英国、2022年度財政法案の草案を発表

Japan tax alert 2021年8月5日号

エグゼクティブサマリー

2021年7月20日、英国政府は、別途協議される二次法案とともに、2022年度財政法案の草案を発表しました。財政法案に含まれる措置に関するコンサルテーションは2021年9月14日まで行われます。同時に、所得税の基準期間の変更に関する新たなコンサルテーションに併せて、コンサルテーション文書とその他の税務政策の立案に関する最新情報も発表されました。

本アラートでは、主要な提案のいくつかをご紹介します。

詳細解説

不確実な税務処理(Uncertain tax treatments、以下「UTT」)

法人税、付加価値税(VAT)、所得税(PAYE - Pay As You Earn(源泉課税)を含む)に関する「不確実な税務処理」につき、英国歳入関税庁(HMRC)が大企業(会社およびパートナーシップ)に対して通知を義務付ける要件について、条項案が発表されました。提案された措置に関する最近の2回目のコンサルテーションに対する政府の回答も7月20日に発表されました。その回答の中で、政府は、7つの別々の「トリガー」に基づいて提案されたUTTの定義は広範であり、企業にとって新たな管理上の負担となる可能性があるという多くの利害関係者からのフィードバックを認めました。

現在公表されている条項案に反映されている主な変更点は、提案されているUTTの定義が、(従来の7つのトリガーではなく)3つのテストのうち1つが満たされた場合に適用されることです。最初の2つのテストは、以前に提案されたトリガーに基づいており、税務処理に関して決算書上で引当金が認識されている場合(たとえば、法人税の場合はIFRIC23に基づきます)、またはHMRCにより通常用いられる法解釈に反した処理が行われている場合に適用されます。

2つ目のテストに関して、条項案では、HMRCの「既知の立場(known position)」とは、HMRCガイダンスやその他のHMRC公表資料、またはHMRCとのやりとりから明らかになるものであると規定しています。2回目のコンサルテーションでは、企業にとっての確実性を高めるために、HMRCがこれらの目的のために参照される公表文書の網羅的なリストを提供すべきであるという意見が利害関係者から出されました。しかし、HMRCがそのようなリストをHMRCガイダンスに盛り込むかどうかは分かっていません。

新たに導入された3つ目のテストでは、法廷や裁判所で決定された場合で、その処理が妥当でないと判断される「実質的な可能性」がある場合、その処理は「不確実」であると認められるとしています。この新たなテストは広範囲にわたって適用される可能性があり、適用に際して確実性を担保するのは難しいと思われます。

草案では、500万ポンドの通知基準額の適用案を詳細に説明しています。この基準額は、3つの関連する税金のそれぞれに個別に適用されますが、これらの目的のために実質的に同様の処理が集約されます。また、提案されている免除規定の詳細についても説明されています。想定の範囲内としては、HMRCが不確実性をすでに認識している場合には(たとえば、カスタマー・コンプライアンス・マネージャー(CCM)とのリアルタイムの話し合いを通じて)、一般的な免除規定が適用されることです。政府は、CCMのいない企業がこの免除規定の適用を受けるために、HMRCと不確実性について話し合うルートを提供することを確認していますが、このプロセスの詳細は公表されていません。さらに、特定の移転価格処理や、(法人税のみ)特定のグループ内取引についても免除規定の適用が受けられます。

管理面では、税目ごとに別個に通知が必要となり、既存の申告サイクルに合わせることが確認されています。ただし、通知の形態や記載すべき情報の詳細については、まだ確定していません。

政府は、この法律が2022年4月1日以降に提出される申告書に適用されることを意図しています。このスケジュールを考えると、通知義務は今期に発生した取引や処理に適用される可能性があります。企業は、まだ準備をしていない場合、これらの規則の適用に向けて準備を始めることが重要です。

適格資産保有企業(以下、「QAHC」)

