

検証価格による証明はあまり用いられておらず、輸入者は通常、販売状況基準に基づき取引価格の妥当性を立証します。

販売状況基準では、買手と売手の関係が価格に影響していないことを確認するため、その取引を取り巻く状況を検証します。WTO関税評価協定の附属書は、関連者間の関係性が価格に影響しない例を3つ挙げています。

  1. 該当する産業における通常の価格設定の慣行に適合した方法により価格が決定されている
  2. 売手が非関連者の買手に販売する際の価格設定の慣行に適合した方法により価格が決定されている
  3. 取引価格が全ての費用に利益(同類・同種の製品の販売を行った代表的な期間に実現した全体の利益に等しい額)を加えた額の確実な回収に充分なものである(この事例は輸入者ではなく、輸出者の費用及び利益に注目するものであることに留意)

ケーススタディ

ケーススタディは、関連者が製造した継電器(リレー)を輸入している企業を取り上げています。関連者間価格は、経済協力開発機構(以下、「OECD」)のTNMM」)に準拠して算定されました。TNMMは、関連者の1社(検証対象企業)の利益率を比較対象企業群の利益率と比較する方法です。比較対象企業とは、同様な機能及びリスクを有し、非関連者と取引を行っているベンチマークとなる企業のことです。このケースでは、経常的に販売会社としての機能を果たす輸入者が検証対象企業であり、輸入者の営業利益率がベンチマークとなる比較対象企業の営業利益率と比較されました。これは最も頻繁に見られる移転価格の事例ですが、税関当局にとっては適用しがたい事例でした。移転価格アプローチにおいては、生産会社や輸出者の費用と利益が考慮されないことがその理由です。また、ケーススタディでは、移転価格スタディが二国間事前確認合意の根拠として使用されることにも言及しています。

分析

このケーススタディでは、関連者間価格が輸入貨物の産業における通常の価格設定の慣行に適合した方法により決定しているという点において、移転価格スタディと、WTO関税評価協定の附属書の注釈との間に関連性があるとしています。そのため、ケーススタディでは、移転価格スタディにおける特定の比較対象企業、すなわち電気機器及び電子部品の販売会社に焦点を当てています。さらに、「産業」という用語は、附属書解説されているように、輸入商品と同等又は同種の商品を扱う産業又は産業セクターを意味すると述べられています。このケースでは、輸入継電器は、電気機器及び電子部品の一部とみなしています。このアプローチは、米国の税関国境取締局が、2009年にCardinal Healthに対して交付した事前教示(2009年12月11日、HQ HO37375)において、移転価格スタディが関税評価の妥当性を立証する根拠となるかを評価する際に使用したアプローチと同じです。ケーススタディ14.1は米国により提出、検討されましたが、概ね当該事前教示を基礎にしています。

ケーススタディにおける分析では、移転価格スタディにより示された独立企業間レンジから逆算していくと、輸出者と輸入者の間の取引価格は独立企業間価格であることが推定できたとしています。輸入者の顧客が非関連者であったため、輸入者による販売は独立企業間取引と見なされました。また、輸入者の営業費用も非関連者に支払われたものであることから、信頼性のある数字と考えられました。輸入者の営業利益率は2.5%で、移転価格スタディにより独立企業間レンジとみなされた営業利益率0.64%~2.79%内に納まっていることから、唯一残った変数である売上原価(輸入商品の仕入れを含む)も独立企業間価格であると見なされました。

※本アラートの全文は、PDFでご覧いただけます。

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