OECDが国別報告書の実施に関する追加指針を公表

OECDが国別報告書の実施に関する追加指針を公表

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EY 税理士法人

2017年12月20日
カテゴリー BEPS

Japan tax alert 2017年12月20日号

エグゼクティブ・サマリー

2017年11月30日に、経済協力開発機構(OECD)は、税源浸食と利益移転(BEPS)行動13国別報告書(CbC報告書又はCbCR)の実施と運用について、税務当局と多国籍企業(MNE)により高い確実性を提供するための指針の更新版を発表しました。

CbC報告書の実施に関する現行の指針の更新版(以下、「本指針」)は、以下を含む多くの具体的な疑問に対応しています(i)公正価値会計に基づいて作成された財務諸表から得られる数値の報告方法、(ii)マイナスの利益剰余金の取扱い、(iii)行動計画13のモデル法令第1.1条「グループ」という用語の定義におけるみなし上場規定の目的、(iv)MNEグループが対象外MNEグループであるかどうかを判断するための連結グループ総収入の定義、(v)短い会計期間、(vi)合併/買収/分割に関連する問題。

更新版は、英語、フランス語、及びドイツ語で入手することが可能です1

詳細解説

2016年6月、OECDは、BEPSプロジェクト行動計画13に基づくCbCRに関する追加的な指針2(以下、「CbCR指針」)を発表しました。OECDはこの指針の更新を、2016年12月3、2017年4月4、2017年7月5、2017年9月6に行いました。

2017年11月30日、さらに5つの新しい質問を追加したCbCR指針の更新版が発表されました。

そのうちの1つに対する質問の回答はより広範囲になり、連結グループ総収入の定義をさらに明確にしています。更新されたCbCR指針では、以下の論点が述べられています:(i)公正価値会計に基づいて作成された財務諸表から得られる数値の報告方法、(ii)表1におけるマイナスの利益剰余金の取扱い、(iii)行動計画13のモデル法令第1.1条「グループ」という用語の定義におけるみなし上場規定の目的、(iv)前年度が12カ月未満の場合、MNEグループが対象外MNEグループであるかどうかの判断、(v)合併/買収/分割の取扱いに関する問題。

公正価値会計

9月の更新では、財務諸表がCbCRテンプレートを完成させるための情報源として使用された場合、適用会計基準に従って作成した財務諸表に示される収益、利益又はその他の収入をすべてCbCRの表1の収益として報告することが明確にされました。本指針では、財務諸表が公正価値会計を使用して作成された場合、財務諸表において収益及び利益として計上された数値は、調整を加えることなくCbC報告書で報告することが明確にされています。

マイナスの利益剰余金

構成事業体が財務諸表においてマイナスの利益剰余金を報告している場合、マイナス数値は修正を加えずに表1「利益剰余金」欄で報告しなければなりません。しかし、同じ国・地域に2つ以上の構成事業体が存在する場合は、マイナスの利益剰余金を他の構成事業体の利益剰余金と相殺する必要があります。この場合について、本指針はBEPSの包括的枠組みの参加メンバーに対し、納税者にCbC報告書の表3に「利益剰余金には、[国・地域の名称]のマイナスの数値が含まれている。」との声明を含めるよう早急に要請することを奨励しています。

みなし上場規定

行動計画13のモデル法令第1.1条「グループ」という用語の定義には、みなし上場規定があります。本指針では、この規定は企業が最終親会社(UPE)となる場合にのみ関係し、税務上の居住者である国・地域で連結財務諸表を作成する必要はないとしています。この場合、グループは、公開証券取引所に上場されている関連企業が作成を義務付けられている連結財務諸表に含まれるすべての事業体を、CbC報告書に含める必要があります。みなし上場規定は、特定の種類の事業体が実際に上場可能であるか否かには関係ありません。

本指針では、「公開企業」及び「非公開企業」の説明にあたり、カナダや米国などの一部の国・地域では、連結財務諸表の提出の必要性を判断する目的で「公開企業」及び「非公開企業」を区別していることを述べています。さらに、公開企業の場合、公開証券取引所に上場している企業を指し、公共機関が保有する企業を指すものではないことを明確にしています。また本指針は、みなし上場規定及び本指針のいずれもCbC報告書を提出する義務の免除を生じさせるものではないと指摘しています。

連結グループ総収入の定義

2017年4月に発表された指針には、連結グループ総収入の定義及びローカルファイリングの要件に関して、MNEグループがCbC報告書の提出義務を判断する目的で行う連結グループ総収入の計算に関し、UPE又は代理親会社(SPE)の国・地域における規則に準拠している場合、その他の国・地域でのローカルファイリングの必要はないことを明記する内容が追加されました。これは、実施指針で補足されているように、UPE / SPEが税務上の居住者である国・地域の規則が、行動13のミニマムスタンダードに準拠する場合にのみ適用されます。

