国税庁が同時文書化対象取引に関する個別照会のための相談窓口新設、企業訪問開始

国税庁が同時文書化対象取引に関する個別照会のための相談窓口新設、企業訪問開始

EY Japanの窓口

EY 税理士法人

2017年6月22日
カテゴリー BEPS

Japan tax alert 2017年6月22日号

エグゼクティブ・サマリー

2015年に発表されたBEPSプロジェクトの最終報告書の勧告を踏まえ、日本では2016年度税制改正において移転価格文書化制度¹が整備されました。各国においてもBEPSプロジェクトにかかる法制化が進んでいます。多国籍企業は、これまで以上に詳細な税務情報を世界の税務当局へ提供する必要があり、その多くがローカルの企業活動に関するものです。ローカルファイルの作成を検討している企業の多くが、ローカルファイルの作成に当たり、移転価格の妥当性をどのように伝えるか、またコンプライアンスコストについても苦慮していると考えられます。

このような矢先、国税庁は2017年6月、以下3部から構成される「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」²(以下、「移転価格ガイドブック」という)を公表しました。

  • 「I 移転価格に関する国税庁の取組方針 ~移転価格文書化制度の整備を踏まえた今後の方針と取組~」
  •  「II 移転価格税制の適用におけるポイント ~移転価格税制の実務において検討等を行う項目~」
  •  「III 同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」

移転価格ガイドブックの趣旨は、移転価格税制に関する自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に資するため、2017年7月以降に実施予定の国税庁による新たな取組方針や具体的な施策を告知するためと説明されています。移転価格税務調査や事前確認制度に加え、国税庁はより効率的に移転価格コンプライアンスを向上させることを目指すとしています。

移転価格ガイドブックで紹介された、国税庁により新たに実施される個別照会の相談窓口や企業訪問は、ローカルファイルを作成する際の助言が受けられるという納税者へのベネフィットがある一方、実施において納税者の移転価格情報が税務当局に詳らかにされることになります。また、移転価格は常に相手国が絡むため、移転価格リスクのバランスへの配慮から、国税庁の取組みを実施する国税局による助言を、納税者がどこまで受け入れられるのかについて懸念が広がります。個別照会の相談窓口や企業訪問で助言・指導を受けた場合、申告がその内容に沿っているか国税局によるチェックを受けることを想定して対応することが重要です。個別照会の相談窓口や企業訪問は、移転価格調査を惹起しかねず企業の担当者には慎重な対応が求められます。

詳細

以下、移転価格ガイドブックで解説されている2017年7月より国税庁が新たに実施する取組みの要点を解説します。

1. 同時文書化対象取引に関する個別照会のための相談窓口を全国12カ所の国税局に新設

移転価格文書化の相談窓口(以下、「相談窓口」という)では、窓口担当の職員がローカルファイル作成における機能分析、独立企業間価格の算定方法の選定、比較対象取引の選定、分割ファクターの選定、目標利益率の幅(レンジ)の設定等に関する個別照会について、納税者からの相談に対応するとしています。照会の内容等により、移転価格税制の執行担当部署に所属する職員が面談に同席するなどの対応を予定しているとしています。企業が個別照会を希望する場合には、事前に国税局の相談窓口へ電話し、アポイントメントを取り、面談に先立って、ローカルファイルのドラフト、個別照会事項、照会の対象となる取引の概要などの資料を、郵送等により提出する必要があります。個別照会は、提出資料を前提として職員により口頭で回答されます。照会内容及び回答内容は国税庁により公表されることはないと説明しています。

2. 移転価格文書化制度に関する指導、助言等のための企業訪問の実施

国税局調査部の職員が同時文書化義務の対象となることが見込まれる企業に対して、ローカルファイルの作成状況等の確認を行うため、事前に電話でアポイントメントを取った上、企業を訪問(以下、「企業訪問」という)するとしています。企業を訪問するのは、税務調査ではないと移転価格ガイドブックは説明しています。

職員が企業訪問で確認するポイントは以下の通りです。

  • 移転価格税制全般についての取組状況
  • ローカルファイルの同時文書化対象取引の概要
  • ローカルファイルの作成状況と、既にローカルファイルを作成済みの場合には、ローカルファイルについての記載内容の確認、不備がないか、移転価格税制に即したものとなっているか
  • ローカルファイルの内容等について、企業からの質疑に応答
  • 必要に応じて、移転価格調査での着眼点、想定される指導事項、移転価格ポリシーの策定において留意すべき事項等を助言し、有用と考えられる資料を提供

職員が企業訪問した際に、ローカルファイルが提示されなかった場合でも、企業が罰則や不利益を受けることはないと移転価格ガイドブックは説明しています。また、企業訪問の際に何ら職員から企業が指導を受けなかったとしても、後日、移転価格調査が行われる場合があると移転価格ガイドブックは注記しています。

