
米国税制改革アップデート 下院案本会議可決
US tax alert 2017年11月17日号
2017年11月16日、米国議会下院は、米国税制改革法「The Tax Cuts and Jobs Act」を227対205で可決しました。上院では財政委員会による法案修正手続き(マークアップ)が継続して行われており、感謝祭後までにはそちらも本会議審査に入る予定です。下院案は、歳入委員会によるマークアップ最後の段階で複数の修正が入り、規定によってはその内容が二転三転したため、最終的な規定が分かり難いケースがあると考えられます。以下に、可決された下院案の骨子を再度お知らせします。上院案が可決された後、法律は両院一致法により調整が行われます。現状の上院案は、下院案とは異なる点も多く、以下の内容がそのまま法律となる訳ではありませんのでご留意ください。
法人税及び事業活動に対する課税
- 個人オーナーが自営業・パススルー主体経由で認識する事業所得は25%課税(人的役務に基づく事業は対象外)
- 法人税率20%(2018年課税年度より)
- AMT(Alternative Minimum Tax: 代替ミニマム税)撤廃
・過去からのAMTクレジット繰越額は、2018年及びそれ以降の課税年度にて他のクレジット適用後の通常法人税額と相殺可
・さらに2019年から2021年課税年度において、AMTクレジット未使用額の50%まで還付可
・2022年にその時点のAMTクレジット残高全額還付
- 2017年9月28日から2022年末までに取得される動産事業資産の100%初年度償却
・納税者にとって新規取得であれば中古資産も対象
- 2018年及びそれ以降の課税年度に発生するNOL(Net Operating Loss: 繰越欠損金)の繰越期限廃止・繰戻撤廃 (小規模事業・災害損失免除あり)
・ 2018年及びそれ以降の課税年度のNOL使用額は繰越年度の課税所得90%上限
・NOL繰越額は、「短期AFR(Applicable Federal Rate: アメリカ合衆国内国歳入庁制定利率) + 4%」で毎期増額(2018年及びそれ以降の課税年度に発生するNOL)
- R&D及び低所得者住宅税額控除温存
- 米国製造者控除(Section 199)を含む多くの他の恩典は撤廃されるが、エネジー関係の一部クレジット温存
- ネット支払利息損金算入制限(小規模事業免除、不動産・ユーティリティー業免除あり)
・Adjusted Taxable Income(EBITDAに相当)の30%を超えるネット支払利息損金不算入
・米国連結納税を行っている内国法人グループにかかわる規定不在
・損金不算入額は5年繰越可
・既存のアーニングス・ストリッピング規定(163(j))は撤廃
- 多国籍企業グループに属する米国法人(又は米国支店)のネット支払利息損金算入制限
・米国法人及び外国法人を含む連結財務諸表を作成している多国籍企業グループが対象(グループ売上が1億米ドル(3年平均)以下のグループは対象外)
・米国連結納税を行っている内国法人グループはまとめて一社扱い
・全世界グループネット支払利息(会計ベース)をEBITDAレシオで米国法人に配賦
・米国法人ネット支払利息(会計ベース)と前述の米国法人配賦額のレシオで損金算入可能%算定(100%上限)
・米国法人ネット支払利息(米国税務ベース)の110%に損金算入可能%を乗じた金額が損金算入額上限
・前述のEBITDA30%制限下と比較し、制限額が大きい方の規定適用
・損金不算入額は5年繰越可
国際課税
- 海外子会社(10%以上投資先)からの配当非課税(テリトリアル課税制度)
- 未配当原資累積額(2017年11月2日又は12月31日時点どちらか大きな額)に一括課税
・14%(事業資産に再投資されているケースは7%)
・8年間の分割納付可能
・部分的に外国税額控除あり
- 海外子会社(50%超投資先)の高収益所得に対して米国株主側で即時課税
・課税部分に対応する外国法人税80%を上限に外国税額控除あり
- 米国法人(又は外国法人の米国支店)がIFRG内の米国外関連会社に行う「特定支出」に法人最高税率(法改正後は20%)でペナルティー課税(特定支出が1億米ドル以下(3年平均)のケースは免除)
・IFRG(International Financial Reporting Group)は、連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ
・特定支出には費用項目ばかりでなく、棚卸資産の仕入れ、資産取得コストも含まれる(支払利息、コモディティ・債券取得コスト、マークアップなしのサービス費用は対象外)
・受け手の外国法人がECI(Effectively Connected Income: 米国に事業活動があり、その事業活動に実質関連している所得)として申告している金額は対象外
・30%源泉税対象となる支出は対象外(条約で源泉税が低減されている場合には、低減相当分額が特定支出扱い)
・法人税算定目的で損金不算入
・外国法人が特定支出を、米国事業所得(ECI又はPE(Permanent Establishment: 恒久的施設)帰属所得)として申告課税扱いする選択可能(費用実額は損金不算入だが経費相当みなし額の控除あり)
・当選択下では特定支出は「みなしPE」に帰属すると扱われるため条約適用不可
・経費相当みなし額は、全世界グループの該当プロダクトラインの会計上の米国外利益率(金利・税金前)を基に算定
・特定支出に対する外国税金は80%を上限に外国税額控除可能
・2019年1月1日及びそれ以降の支出に適用
個人所得税
- 現状の7税率区分を12%、25%、35%、39.6%の4区分に簡素化
- キャピタルゲイン及び適格配当の低税率はそのまま
- 標準控除額を独身申告12,000米ドル、夫婦合算申告24,000米ドルと倍増
- 住宅ローン金利個別控除を50万米ドル、新規取得物件に対するものに限定
- 不動産・動産税個別控除は10,000米ドルを上限に温存
- 慈善団体への寄付金個別控除温存
- 人的控除撤廃
- 子女税額控除を一人当り1,600米ドルに増額
- 子女以外の扶養家族税額控除300米ドル
- 代替ミニマム税(AMT)撤廃
- 401(k)、IRA、を含む退職金プランは温存
- 現存のその他控除撤廃
遺産税・Generation Skipping Transfer Tax
- 非課税枠を増額した上で2025年より撤廃