英国における新たな税務戦略の公表義務 - 日本企業への影響

英国における新たな税務戦略の公表義務 - 日本企業への影響

Japan tax alert 2016年6月14日号

エグゼクティブ・サマリー

英国では、多国籍企業に対し、英国における税務戦略をインターネット上で公表することを新たに義務付ける法案が提出されています。英国に支店又は子会社を有する日本企業グループも対象となります。同法案は2016年後半に法制化され、2017年から適用される見込みです。

多くの日本企業グループにとっては、自らのタックスプランニング、税務当局及び税務リスクに対する姿勢を初めて開示することになります。正確には何を公表する必要があるのか、また、情報開示が英国税務当局や、広くはマスコミや一般公衆に対してどのような影響を与えるのかを巡って、現地及び本社レベルで懸念が生じています。

法案の詳細

適用時期

2016年度財政法案の中で、大企業に対し、英国における税務戦略の公表を義務化することが定められました。同法案の女王裁可(2016年7月想定)後に開始する事業年度から適用されます。

適用対象企業

英国において、売上高が2億ポンド超又は英国内の総資産額が20億ポンド超の全ての企業が同法案の適用対象となります。また、こうした英国内の基準を超えない企業も、全世界の総収入額が7億5千万ユーロを超え、国別報告書の提出が義務付けられる場合には、同法案の対象となります。したがって、小規模な英国事業を有する日本の大企業も、現在の財政法案の適用対象となります。

開示要件

法案によれば、公表する税務戦略には以下の事項を含める必要があります。

  • 英国での課税に係るリスクマネジメント及びガバナンスの仕組みに対する英国グループ会社によるアプローチ
  • 同グループのタックスプランニングに対する姿勢(英国での課税に影響する範囲において)
  • 同グループが許容できる英国での課税に係るリスクレベル
  • 英国歳入関税庁(以下、「HMRC」)への対応方針

税務戦略は、毎年見直す必要があり、事業の複雑性に応じて詳細を適宜記載しなければなりません。

税務戦略を策定し公表する責務は、英国を代表する法人の執行役員会(executive board)が負います。この責任帰属の根拠となったのはHMRCによるリサーチで、役会による企業の税務方針に関する精査が高まるほど、積極的な税務行動が抑制されるとしています。英国の役会及び日本の役会又は財務チームの両方が英国における税務に係る意思決定を行う場合には、両者が税務戦略について合意することが望まれます。こうした税務リスクマネジメント・チームの組織体制も、税務戦略の中で公表する必要があります。

税務戦略に係る記載要件は大まかなため、開示する程度は企業の裁量に委ねられます。税務戦略は、グループの英国における税務に関するガイドラインとして利用されることになります。例えば、全ての税務申告書は正確に、かつ遅滞なく提出すると税務戦略に記載されている場合には、過誤があれば不注意を理由としてペナルティーが加重される可能性があります。

企業は、税務戦略として公表する税務アプローチが、税務管理の実態と整合していることを証明する必要があります。したがって、税務戦略を「運用可能」にし、企業文化に組み込む必要があります。

開示方法

税務戦略は、単独の文書又はより包括的な文書の中の構成部分としてインターネットで公表しなければなりません。したがって、税務戦略を自社のウェブサイトで現在開示されている既存のCSRレポートの中に組み込むこともできます。

情報開示を最小限度にし、各項目をごく一般的な回答で済ませようと考えている企業に対しては、HMRCは、ごく一般的な開示は当該企業が戦略について検討していないことを示しており、税務当局による将来のリスクレビューに際して考慮の対象にすると述べています。英国税務戦略の公表を怠った場合、又は税務戦略が2016年度財政法案で提示された法令を遵守していない場合には、7,500ポンドのペナルティーが企業に課せられます。

不透明・懸念事項

グループ全体の全世界の収入額が7億5千万ユーロ超ではあるが英国事業が非常に小規模な日本企業の多数が既に懸念を表明しています。このような場合、現行の法案では開示対象になるため、HMRCは英国事業に関するデ・ミニミス基準の導入を検討しています。また、明確に区別される複数の英国法人やサブグループがある場合にはどうすべきかについても懸念が出ています。このような場合は、1つの税務戦略が全てに適合するとは限らないため、複数の戦略を公表することがより適切であるかもしれません。加えて、日本の企業グループは必ずしも英国独自のウェブサイトを作成していないので、どのウェブサイトに戦略を公表すべきであるかという問合せもあります。このような場合には、英国のサブグループを明示した上で、親会社のウェブサイトで公表するのが適切かと思われます。

戦略を策定する際には、企業はグループの長期的なコンプライアンスに合った最も適切なガイドラインを検討する必要があります。非日系多国籍企業には、グローバルの税務ポリシーを策定した経験がありますが、日本の企業グループには、そのような戦略を策定した企業、あるいは策定したとしてもそれを社外に出したことのある企業はほとんどありません。規則は大まかで具体的ではありませんが、正確・適切な表現を決定するには、英国と本社の両方における時間・作業を必要とします。

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