企業訪問の対象企業は、同時文書が義務付けられる2017年4月以降に開始する事業年度の前年度にかかる別表17(4)等を基に選定されることが予想されます。

3. 移転価格税制の適用基準の明確化と納税者の自主的な検討に資する情報の発信

納税者が自主的に移転価格分野の検討を行う際の参考となるポイントについて事例を用いて解説している「II 移転価格税制の適用におけるポイント ~移転価格税制の実務において検討を行う項目~」が公表されました。また、同時に公表された「III 同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」は、仮装の企業が国外関連者間取引を行う例を用いながら、企業が作成するローカルファイルの全体像と記載事項が分かる作成例を示しています。これまでに国税庁ホームページで公表された、「移転価格文書化制度に関する改正のあらまし」³、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集」⁴を補完する内容です。国税庁は、今後とも、納税者の予測可能性を一層高めるために、OECD移転価格ガイドラインの改訂に合わせ、運用の明確化や情報発信をしていくとしています

4. 各国の税務当局によるCbCレポートの適切な使用等に向けた対応

外国税務当局によるCbCレポートの不適切な使用を体験した企業が、相談窓口に連絡できる体制を整備するとしています。また、国税庁がOECD租税委員会へ外国税務当局によるBEPS勧告等を遵守するよう求めていく際には、企業から相談窓口に寄せられた情報を参考とするとしています。

移転価格調査にかかる国税庁による必要度の判定

移転価格ガイドブックで、国税庁は、納税者の申告状況、過去の調査情報、マスコミやその他の公開情報など様々な情報を活用しており、例として、以下の観点から移転価格調査の対象になる企業を選定していると述べています。

  • 内国法人が赤字又は低い利益水準となっていないか
  • 国外関連者の利益水準が高くなっていないか
  • 国外関連者への機能・リスク移転などの取引形態を変更している一方、それに伴う適切な対価を授受していないことや、軽課税国の国外関連者に多額の利益剰余金が存在すること等により、国外関連者に所得が移転していると想定されないか
  • 国外関連者に所得を移転させるタックスプランニングが想定されないか
  • 過去に移転価格課税を受けているにも関わらず、当事者の利益水準等に変化が見られないなどコンプライアンスに問題が想定されないか
  • 内国法人と複数の国外関連者間で連続した取引(連鎖取引)を行い、利益配分状況や国外関連者の機能などが申告書上では解明できず、確認を要さないか

2017年6月現在、全国の国税局の調査部で160名程度の職員が、主に移転価格税制の執行を担当しています。2017年事務年度⁵では、移転価格税制の執行担当職員の大幅な増員は計画されていません。よって、移転価格ガイドブックにある国税庁の新たな取組みは、急激な変化をもたらすものではなく、2017年事務運営年度以降から徐々に実施されると推測されます。 

影響

企業の移転価格ご担当者には、以下のアクションプランを実施することを推奨します。

  • 同時文書化義務の対象となることが見込まれる規模の取引や、同時文書化義務から免除される取引であっても、移転価格リスクが顕在化する可能性のある取引を洗い出し、対象取引を検討の上、ローカルファイルを作成
  • 移転価格リスクが顕在化する可能性のある取引については、事実関係を整理し、ディフェンス文書を作成
  • 親会社主導で中央集権的にローカルファイルを作成している場合、国税局調査部の職員による企業訪問の際に、日本現地法人の担当者がヒアリングに適切に対応できるよう、担当者は、親会社と協力し、ローカルファイルの内容に精通し、移転価格運営方針・実施についても理解しておくこと
  • 個別照会の相談窓口に訪問する際に、データの提供のみならず、納税者側の事実の解釈を整理の上、本質的な趣意を文書化して個別照会の相談窓口へ提出すること
  •  同時文書化義務の金額基準に満たない国外関連取引を個別照会に持ち出すか、ローカルファイルに含めるべきか、その時期はいつにするのか、風呂敷を広げすぎないよう慎重に考慮すること

巻末注

  1.  2016年4月以降に開始する事業年度から、最終親会社等における直前の会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍グループに対し、国別報告事項(CbCレポート)、事業概況報告事項(マスターファイル)の提出が義務づけられています。また、2017年4月以降に開始する事業年度から前年度に一の国外関連者との間で行った国外関連取引の合計額が50億円以上又は無形資産取引の合計額が3億円以上である法人は、国外関連者との取引について、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(以下「ローカルファイル」という)を確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存することが義務付けられました。   
  2.  国税庁ホームページ、移転価格ガイドブック ~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~、2017年6月、日本語のみ、https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2016/kakaku_guide/index.htm
  3.  国税庁ホームページ、移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし、2016年6月、日本語・英語、
    https://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/takokuseki/index.htm
  4. 国税庁ホームページ、移転価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集、日本語のみ、https://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/takokuseki/index.htm
  5. 2017年7月1日に開始し、2018年6月30日に終了する事務年度

関連資料を表示

  • Japan tax alert 2017年6月22日号をダウンロード