組織再編成があった場合の研究開発税制の調整計算に関する経過措置 ~認定申請等の提出を失念していた場合でも提出可能に~

Japan tax alert 2021年6月3日号

エグゼクティブサマリー

Ⅰ.はじめに

令和3年度税制改正で研究開発税制の対象となる試験研究費の範囲が変更されました。具体的には、自社利用ソフトウェア製作費などが新たに対象になる一方で、リバースエンジニアリング費用が対象から除外されることが明確化されました。

この改正に伴い、過去3年以内に組織再編成があった場合の比較試験研究費の額および平均売上金額の調整計算や試験研究用資産の移転を受けていない場合の届出について経過措置が設けられています。

特に注目すべきは、過年度において、本来の提出期限(組織再編成があった日から2月以内)までに税務署長に対する認定申請や届出を失念してしまった法人であっても、本経過措置により改めて認定申請または届出が可能となっている点です。当該認定申請や届出を失念してしまったために、試験研究費の税額控除額が少なくなっているケースもあるため、是非この機会に経過措置の適用について検討することをお勧めします。

また、令和3年度税制改正で創設された、コロナ禍において売上が減少したもののうち試験研究費を増加させた場合の試験研究費の控除上限(調整前法人税額に一定の率を乗じたもの)の5%上乗せ措置に対する経過措置も規定されていますので併せてご確認下さい。

Ⅱ.経過措置の内容

研究開発税制の税制改正に伴う経過措置は、既存の組織再編成の調整計算に関する経過措置と、今回、新たに創設された控除上限の5%上乗せ措置に関する経過措置の2種類で構成されています。

1.既存の組織再編成の調整計算に関する経過措置

試験研究費の税額控除額を計算する場合、過去3年以内の事業年度(以下、「比較年度」という)において会社分割または現物出資(以下、「分割等」という)が行われているときは、分割法人または現物出資法人(以下、「分割法人等」という)の試験研究費の額を分割承継法人または被現物出資法人(以下、「分割承継法人等」という)の試験研究費の額に加算することが原則とされています。この場合、分割法人等の試験研究費の額から控除される金額はありません。

この原則に対して、分割等の日から2月以内に移転試験研究費の額を合理的な方法で区分することの認定申請を行い、税務署長の認定を受けたときは、その合理的な方法に従って計算した試験研究費の額を分割承継法人等の試験研究費の額に加算し、さらに当該加算額を分割法人等の試験研究費の額から控除することができる特例があります。

今回の税制改正により試験研究費の範囲が変更されたため、比較年度における移転試験研究費の額に変動が生じる場合があります。

これに対応する経過措置として、比較年度中に分割等を行っている場合で、税制改正により比較年度の試験研究費の額に変動があるときは、令和3年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日から6月以内に改正後の試験研究費の範囲に基づいた認定申請および届出を税務署長に対して行うことができる経過措置が設けられています。

当該経過措置への対応について、組織再編成の種類別にまとめたものが図表1になります。特に「要提出」についてはご留意いただき、「新たに提出可能」となっている部分については検討をお勧めします。

図表1 既存の組織再編成の調整計算に関する経過措置

2.控除上限の5%上乗せ措置に関する経過措置

令和3年度税制改正でコロナ禍における特例措置として、売上金額が基準年度に比べて2%以上減少したにもかかわらず試験研究費の額を基準年度より増額させた場合に、控除上限を5%上乗せする制度が創設されました。

比較対象となる基準年度の売上金額と試験研究費の額についても組織再編成があった場合には一定の調整を行うことになっており、例えば分割があった場合には、分割法人においては基準年度の売上金額を零とする一方で、分割承継法人の調整は行わないことが原則とされています。

ただし、分割の日から2月以内に移転事業に係る売上金額を合理的な方法で区分することにつき認定申請を行い、税務署長の認定を受けたときは、合理的な方法に従って移転事業に係る売上金額を区分して両社に配分する計算ができる特例があります。

控除上限の5%上乗せ措置は、令和3年4月1日以後最初に開始した事業年度から適用開始となるため、それ以前に組織再編成が行われていた場合には税務署長への認定申請および届出を行う機会がないことになります。そこで控除上限の5%上乗せ措置についても、令和3年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日から6月以内に認定申請および届出を税務署長に対して行うことができる経過措置が設けられています。

また、控除上限の5%上乗せ措置に関する経過措置は、分割以外にも現物出資、現物分配について設けられており、これらの取扱いを一覧にすると図表2のとおりです。

図表2 控除上限の5%上乗せ措置に関する経過措置

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