日本とベルギー、新租税条約に署名

日本とベルギー、新租税条約に署名

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Japan tax alert 2016年11月1日号

エグゼクティブサマリー

2016年10月12日、ベルギー王国と日本政府の代表は、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とベルギー王国との間の条約」(以下、「新租税条約」)及び議定書に署名し、現行の1970年の租税条約を全面的に改正しました。

新租税条約は、ベルギーと日本の間の投資及び経済交流を一層促進することを目指し、二国間の国際協働を妨げる障壁を取り除き、両国に対し様々な機会を提供します。また、この改正は、現行の経済協力開発機構(OECD)モデル租税条約及びOECDの「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」に係る最終報告書(以下、「2015年BEPSレポート」)の勧告に平仄を合わせるものです。

新租税条約の重要な条項は、以下の通りです。

  • 課税上存在しない団体/仕組みの概念の導入(第1条)
  • 個人以外で双方居住者の租税条約上の居住地国を決定するタイブレーカー・ルール(第4条)
  • 恒久的施設(以下、「PE」)の定義の改訂
  • OECD承認アプローチ(以下、「AOA」)を採用した2010年の改正を盛り込むOECDモデル租税条約第7条による事業利得(第7条)
  • 配当、利子及び使用料に係る源泉地国課税の免税規定の導入(第10、11及び12条)
  • 一定の株式譲渡に対する源泉地国譲渡益課税(第13条)
  • 匿名組合から取得する所得及び収益(第20条)
  • 特典制限条項(LOB)及び主要目的テスト(第22条)
  • 相互協議手続(以下、「MAP」)に関する義務的仲裁制度(第25条)

新租税条約及び議定書は、批准文書の交換から30日後に発効します。新租税条約及び議定書の条項は、発効の翌年の1月1日から適用になります。

本アラートでは、新租税条約及び議定書の主要条項について解説します。

詳細な説明

課税上存在しない団体/仕組みの概念(行動2)

行動2に関する2015年BEPSレポートの勧告を反映して、ハイブリッド・エンティティに関する規定を導入しました。

第1条第2項は、いずれか一方の締約国の租税に関する法令の下において、全面的にもしくは部分的に課税上存在しないものとして取り扱われる団体、もしくは仕組みによって(又は通じて)取得される所得は、それが一方の締約国の課税上、当該一方の締約国の居住者の所得として取り扱われる限りにおいて、当該一方の締約国の居住者の所得とみなされるとしています。

「課税上存在しない」とは、一方の締約国の租税に関する法令の下において、団体又は仕組みの所得の全部又は一部について、当該団体又は仕組みに対してではなく、その団体又は仕組に持分を有する者に対して租税が課される場合を意味しています。

個人以外で双方居住者の租税条約上の居住地国を決定するタイブレーカー・ルール( 行動6)

第4条第3項は、個人以外の双方居住者については、両締約国の権限のある当局が、本店の所在地、実質的な管理の場所、設立された場所及びその他関連する全ての要因を考慮して、居住者とみなされる締約国を合意により決定するよう努めるとしています。このような合意がない場合には、双方居住者は新条約のいかなる救済措置も受ける資格がありません。

恒久的施設の定義( 行動7)

行動7に関する2015年BEPSレポートの勧告及びOECDモデル租税条約の改正案を反映して、PE認定の人為的回避を防止するため、新租税条約第5条のPEの定義規定を変更し、PEの範囲を従来よりも拡大しています。具体的には、第5条第4項で、一定の活動(または、その組み合わせによる活動の全体)を行うことを目的として保有する「事業を行う一定の場所」が、PEの範囲から除外されるのは、当該活動等が「準備的又は補助的な性格のものである場合に限る」とし、従来はPEの範囲外とされていた倉庫等も、状況によっては、PEと認定されるようになりうる可能性があります。さらに、第5条第5項では、この準備的又は補助的な活動に係る例外規定の人為的な利用を制限するための細分化防止規定を導入しています。

また、第5条第6項では、「従属代理人」の範囲を拡大しています。一定の契約について、従属代理人が「反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結されるために反復して主要な役割を果たす場合」には、PEを有するものとしています。さらに、第5条第7項では、従属代理人に該当しないとされる「独立代理人」の定義を規定しており、「専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する(closely related)企業に代わって行動する場合」には、独立代理人には該当しないとしています。なお、第5条第8項で、この「密接に関連する」という用語が定義されています。

事業利得

新租税条約では、恒久的施設(以下、「PE」)に帰属すべき事業利得に対する租税は、AOAと同様のものです。この条項においてはPEに帰属する事業利得は、PEが本店から独立した企業であるものと擬制して、独立企業原則に基づいて計算します。

配当

新租税条約では、次の2つの源泉税率が定められています。

  • 配当の受益者が配当を支払う法人の議決権の10%以上を直接又は間接に6カ月以上所有する法人である場合、又は年金基金の場合、全額免除。
  • その他の場合は、10%の源泉税率が適用されます。

利子

新租税条約には、次の2つの源泉税率が定められています。

  • 以下の場合は源泉税は全額免除されます。i)一方の締約国の企業によって支払われ、利子の受益者が他方の締約国の企業である場合、ii)年金基金が受益者である場合、iii)利子の受益者が他方の締約国の政府、地方政府もしくは地方公共団体もしくは中央銀行又は、政府、地方政府もしくは地方公共団体により全面的に所有される機関である場合、あるいは、iv)利子の受益者が他方の締約国の居住者であり、利子がこれらにより全面的に所有される機関によって保証、保険の引受が行われた、もしくは間接的に融資された債権に関して支払われる場合。
  • その他の場合は、10%の源泉税率が適用されます。

使用料

新租税条約は使用料(現行は10%の源泉税率)については、居住地国にのみ課税権を与えています。船舶又は航空機の裸用船チャーターからの収益は使用料の定義から削除されました。

譲渡収益

新租税条約は、株式の50%以上の価値が、譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において締約国に存在する不動産により直接又は間接に構成される場合、当該法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、当該締約国に課税権を与えています。ただし、株式が公認の有価証券市場において取引され、居住者(その特殊関係者を含む)の保有率が当該株式総数の5%以下の場合はこの限りではありません。上記以外の株式の譲渡から得られた収益に対する現行の全額免除規定は存続します。

匿名組合

新租税条約は、匿名組合契約又はその他類する契約に関連して、ベルギーの居住者である匿名組合員が取得する日本国内で生じた所得及び収益に対する課税権を日本に与えています。

租税条約の濫用防止規定(行動6)

行動6に関する2015年BEPSレポートの勧告を反映して、新租税条約の第22条は、特典制限条項及び主要目的テストを導入しました。新租税条約上の特典(配当、利子及び使用料に係る源泉税の免税)を享受する資格を有する適格者(第22条の第2項に定義)に該当するか、又は特典を享受するための他の特定の客観的テストを充足するかを決定する基準(特定制限条項)を導入しており、客観的テストは法的仕組み、所有権、当該者と居住地国を結び付ける活動等の特性に基づいています。

ただし、権限のある当局は締約国の居住者が適格者の要件又は客観的テストの要件を満たすことができない場合でも、特典を与えることができます。

また、新租税条約の第22条第9項は、この条約の特典を受けることが、特典を直接又は間接に得ることとなる仕組み又は取引の主たる目的の1つであった場合には、新条約の特典は与えられないとする主要目的テストも導入しています。

義務的仲裁制度( 行動14)

第25条第6項は、義務的仲裁制度を明示的に定めており、締約国の税務当局の間で解決されなかった事案について、納税者要請があれば、第三者の仲裁人による決定により2年以内に解決するとしています。

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