関連当事者間のクロスボーダー融資契約に関するオーストラリア国税庁のコンプライアンス・アプローチ 多国籍企業への多大な影響

関連当事者間のクロスボーダー融資契約に関するオーストラリア国税庁のコンプライアンス・アプローチ 多国籍企業への多大な影響

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EY 税理士法人

2017年5月24日

Japan tax alert 2017年5月24日号

オーストラリア国税庁(以下、「ATO」)は2017年5月16日(火)に、関連当事者間のクロスボーダー融資契約(以下、「CBRFA」)に関するコンプライアンス・アプローチを定めた待望の「コンプライアンス実務指針2017/D4(PCG)草案」を発表しました。PCGは2017年7月1日から、既存及び新規の融資契約に適用される予定です(同公開草案に対するフィードバックの期限は6月30日です)。

ATOはCBRFAを主要な税務コンプライアンスリスクと考えており、PCG草案作成にも長期間かけており、ようやくこの度草案発表となりました。ATOのシェブロン社に対する訴訟に関するオーストラリア連邦裁判所の大法廷の判決を受けての公表となりました。

PCG草案では、ATOがコンプライアンスを強化するために、どの納税者をターゲットにして資源を振り分けることについて示唆されています。しかし、CBRFAに対する正式なセーフ・ハーバー・ルールが定められておらず、またCBRFAの問題点に関する詳細なテクニカル又は法的な分析が記載されていません。

グループ内融資契約に対する影響及び独立企業(アームズ・レングス)原則

ATOのPCG草案(パラグラフ77)では、「関連当事者の債務の価格設定は、借手にとって可能な限り低いオールインコスト(企業が社債などを発行して資金調達するときに発生する費用の合計額)を達成しようとする商業上のインセンティブと合致するものであり、また大抵の場合、資金調達コストは、借手及び貸手がともに帰属するグローバルグループの親会社が、独立企業原則に基づいて、達成できる資金調達コストと同一水準である」ことが期待されています。これらの原則に基づいて、ATOは納税者のCBRFAに係るリスクを判定することになります。PCG草案では、グループ内の融資契約に係る移転価格リスクを評価するための、「グリーンゾーン(低リスク)」から「レッドゾーン(非常に高リスク)」までのロードマップ(工程表)が非常に明確に納税者に対して示されています。ここ3年間で判決が結審又は再審理された、あるいは事前確認制度(APA)の対象となるCBFRAは、追加のリスク評価が不要である「ホワイトゾーン」に分類されます。

さらに、PCG草案では、納税者のCBRFAがPCGの規定による「グリーンゾーン」のリスク評価となるよう改善を促すために、納税者に対して一般的に18カ月間の「恩赦期間」を設けることが想定されています。この恩赦期間内は、国税庁長官が裁量権を行使して、追徴課税や潜在的な納税不足額に対する利息に相当する延滞税の支払い義務を免除することになります。ATOが「レッドゾーン」を下回るリスクレベルと評価される納税者とは、PCG適合のために協調して取り組んでいくことを目指しているという明確な兆候が認められます。

しかしながら、PCG草案には、リスク評価の重み付けという点に関して、多くの納税者にとって予想外となり得る規定が織り込まれています。独立企業原則や過少資本規則に則って構築されたCBRFAを行っている納税者でも「レッドゾーン」のリスク評価に分類される可能性があります。

例えば、借入金利が「参照可能な債務」のコスト(つまり、グループの全世界的な債務の資本コスト、追跡可能な第三者からの債務の資本コスト、借入納税主体の関連する第三者からの債務の資本コスト)を2.01%超上回り、さらに、以下に記載する要因のいずれかが該当する場合には、納税者は「レッドゾーン」つまり高リスクの融資取引を行っていると見做されることになります。

  • 貸出主体が低税率管轄区(つまり、税率が1%から15%以内)の居住者である場合
  • インタレストカバレッジレシオ(つまり、EBITDA(税引前当期純利益+支払利息+減価償却費)÷総支払利息)が3.3未満である場合
  • ギアリング比率(債務比率:自己資本に対する他人資本(有利子負債等)の割合)が60%を上回る場合(つまり、過少資本規則の下でのセーフ・ハーバー・ルール以外の方法を利用している納税者)
  • 融資契約が特殊な条件を付加した複雑な特徴や手段(例えば、利息の支払い猶予、コンバージョン条件、デリバティブ等)を持つ場合

概説したPCG草案の原則はインバウンド(外国事業体からオーストラリアの事業体への融資)及びアウトバウンド(オーストラリアの事業体から外国事業体への融資)の融資取引両方に一貫して適用されることが意図されていますが、一般的に言って、インバウンドの融資契約が「レッドゾーン」に分類・評価される可能性がより高くなるでしょう。

「レッドゾーン」のリスク評価を受けた納税者は、事前確認制度を利用することが許可されないでしょう。ATOは、当該納税者に対しては、リスクをレビューした後、税務調査に直接移り、公式権限を行使して情報収集を行うことを示唆しています。

PCG草案では、PCGの指標を悪用し、融資取引のリスクを高めるような納税者の取り組みについてATOがモニタリングしていくことが記載されています。

法的な契約及び文書化

また、PCG草案では、納税者がCBRFAを裏付ける適切な法的契約書が確実に締結されるようにする必要があることが強調されています。オーストラリアの連邦裁判所の大法廷はシェブロン社に対する訴訟の判決の中で、当事者間の正確な法律関係についての綿密な分析の必要性を強調しています。グループ内契約は、独立した貸手との契約よりも簡潔になってもよいとしていますが、完全なものであり、また関連する融資特約を含め融資契約の条件を正確に反映するものであることが期待されています。さらに、ATOは、CBRFAに係るリスクの水準が高ければ高いほど、期待される契約文書の質は一段と高くなることを期待しています。

さらに、PCG草案では、税務ポジションに関する追加開示様式(Reportable Tax Position)の提出が義務付けられている納税者はPCG評価を開示する必要があることが強調されています。

アクションステップ

PCG、強化されたATOのコンプライアンス・プロセス、及び上記の開示要件を踏まえて、納税者は以下の項目を実施するために、自社のグループ内融資取引を見直すことが強く推奨されています。

  • グループ内の融資契約のリスク評価を行い、融資契約をPCGの規定に適合させるためにリスク改善が必要かどうかを見極める
  • 追加の移転価格文書やその他の補足書類を作成すべきかどうかを検討する
  • 納税者のReportable Tax Position様式上のPCG評価の開示準備をする
  • リスク改善を「PCGを悪用しようとしている」とATOに見なされないよう注意する
  • 公表予定の国際税務に関するATOの追加ガイダンス文書をモニタリングする

税務リスク管理や税務ガバナンスに関する納税者の内部プロセスには、上記の事項に対する対応を明記することが必要になるでしょう。

PCG、貴社の推定リスクスコア及び対応策のご相談については、貴社のEY担当者やお問い合わせフォーム等からご連絡ください。

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