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2021年5月3日、インド税務当局1は、2018年にインド租税法(ITL)で導入された非居住者を対象とする「重要な経済的存在」(significant economic presence、以下「SEP」という)に基づく新たなネクサスルールについて、その適用における収益額およびユーザー数の基準値を定めた通達2を公表しました。
通達では、インド国内の者への販売による収益額の基準値を2,000万インドルピー(28万米ドル)、インドのユーザー数の基準値を30万ユーザーと定めています。これらの基準値のいずれかを超過した非居住者にはSEPルールが適用され、インドにおける課税が生じることになります。
本アラートでは、最新の動向および非居住者納税者への影響を要約しています。
世界的なテクノロジー革命によってビジネス環境が変化し、事業体は、物理的なプレゼンス(存在)を置くことなしにあらゆる場所でビジネスを行えるようになりました。かかるテクノロジー環境の変化に応じた租税ルールの改定の必要性を踏まえ、デジタル経済への課税問題は、世界中で、税源浸食と利益移転(BEPS)をめぐる重要な懸念事項の一つに挙げられています。OECD3とG204のBEPSプロジェクトでは、多国間の一貫した対策についての議論が進められています。
こうしたBEPSをめぐる議論に従い、インドは2018年に、インド租税法における課税可能性の判定に関わる「事業関連性」(business connection)の概念を拡大し、SEPに基づく新たなネクサスルールをこの概念の一部に含めました。
このSEP規定では、以下の条件のいずれかを満たした場合、インドにおける「事業関連性」が生じます。
SEPの認定は、以下と関わりなく行われます。
非居住者のインドにおけるSEPが認定されると、当該非居住者の所得のうち上記の条件1)または2)に該当する取引または活動に帰属する部分が、インドにおいて課税対象となります。なお、上記の条件1)または2)に該当する取引および活動に帰属する所得には、以下から生じた所得も含まれます。
SEP規定は、当初2018-19課税年度からの適用を目指していましたが、デジタル経済への課税に関する国際的な議論の進展を考慮して適用開始が延期された後、2021-22課税年度からの適用が決まりました。
インド税務当局が今回公表した通達では、SEP規定の適用にあたっての収益額およびユーザー数の基準値が以下のとおり定められています。
これらの基準値は、SEP規定の発効日に沿って、2022年4月1日に(すなわち、2021-22課税年度から)効力を生じます。
インド税務当局は、収益額およびユーザー数の基準値を定めた今回の通達により、SEP規定を実施可能な段階に推し進めました。SEP規定の文言は広範であり、デジタル形式によらない従来型の取引および活動にも影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。加えて、基準値に関する文言から生じる実務的な問題として、例えば(1)収益額は何に基づいて決められるか(総額か、それとも売上返品や割引等を控除した純額か)、(2)ユーザー数は何に基づいて決められるか(インドの居住者か、それともインドのIPアドレスの使用者か)、(3)アクティブユーザーとパッシブユーザーの間に何らかの区別を設けることが可能か、等の多くの問題が挙げられます。インドの業界がインド税務当局に働きかけ、さまざまな実務的側面に関して追加的な指針を得ることが必要になる可能性があります。
「事業関連性」の対象範囲が拡大されても、伝統的な恒久的施設の定義に従う租税条約が無効化されたわけではありません。しかし、インドとの二国間または多国間租税条約を締結していない国・地域に居住する非居住者納税者や、租税条約の恩典に適格でない非居住者納税者にとって、この概念をめぐる展開は重要です。
インドで課税が生じると収益の支払者は納付すべき税額の源泉徴収が必要となり、非居住者は税務申告書を提出する必要があります。源泉徴収義務を遵守しなかったインドの支払者は、損金算入の否認および利子税・ペナルティの賦課を受ける可能性があります。さらに、インドの支払者は、当該非居住者の連帯納税義務者とみなされるリスクを負う可能性があります。また、SEPにおける所得の帰属原則に関する指針が示されていないことから、支払者が源泉徴収規定の遵守にあたって税務当局と話し合い、課税対象とみなすべき適切な金額を確定する必要が生じる可能性があります。
加えて、非居住者納税者は、平衡税(equalization levy)とSEPとの相互関係についても検討する必要があります。
本アラートの詳細は、2021年5月10日付EY Global Tax Alert 「India issues thresholds for triggering “significant economic presence” in India」(英語のみ)をご覧ください。
巻末注