米国、バイデン政権増税案「下院歳入委員会」条文ドラフト公開
Japan tax alert 2021年9月27日号
2021年9月13日、米国連邦下院のWays & Means Committee(「歳入委員会」)はバイデン政権増税案「Build Back Better Act」に係わる条文ドラフト(「条文ドラフト」)を公開しました。
公表済みのホワイトハウス予算案、財務省「グリーンブック」(General Explanation of the Administration's Revenue Proposals)、連邦上院財政委員会の幹部による提案と方向性は似ているものの、詳細は異なる部分が多く、今後の審議の行方が注目されます。現時点では、最終的な税制改正法案がどのような形となるかは不明です。
条文ドラフトに記載されている増税案のうち、日本企業の関心が高いと思われる法人税関連条項の概要は次の通りです。なお、以下の内容は現時点での解釈に基づくものであり、今後の検討で解釈が変わる可能性があることをお含みおき下さい。
法人税率のトップレート26.5%への引き上げ2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用。 暦年以外の課税年度を採択している法人の暦年2021年中に開始する課税年度には日割計算に基づく混合税率を適用(例:3月決算法人の場合、2022年3月期は22.36%(= 21% × 275/365 + 26.5% × 90/365)。 累進税率が復活し、課税所得$400Kまでは18%、$5Mまでは21%。課税所得が$10Mを超えると低税率区分の恩典は徐々にフェーズアウト。 内国法人からの受取配当に対する内国法人間配当所得控除率は、控除後の実効税率が現行と同じになるよう引き上げ。
支払利息損金算入制限多国籍グループ(米系・外資系を問わず)に属する大規模米国法人にグローバル全体のレバレッジが過度に米国に集中している際に適用される新制限規定(163条(n))を導入。 具体的には、グローバル連結財務諸表で認識されるネット支払利息をEBITDAベースで米国法人に配賦した金額を「米国配賦額」とし、米国配賦額が米国法人の財務諸表上計上されるネット支払利息に占める割合を「配賦%」とする。米国税法上認識されるネット支払利息に配賦%の110%を乗じた金額が損金算入上限額。 グローバル連結財務諸表ベースのEBITDAがマイナスの場合は163(n)条の適用なし。米国法人のEBITDAがマイナスの場合には配賦%はゼロ。 163条(n)は、該当課税年度を含む過去3年間の平均ネット支払利息が$12Mを超える法人に適用。S法人、REIT、RICは免除。また、該当課税年度前の過去3年間の平均総売上が$25M以下の法人は小規模免除。$12M基準の判定はグローバル連結財務諸表グループに属する米国法人の合算ベースで行い、$25M基準の判定は50%超の資本関係にある共通支配下グループ(米国内外の法人を含む)の合算ベースで行う。外国法人への163条(n)の適用はECI部分に限定。 EBITDA(2022年からEBIT)の30%をネット支払利息の損金算入上限とする現行の163条(j)のパートナーシップおよびS法人への適用については、パートナーおよびS法人株主レベルでの適用に変更。 163条(j)および(n)で損金不算入となる金額は5年間繰り越し。繰越額は適格組織再編等を通じて存続法人に引継ぎが可能となる一方、50%超の法人所有権変動時に適用される税務上の属性の使用制限の対象となる。 2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用。
Global Intangible Low-Taxed Income(GILTI)改正当初2026年から予定されていたGILTI控除%の50%から31.5%への減額を2022年に前倒し適用。結果として外国税額控除前のGILTI実効税率は10.5%から16.56%へ引き上げ(法人税率26.5%の場合)。 GILTI控除の課税所得制限は撤廃され、GILTI控除が課税所得を上回る場合には超過額がNOLに加算される。 GILTIをCFC課税ユニットの税務上の居住地に基づき国別適用。Tested IncomeとTested Lossの相殺、みなしルーティン所得計算時の有形償却資産簿価(QBAI)およびCFC特定支払利息、外国税額控除、全ての金額を国別に管理。課税ユニットの定義は外国税額控除の規定と同じ。 国別適用に基づき、特定の国で特定の課税年度にTested LossがTested Incomeを上回る場合には超過額を無期限に繰り越し。GILTI合算額をTested Incomeの比率で各CFCに配賦する際、各CFCのネットTested Loss使用額を加味。繰越額は50%超の法人所有権変動時に適用される税務上の属性の使用制限の対象となる。 みなしルーティン所得の除外額は温存されるが、QBAIの10%を5%に減額(特定支払い利息マイナス前) 米国外石油・ガス採掘所得のTested Income除外規定廃止。 2022年1月1日以降に開始するCFC課税年度から適用。
