2021年1月に公表された外貨管理局の「サービス貿易外貨管理政策Q&A(二)」とその後の移転価格調整金に関する実務状況

Japan tax alert 2021年4月23日号

概要

2021年1月19日付で中国の国家外汇管理局は、「サービス貿易外貨管理政策Q&A(二)」(以下、「Q&A」)を公表した。当該Q&Aは、2020年8月31日に公布された「国家外貨管理局による『経常項目の外貨業務ガイドライン(2020年版)』の公布に係る通知」(匯発[2020]14号)に対する政策に係るQ&Aの位置づけである。

当該Q&Aには、国家外貨管理局の移転価格調整金に対する関心と問題意識が表れている。移転価格調整の実行プロセスについては、これまで同様、周到な準備と交渉が求められるものの、当該Q&Aの公表により、各地の外貨管理局や外貨取扱い銀行の移転価格調整金についての認識の向上には一定の効果があったと思われる。

Q&Aの内容及び実務運用

今回公表されたQ&Aにおいて、移転価格方式に基づく利益補償の外貨の受払いの取扱い業務については、「銀行は、税務当局もしくは税関当局の関連する書面資料、利益調整に係る契約書、インボイス等の資料を審査し、取引の真実性、コンプライアンス及び外貨の受払いとの一貫性について合理的な審査を行い、元の貿易方式(貨物貿易またはサービス貿易)に基づいて関連する外貨の受払いに係る業務を処理する」とされている。ただし、具体的な審査プロセス、審査にあたっての可否の判断基準については、言及されていない。

現在、外貨管理局は税務局及び税関と共に、移転価格調整金に係る具体的なプロセスについて議論している段階である。今回のQ&Aの公表後、現時点において、移転価格調整金の送金、受領の手続きの実行方法とプロセスを明確にした規定やガイダンスはない。そのため、外貨取扱い銀行において、企業が価格調整金の受領、送金手続きを行おうとしても、個別の外貨取扱い銀行の理解やこれまでの取扱い事案、当該Q&Aについての銀行側の解釈等により、手続きが滞る状況が生じうる。

そのため、当該Q&Aにより、従来と比べれば、より企業側が説明をしやすい環境へ一定の前進はあったものの、企業が実際に移転価格調整を実行しようとする場合、移転価格調整金に係る税務・移転価格税制上の概念、企業の移転価格ポリシー、算定される移転価格調整金の位置づけ、企業の財務諸表への影響等を説明する必要がある。さらに、特にこれまで移転価格調整の取扱い実績のない外貨取扱い銀行で当該調整を実行しようとする場合には、銀行における内部処理プロセスが円滑に進むよう、実績のある専門家からアドバイスしなければならないことに変わりがない。

海外から中国側が移転価格調整金を受領する場合(着金)

中国においては、海外への外貨送金のみならず、海外からの外貨受領についても、移転価格調整金については、外貨取扱い銀行で審査を行わなければならないとされている。この点については、Q&Aの公表後も変わりがない。そのため、外貨取扱い銀行は、移転価格調整金の着金手続きを行うにあたり、審査を行い、その履歴を残しておく必要がある。ただし、送金を受ける外貨取扱い銀行としては、移転価格調整金は、輸出通関書類の付された貿易項目、サービスやロイヤリティ等の契約書に裏付けされた一般的な非貿易項目、資本金等に係る資本項目のいずれにも該当せず、また、マネーロンダリングの防止のための対応を十分に講じるための実務処理に係る具体的なガイダンスもない。そのため、企業は、移転価格調整金の受領にあたり、予め外貨管理局や外貨取扱い銀行に説明をし、具体的な手続きプロセスを交渉しておくこととなる。

特に、一般的に、外貨取扱い銀行の初期回答としては、今回のQ&Aでも掲げられている「税務当局もしくは税関当局の関連する書面資料」の提出を求めるケースも散見される。税務当局が移転価格にかかる調整金額を記した書面資料には、移転価格調査の結果にかかる『特別納税調査調整通知書』が考えられるが、調査課税を経ての対応となれば、移転価格リスクの低減という企業の本来の移転価格調整金の受領の目的を達成したことにはならなくなる。また、事前確認制度(APA)による税務局と企業との合意に基づく『事前確認制度にかかる追納(還付)税額通知書』についても同様に、事前確認制度(APA)の申請にかかる事務負担を軽減させながら移転価格対応をするという移転価格調整金の趣旨から見ると本末転倒となる。さらに、税関当局の書面資料としては、輸入通関申告書が考えられるものの、移転価格調整金の着金については、後述する送金とは逆に、輸入通関評価額の遡及的な引き下げとなり、関税の還付ポジションとなることから、税関との交渉のハードルは相当に高い。

しかしながら、EYは、移転価格調整金の受領につき、上海、北京、浙江省、天津等の各地において、多くの成功事例がある。

現時点までの移転価格調整金の受領の成功事例においては、一般的に、たとえば、次の資料を求められた。ただし、具体的な要求資料については、個別に外貨管理局及び外貨取扱い銀行と確認する必要がある。

  • 大手国際会計事務所が発行、若しくはレビューした監査報告書(移転価格の一括調整の内容を含む)
  • 大手国際会計事務所が作成した移転価格同時文書(移転価格の一括調整の内容を含む)
  • 大手国際会計事務所からの推薦状
  • 移転価格の一括調整に係る状況説明書
  • 移転価格の一括調整に関する記載がある契約書等

なお、移転価格調整金の受領にあたっては、送金を行う国外関連者側における税務(寄附金)、移転価格税制についても十分に対策を練っておく必要がある。

中国側から海外に移転価格調整金を支払う場合(送金)

Q&Aの公表後、現時点においても、中国から海外への移転価格調整金の非貿易支出としての一括送金については、実務上のハードルが高い状況が続いている。

そのため、移転価格ポリシーに基づく所得配分となるよう、中国現地法人の利益水準を引き下げる必要がある場合には、非貿易支出に係る一括送金とはせず、個別の貿易取引の遡及的な見直しとして実務対応することが考えられる。

たとえば、EYには、中国側が海外から仕入れる貨物の価格を遡及的に引き上げるため、税関と交渉し、すでに輸入通関済みの貨物の通関評価額の修正申告を行う形式により成功した事案がある。

ただし、各事案により、移転価格調整金に係るアレンジメントは異なり、また、所轄の税関により、実務上の取扱いや運用が異なる部分もある。税関との交渉にあたっては、実行が可能となるよう税関における具体的な実務処理の可能性を把握しながら、企業の移転価格ポリシーを実現しなければならない。そのため、実行にあたっては、その可否や具体的な方法につき、個別事案ごとに具体的な確認を要することとなる。

移転価格調整を実行する際の対応方法は個別の事案により異なるため、日本のご本社と中国現地法人との間の移転価格調整の実行についてご検討される際には、必要に応じてご相談ください。

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。


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