財務省が価格調整金の税関への申告漏れ事例を公表

財務省が価格調整金の税関への申告漏れ事例を公表

EY Japanの窓口

EY 税理士法人

2017年3月30日
カテゴリー その他 間接税

Japan tax alert 2017年3月30日号

財務省は2016年11月4日に「平成27事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査1の結果」2,3を公表し、主な申告漏れ等の事例を公表しました。

公表された事例には、価格調整金(インボイス金額以外の貨物代金)の申告漏れが含まれています。日本に所在する輸入者(検証対象会社)に取引単位営業利益法を適用している場合、検証対象会社の利益率を独立企業間価格のレンジに収めるために、輸入貨物の価格を遡及的に上方修正することによって当該会社の利益率を下方修正することがあります。このような場合に、税関に対して該当する輸入貨物に係る輸入申告を修正し、不足している関税と輸入消費税を支払わなければならないケースがあることに留意する必要があります。

財務省が発表した価格調整金の申告漏れにかかる事例は、以下のとおりです。

事例: 輸入者が支払った価格調整金(インボイス金額以外の貨物代金)の申告漏れ

輸入者Aは、米国等の輸出者から医療機器などを輸入しており、Aは、輸出者との取決めに基づき、過去2年の間に輸入した貨物について遡及して価格を見直し、増額となった金額を価格調整金として支払っていました。本来、この価格調整金は課税価格に含められるべきものでしたが、Aは修正申告を行っていませんでした。

その結果、申告漏れ課税価格は198億9,168万円、追徴税額は11億7,634万円でした。

解説

上記のような価格調整金の申告漏れに関する事例は、過去にも財務省により数回紹介されています。

事例では、輸入者Aと輸出者との関係が、移転価格税制が適用になる法人と国外関連者の関係にあるとは明記されていませんが、事例のような状況は、多国籍企業グループで、国外関連者から日本法人(あるいは日本に恒久的施設を有する外国法人)が棚卸資産を仕入れていて、当該日本法人(あるいは恒久的施設)に取引単位営業利益法が適用されている場合に多く見られる事実関係です。

なお、本事例での輸入貨物は関税が無税の医療機器でしたが、有税品であれば関税も追徴されることから、輸入者への影響はより大きくなります。さらに、2011年12月以降、修正申告の期限が3年から5年まで延長されたことに併せて、税関の事後調査の対象期間も3年から5年に拡大される傾向が見られ、対応を怠っていると追徴額がさらに大きくなる可能性があります。

例えば、販売会社Aが米国関連者から食料品(関税率10%)を仕入れて第三者へ販売する取引における、関税と輸入消費税のリスクを解説します。

事実関係は以下の通りです。

  • 販売会社Aの営業利益率の実績値は10%でした(移転価格一括調整前)。
  • 移転価格分析の結果、取引単位営業利益法が適用され、検証対象会社が販売会社Aとされました。
  • 販売会社Aと同様な機能を果たし、リスクを負担する比較対象会社から算定される独立企業原則に準拠する営業利益率の四分位範囲のレンジが8%~3%で、中位値が5%でした。
  • 販売会社Aと米国関連会社は、輸入貨物に係る売買契約の中で、買手である販売会社Aの営業利益率が移転価格分析の中位置になるよう、輸入貨物の価格を調整することを合意していました。4

販売会社Aは独立企業原則に準拠するために、営業利益率を10%から5%に下げるための、遡及的な5億円の移転価格の一括調整を行い、価格調整金を米国国外関連者へ支払いました。

税関は、この移転価格調整金が、輸入貨物にかかる課税価格の調整とみなして、5億円を申告漏れとし、関税5千万円(10%)、輸入消費税4千万円(8%)と、9百万円の過少申告加算税(10%)と延滞税を賦課しました。輸入消費税については、通常税関への納付後、税務当局に更正の請求を行うことにより還付を受けることができますが、関税、過少申告加算税及び延滞税はコストとなります。

税関の事後調査の実施の通知を受ける前に輸入者が自主的に修正申告を行った場合、関税の負担は変わりませんが、過少申告加算税は課せられず、また、延滞税も延滞する期間が短縮されるため減額されます。

なお、同様の価格調整を継続して実施しており、5年目の税関事後調査で発覚した場合には、5年分の申告漏れについて追徴を受けることになりますので、過少申告加算税の有無による影響は決して小さくないと言えます。

図1
  1. 事後調査: 輸入貨物に係る関税等が適正に納税申告されていたかどうかを通関後に確認するための税関による税務調査です。
  2. 財務省「平成27事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」
    http://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/collection/ka20161104b.htm
  3. 2015年7月1日から2016年6月30日までの事業年度
  4. 移転価格の調整を行おうとしている年度の初回輸入の前に、一定の条件下では遡及して価格調整を行うことについて、売手・買手間で合意している必要があります。このような事前合意がないにも関わらず、売買成立後に遡及して価格を変更することができることが、当該価格が売手・買手間の資本関係の影響を受けていることを表している(又は価格が再度変更される可能性も否定できない)として、インボイス価格以外の方法で課税価格を算出することを求められる場合があるためです。このような事態を避けるためにも、移転価格ポリシーや売買契約に関税の観点からの必要事項が記されていることを確認しておくことが望ましいと言えます。

関連資料を表示

  • Japan tax alert 2017年3月30日号をダウンロード