
特別試験研究費税額控除制度ガイドライン(平成29年度版)の公表 成長志向の法人税改革に注目
Japan tax alert 2017年8月3日号
平成29年7月、経済産業省より特別試験研究費税額控除制度ガイドライン(平成29年度版)(以下、「ガイドライン」という)が公表されました。1,2
平成29年度税制改正及びガイドラインの改訂では、特別試験研究費税額控除制度(以下、「オープンイノベーション型」という)が真にインセンティブとして機能するよう、企業等の実務に合わせた運用改善が行われました。
1. オープンイノベーション型の運用改善
平成29年度税制改正及びガイドラインの改訂で行われた運用改善は以下の通りです。
項目 |
改正前 |
改正後 |
契約変更があった場合 |
契約変更があった場合には、その契約変更日以後に生じた費用のみが対象 |
契約変更前に生じた費用であっても、その契約に係るものであることが明らかであり、その費用発生と契約変更日が同一事業年度にあれば対象 |
相手方の確認を受ける場合における費用内訳と領収書等との突合 |
対象費用の額の確認について、費用内訳(明細書)と領収書等との突合が必要と考えられている |
対象費用の額の確認については、領収書等との突合までは求めないことを明確化 |
試験研究費の範囲の拡大 |
共同・委託研究において自社外試験研究費については、税額控除の対象となる費用から一定の費用が除かれている |
「当該研究に要した費用の総額」とすることにより、当該研究に必要な間接経費(光熱費や修繕費等)も含む |
2. オープンイノベーション型の運用改善による企業への影響
これまでオープンイノベーション型については、適用要件が厳しく定められていることから制度の適用を断念してしまうケースが多く見受けられました。平成29年度税制改正によって実務面での手続き負担は軽減され、また税額控除の対象となる費用の範囲についても拡大されました。
(1) 契約変更があった場合
オープンイノベーション型の適用要件の一つに「契約に記載すべき事項」が定められているため、共同研究又は委託研究の契約書が締結された後に記載事項が足りないことが判明したときは、この要件を満たすために契約書の記載事項を補完又は変更する必要があります。
平成29年度税制改正前までは、契約変更があった場合、契約変更日以後に生じた費用のみが税額控除の対象でしたが、税制改正後は契約変更前に生じた費用についても税額控除の対象になることから、オープンイノベーション型の適用を受けるための契約書の見直しを柔軟に行うことができるようになりました。
(2) 費用内訳と領収書等との突合
平成29年度税制改正前までは領収書等との突合作業が必要と考えられ、共同研究又は委託研究の相手先(大学等)において多大な事務負担が懸念されていました。しかしながら、改正後は突合作業が不要であることが明確化されたため、相手先の事務負担が軽減され、協力を得られやすくなると考えられます。
(3) 間接経費を対象とする範囲の拡大
平成29年度税制改正により、自社外試験研究費に係る費用の限定が廃止され、対象費用に間接経費(光熱費や修繕費等)を含むようになりました。間接経費は相当額発生すると見込まれますので、改正前よりも税額控除額が増えると考えられます。
上記のように、実務面での手続き負担の軽減や税額控除の対象となる費用が拡大されたことにより、従前よりもオープンイノベーション型の適用効果、適用可能性が増したと考えられます。共同研究又は委託研究は行っているものの、これまで適用を受けてこなかった企業につきましても、当該改正を機に、改めてオープンイノベーション型の検討を行ってみることが有用といえます。
なおEYでもオープンイノベーション型の適用を受けるためのサービスを提供しておりますので、本サービスに関するご質問・ご意見等がございましたら、お問い合わせください。
1. http://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/29FYguidline.pdf
2. 特別試験研究費の税額控除制度は、大学や国の研究機関、また他企業等との共同研究及び委託研究等の連携について、特に大きなインセンティブを与える制度で、オープンイノベーションの促進に資する政策の一つとして、重要なものとして位置付けられてきました。平成27年度税制改正では、これまで以上にオープンイノベーションを加速するために、制度の抜本的拡充(従来は総額型の一部であった特別試験研究費の税額控除制度を別制度として総額型から切り出し、その控除上限は法人税額に対して5%の恒久措置とする改正)が行われました。