Foreign-Derived Intangible Income(FDII)改正FDIIは制度温存の上、当初2026年から予定されていたFDII控除%の31.5%から21.875%への減額を2022年に前倒し。結果としてFDII実効税率は13.125%から20.7%へ引き上げ(法人税率26.5%の場合)。 2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用だが、暦年以外の課税年度を採択している法人の暦年2021年中に開始する課税年度には混合控除率を適用(例:3月決算法人の場合、2022年3月期は33.65%(= 37.5% × 275/365 + 21.875% × 90/365)。 FDII控除の課税所得制限は撤廃され、FDII控除が課税所得を上回る場合には超過額がNOLに加算される。 FDII算定時の「Deduction Eligible Income(DEI)」の定義から「配当、利子、賃貸、ロイヤルティまたそれらの所得を生み出す資産譲渡益等の受動的所得」、「QEF選択に基づくPFIC所得」等を除外。
CFC米国税務目的のCFC課税年度は50%超持分を所有する米国株主の課税年度に合致する必要がある。当該要件にはCFCの課税年度の1か月前倒しを選択することができる例外規定(例えば、米国株主が12月決算の場合、CFCは11月決算を選択可)が設けられていたが、当該例外規定を撤廃。 2021年12月1日以降に開始するCFC課税年度から適用。
外国税額控除外国税額控除限度額(全体枠および各バスケット枠)を国別に算定。 CFC、パートナーシップ持分、支店等を課税ユニットとし、各課税ユニットが税務上の居住者となる国を特定し、国単位で限度枠を計算。課税ユニットが認識する所得項目はいずれか一つの課税ユニットのみに属するものとする。 米国外支店バスケットを廃止。 限度枠外の超過外国法人税の繰り戻し制度廃止。繰り越し期間を10年から5年に短縮。GILTIバスケットにも他のバスケット同様に繰り越しを規定。 GILTIバスケットの間接外国税額控除対象となるCFCの法人税をTested Incomeに帰属する金額のみでなくTested Lossに帰属する金額も含むよう拡大し、さらに80%制限を95%に増額。 在米日本企業のような米国へのインバウンド企業に関して、80%以上の議決権または価値を所有する米国外の親会社レベルで米国傘下のCFCのTested IncomeまたはTested Lossに帰属するものとして取り扱われる法人税は、財務省規則が規定する範囲でGILTIバスケットの外国税額控除対象法人税とする(CFCの法人税と同様に実額の95%を対象とし、CFCの合算%ならびに国別制限を適用)。米国外の国で外国税額控除の対象となる金額は対象外。在米日本企業に関しては、日本がOECDピラー2のIncome Inclusion Ruleを導入する際に関係。 間接外国税額控除を算定する際に求められる対象法人税のグロスアップは、関連法人税と同じバスケットに属するものとする。GILTIバスケットに属する法人税のグロスアップがみなし配当となるためPassiveバスケットに属するという現状の条文の技術的な不整合を解消するための修正。 外国税額控除限度枠算定時にGILTIバスケットにはGILTI所得控除以外の米国株主費用は配賦・按分しない。 支払利息の米国源泉所得や各バスケットへの配賦・按分時に、100%配当控除の対象となる米国外源泉配当を生み出す株式簿価は計算から除外。 米国外法人の株式譲渡時に338条(g)選択を行うケースでも、外国税額控除の適用時の所得の源泉地・タイプ(株式譲渡 v 資産譲渡)の判定目的では338条(g)選択が行われなかったものとして取り扱う(結果として外国源泉所得が減り限度枠が少なくなる)という現行の取り扱いを、338条(g)選択以外の取引で「形式上は株式譲渡だが米国税務上は資産譲渡」と取り扱われる他の取引(例えば、Check-the-Boxと株式譲渡を組み合わせるような取引)にも適用を拡大。米国での課税関係が同様な異なる形式の取引に対する外国税額控除の算定法に整合性を持たせるため。 2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用。ただし、超過外国法人税の繰り延べ期間短縮は2018年1月1日以降に開始するCFC課税年度終了時点を含む米国株主の課税年度から適用。また、間接外国税額控除算定時のグロスアップ額は関連法人税と同じバスケットに属するという規定は2018年1月1日以降に開始する課税年度から適用。
