
EU、オンライン取引の新しいVAT規則に合意
Japan tax alert 2017年12月20日号
エグゼクティブサマリー
欧州連合(EU)は、オンライン事業者、特にスタートアップや中小企業の成長を加速させることでデジタル経済を支えることを目的として、物品の電子商取引に係る付加価値税(VAT)コンプライアンス義務を簡素化する新しい規則に合意しました。
当改正は、2021年までに順次発効します。主要な措置には、オンライン販売に係るVAT登録の一元化、EU域外からの22ユーロ以下の小額貨物の輸入に係るVAT免税措置の廃止、及びクロスボーダーの売上が10万ユーロ未満の事業に対する簡素化ルールが含まれます。さらに、大規模なオンライン・マーケットプレイスは、そのプラットフォームにおける売上に係るVAT徴収について責任を有することとなります。
詳細解説
2017年12月5日に開催されたEU財務大臣会議(ECOFIN)において、加盟国は、現在オンラインで事業を行う中小企業が直面しているコンプライアンス負担を軽減するための新たなVATコンプライアンス措置に合意しました。内容は次のとおりです。
- 物品をオンラインで販売する企業は、EU内におけるすべてのVATコンプライアンスを、自国の税務当局により自国語で提供されるデジタルオンラインポータルを通じて処理することができます(ワンストップショップ)。このルールは、電子サービス(eサービス)のオンライン販売事業者向けミニワンストップショップ(MOSS)システムとしてすでに存在しているものです。
- 第三国からの150ユーロ未満の遠距離販売のための新しいポータルが開設されます。
- 大規模オンライン・マーケットプレイスは、そのプラットフォーム上で行われる非EU加盟国の企業によるEUの消費者に対する販売について、はじめてVATを徴収する責任を負います。これには、非EU企業がEU域内の倉庫(いわゆる配送センター)にすでに保管している商品の販売が含まれます。配送センターは、EU内の消費者にVATを不正に賦課せず販売するために頻繁に使用されています。
- スタートアップや中小企業を支援するため、オンライン企業に対する年間1万ユーロのVAT基準額を導入します。EU域内の他の国へのクロスボーダー売上額がこの金額未満の場合、当該取引は国内取引として取り扱われ、自国の税務当局にVATを納付することができます。これは、一元化されたインボイスルールなどの他の取り組みと連携しています。目的は、EU単一市場での取引を可能な限り企業の自国での取引と同様なものとすることです。また、クロスボーダー売上額が10万ユーロ未満の企業は、簡略化ルールの恩恵を受けることができます。
- EU企業にとって不公平な競争と歪曲をもたらしている、EU域外からの22ユーロ以下の小額貨物の輸入に係るVAT免税制度が廃止されます。
これらの措置により、中小企業のコストを大幅に削減し、電子商取引からのVAT税収の増加が期待されています。
欧州委員会は、現在MOSSを適用せずに事業を行っている企業は、その供給先である各加盟国におけるVATコンプライアンスに対して、平均で年間8,000ユーロの費用が生じているとしています。MOSSシステムの拡張によって、企業のコンプライアンス関連コストが23億ユーロ削減される一方で、加盟国のVAT税収は年70億ユーロ超の増収が見込まれます。
新規則は2021年までに順次発効し、VATが最終消費者の加盟国で支払われ、EU加盟国間の公平な税収配分につながることを目指しています。これらは、eサービスの販売についてすでに導入されているEUにおけるVAT徴収の新しいアプローチを確固たるものとし、欧州デジタルシングルマーケット(DSM)戦略の中核となる公約を果たすものです。欧州委員会によるEUのVAT改革に関する直近の提案にあるように、今回の合意はまた、EUの単一VATエリアに係る最終的な解決策の新たな一歩となるものです。