短い会計期間

本指針には、前年度が12カ月未満の場合に、MNEグループが対象外MNEグループであるかどうかの判断に関する新しい質問が含まれていますが、これに対して単一の解決策は示されていません。この問題に対処するには複数のアプローチがあるとし、以下の3つを挙げています:(i)短い会計期間にグループが稼得した実際の連結グループ総収入の使用、(ii)12カ月の会計期間に対応させるための短い会計期間の連結グループ総収入の調整、(iii)短い会計期間に対応した基準額7億5,000万ユーロの比例配分計算。しかし、これらは可能なアプローチの例であり、各国はこれらと異なるアプローチを取ることができます。

この柔軟な対応に関連して、MNEグループが基準額を満たしているかどうかについての見解の相違が生じる可能性があります。例えば、MNEグループのUPEが、上記(i)のアプローチを取る国の居住者であるときに、(ii)又は(iii)のアプローチを取っている1つ又は複数の国・地域に構成事業体を有しているような場合です。このような状況について本指針は、そのような国・地域に対し次のように奨励(要件ではありません)しています。上記(i)のアプローチを選択した国に居住するUPE又はSPEには、その国・地域でCbC報告書を提出する義務はありませんが、自発的にCbC報告書を提出するように奨励し、これを情報交換メカニズムを通して交換することで、(ii)又は(iii)のアプローチを選択する国・地域で構成事業体がローカルファイリングを行わないで済むようにする、というものです。

合併/買収/分割の場合の取扱い

本指針には、合併/買収/分割(事業再編)があった年におけるCbCR提出義務への影響及びCbC報告書に含めるべき情報について、事業再編の取扱いに関する新しいセクションが含まれています。

本指針では、事業再編が起こった年について、グループが除外対象MNEグループであるか否かの判断は、報告対象事業年度の直近事業年度の連結グループ総収入を基準とし、直前事業年度の連結財務諸表に反映された数値のまま調整は不要としています。さらに、CbCRの基本方針は会計原則/基準に従うことであると繰返し強調し、組織再編の影響を受ける年について報告する情報に関し、合併/取得/分割された構成事業体の財務データを関連MNEグループのどの期間のCbC報告書に含めるべきかの判断は、会計原則/基準に従うと説明しています(比例配分又は通年等)。

本指針には、このセクションの適用を説明する5つのファクトパターンが示されています。

  •   ファクトパターン1: 報告対象事業年度(Y1)において、グループがその事業体のサブグループを売却し、そのサブグループが独立したグループとなる場合
  •   ファクトパターン2: Y1において、グループが他のグループを100%取得し、両方のグループが、それぞれ前事業年度(Y0)において連結グループ総収入が7億5,000万ユーロ未満であるため、Y1について対象外MNEグループに該当する場合
  •   ファクトパターン3: Y1において、グループが他のグループを100%取得し、両方のグループが、それぞれ前事業年度(Y0)において連結グループ総収入が7億5,000万ユーロ以上であるため、Y1について対象外MNEグループに該当しない場合
  •   ファクトパターン4: Y1において、グループがその事業体のサブグループを他のMNEグループ(取得MNEグループ)に売却し、取得MNEグループがY1について対象外MNEグループである場合
  •   ファクトパターン5: Y1において、グループが事業体のサブグループを他のMNEグループに売却し、Y1について両方のMNEグループが対象外MNEグループではない場合

今後の影響

OECDが行動13に関する最終報告書を発表して以来、CbCRの要件に関する活動が継続的かつ増加しています。本指針は、CbCRの実施と運用に関して生じた実務的な質問に関するOECDの6回目の発表であり、CbC報告書の内容に関する指針と、適用範囲、基準値及び対象外に関する指針の両方が含まれています。後者は、CbC報告書を提出する必要があるかどうかを判断するため、特に重要です。

本指針に含まれるOECDの公表発表では、CbCRを順守しようとしている税務当局及びMNEグループの両方にとって、当初の報告期間は対応が難しい可能性があると認めており、CbCR関連の義務を順守するための最善の努力を考慮した実務的アプローチが必要であるとしています。これらの課題は、CbCRの世界的環境がより整備され、税務当局とMNEグループの両方が経験を積むにつれて、時間とともに減少するものです。

本指針は、BEPSの包括的枠組みによって合意されるさらなる指針とともに継続して更新される予定です。新しい報告規定や改定規定及び新しい指針に対する各国の実施状況や反応に関して、企業は今後も動向を注視する必要があります。

巻末注
  1. http://www.oecd.org/tax/beps/guidance-on-country-by-country-reporting-beps-action-13.htm
  2. 2016年7月12日付、Japan tax alert、「OECDが国別報告書の実施に関する追加指針を公表」をご覧ください。
  3. 2016年12月19日付、Japan tax alert、「OECDが国別報告書に関する指針を改定、国ごとの実施状況を掲載する新ウェブサイトも開設」をご覧ください。
  4. 2017年4月21日付、Japan tax alert、「OECDが国別報告書に関する指針を改定」をご覧ください。
  5. 2017年8月3日付、Japan tax alert、「OECDが国別報告書の実施指針の更新版を公表」をご参照ください。
  6. 2017年9月21日付、Japan tax alert、「OECDが国別報告書の実施に関する追加指針を公表」をご参照ください。

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