100%米国外源泉配当控除10%持分を基準とする特定外国法人からの米国外源泉配当に対する100%控除をCFCからの配当に限定。
米国外からのDownward Attributionに係わるテクニカル修正2017年の税制改正で撤廃されたクロスボーダー課税検討時のDownward Attribution不適用規定撤廃を修正し、再度不適用に。結果として2017年の税制改正以前の規定に戻る。 クロスボーダー課税検討時のDownward Attributionは、「株主(50%以上)・パートナー・受益者が直接・間接・みなし所有する株式は法人、パートナーシップ、遺産・信託が所有しているものとみなす」という一般的な「Downward Attribution」規定を、外国人・外国法人株主等が所有する株式を基に米国内法人等がみなし所有していると取り扱うもの。 一旦Downward Attributionを再度不適用とした上、元々の2017年税制改正の目的であったDownward Attributionがない点を利用したプラニングをターゲットとする狭義の規定とするため、Downward Attributionを加味した場合、議決権または価値の直接・間接・みなし持分が50%超となる米国株主が所有し、Downward Attribution撤廃後の通常規定ではCFCとならない外国法人に関して特別にGILTI・Sub F規定を拡大適用する旨の規定内容に変更。 2017年12月31日以前に開始する直近の外国法人課税年度より適用(2017年税制改正によるDownward Attribution不適用全面撤廃の影響を排除)。
BEATBEATは制度温存の上、BEAT暫定法人税算定時に適用する税率を2024年1月以降に開始する課税年度より12.5%、2026年1月以降に開始する課税年度より15%に引き上げ。銀行・米国1934年証券取引所法下で登記される証券ディーラーは1%付加税率の対象となる点はそのままであるが、銀行の定義を米銀のみではなく外銀の米国支店にも拡大。また銀行・証券ディーラーが属する80%以上の資本関係で構成されるグループの法人全てに1%付加税率の適用を拡大。 2024年1月1日以降に開始する課税年度より、Base Erosion%が3%(銀行・証券ディーラーは2%)未満の場合のBEAT適用除外規定を撤廃。 BEAT暫定法人税算定時の修正課税所得に加味される過年度からの繰越欠損金は発生年度のBase Erosion Tax Benefits加算後の金額。 BEATミニマム税算定時に比較対象となる通常法人税を税額控除前とすることで、税額控除でBEATミニマム税が増額する問題を解消。 Base Erosion支払いの定義に、米国法人側で「棚卸資産に資産計上が求められる間接費用」、さらに「棚卸資産の仕入先となる外国関連者側のグロスマージン」および「外国関連者が他の外国関連者への支払いに基づき棚卸資産への資産計上が求められる間接費用」を追加。「外国関連者が他の外国関連者への支払いに基づき棚卸資産への資産計上が求められる間接費用」の金額を米国での仕入原価の20%とみなす選択あり。外国関連者がグループ内で仕入れている棚卸資産に関しては、同様のルールを間接適用。SCM適格のサービス費用はサービスコスト部分に関して対象から除外。 米国法人による支払いの受け手側で米国法人税・所得税、または該当年度に適用されるBEAT税率以上の実効税率の外国法人税が課せられる支払いはBase Erosion支払いの定義から除外。財務省規則で禁止されない範囲で外国法人税の実効税率は適用財務諸表ベースで判断可。 2022年1月1日以降に開始する課税年度から適用
ポートフォリオ利子免税外国人が受け取る米国源泉利子所得を免税とするポートフォリオ利子免税規定の適用にあたり、議決権ベースで10%の資本関係にある債権者を非適格とする規定を、議決権または価値ベースで10%の資本関係にある債権者に拡大。
過大配当に基づく株式簿価減額外国法人がCFCでない期間、またはCFCの所得を合算する米国株主が存在しない期間に累積されたEarnings and Profits(E&P)、または当該期間に発生した含み益の実現から生じるE&Pを原資とするCFCからの配当を米国株主が受け取る場合、CFC株式の税務簿価を減額。減額の結果、簿価がマイナスとなる場合には株式みなし譲渡益を認識。
Carried Interest2017年の税制改正で、Carried Interestが長期キャピタルゲインとして取り扱われるための所有期間が通常の1年から3年に延長されていた規定を、さらに5年に延長。
R&D費用の資産計上R&D費用の資産計上および5年償却(米国外R&D費用は15年償却)を義務づける規定の適用開始を2022年1月1日以降に開始する課税年度から2025年1月1日以降に開始する課税年度に延期。
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