政府は、資産保有会社の拠点としての英国の魅力を高めるために、QAHCとその支払いの一部に対する課税の新ルールを導入する改革を提案しています。草案には必要な規定のすべてが含まれているわけではなく、印紙税や印紙保留税(SDRT)など、以下の項目のいくつかを対象とする措置がまもなく検討されます。新しい規則が施行されるのは、法人税、印紙税およびSDRTについては2022年4月1日、所得税およびキャピタルゲイン税については2022年4月6日に予定されています。

QAHCは以下の条件を満たす必要があります。

  • 不特定多数の者に保有されるファンドが70%以上を保有していること - これらのファンドは規制対象となるマネージャーまたは特定の機関投資家(パーセンテージテストはグループリリーフ規則をモデルとしていますが、追加要件があります) - もしくは機関投資家(ソブリン・ウェルス・ファンド、年金基金など)および英国不動産投資信託(REIT)によって運営されていること
  • QAHCが、投資家と原資産との間での資産、所得、利益の移動のために存在していること
  • QAHC制度は選択制で、以下のような内容になると思われます。
  • QAHCによる特定株式や海外不動産売却益の非課税
  • 海外の国地域で課税対象となるQAHCの海外不動産事業の利益の免税
  • 通常は配当として損金算入が認められない特定の支払い利息の損金算入を認める
  • 利息支払遅延規則を変更し、一定の状況であれば、支払基準ではなく発生基準でQAHCの支払利息の損金算入を認める
  • 利息の支払いがQAHCの投資家に対するものである場合、その支払いに係る基礎税率による所得税の源泉徴収義務を免除
  • QAHCが個人から自己株式を取得する際に支払うプレミアムは、投資からの収入ではなく資本から得られるものであると広く考えられるため、所得分配ではなく資本の分配として扱う
  • QAHCによる自己株式の取得や借入資本償還時の印紙税やSDRT免除

QAHCの地位から生じる税制上の優遇措置は、適格な投資活動にのみ適用されます。QAHCが行う限定的な取引活動や適格でない投資活動の税務上の取り扱いは、QAHCであったとしても通常どおりの取扱いによって課税の有無を判断します。

なお、新しいQAHCに関する規則を反映してREITの規則も変更されますが、これは新しいQAHC制度の導入によって不要となったいくつかの制約や管理上の負担を取り除くことを目的としています。具体的には、一部のケースにおけるREIT 株式の取引要件削除、英国 REIT に相当する海外 REIT の定義の修正、特定の投資家に対する法人税の「権利過大保有者」課税の削除、REITが不動産賃貸業に適切に集中していることを保証するためのルール変更などが含まれます。同法案は、2022年4月1日に施行されます。

QAHC制度は、既存の英国の税制の枠組みの上に、単に免除規定の適用を独立して設ける制度であることから、納税者は適用基準を詳細に検討することが大切です。この法案はコンサルテーションやフィードバックに基づいて検討され、今後数カ月間で練り上げられて行きます。

ハイブリッド・ミスマッチ

2020年に行われた大規模なコンサルテーションを経て、政府はハイブリッドおよびその他のミスマッチに関する規則のいくつかの変更案を発表しました。今回発表された変更点の1つは、ハイブリッドに関する法律を改正し、米国の有限責任会社(LLC)など、本国では透明であると見なされる特定の種類の事業体にも、パートナーシップと同様に適用するというものです。2021年度財政法案における当初の修正案は有効ではなかったため、国王の裁可を経ることなく財政法案から削除されました。

この問題に対処するため、2022年度財務法案では、ハイブリッド事業体の定義を変更する代わりにTIOPA2010の第7章パート6Aの関連部分で、特定の事業体をパートナーシップとして扱うことを規定する変更が提案されています。これらの変更は、最終的に制定されれば、HMRCに選択を提出する必要なしに、2017年1月1日に遡って効力を発揮します。

法案を最初に検討する際には、特に規則の強制的な遡及適用を考慮して、特定の状況に対する規則案の影響を評価するための注意が必要です。


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