英国2022年度春季予算案 – 英国内で事業を行う日系企業グループにおける留意点

3月23日、英国財務相は、2022年春季予算案を発表しました。予想通り、予算案は当面の生活費圧迫への対応策(燃料税の1年間の即時引き下げ、2022年7月6日からの所得税の個人控除額に合わせた国民保険料(NIC)の課税開始額の引き上げなど)に重点を置いたものとなりました。さらに、予想されたことですが、国民保険料の引き上げと医療・社会保障負担金の導入が予定通り実施されることが確認されました。今回の予算案では、主に英国の個人に対する生活費の圧迫を緩和することに焦点が当てられましたが、英国で事業を展開する日系企業グループにも影響を与えると考えられる長期方向性について、いくつかの示唆を与えています。

詳細

キャピタル・アローワンス(税務上の減価償却)

春季予算案では、政府がキャピタル・アローワンス(税務上の減価償却)制度に加える可能性のある変更の種類ついて例示しています。全体的な意図としては、これらのアローワンス額を増やすことです。政府は、これらの変更を組み合わせて実施する可能性があります。

  • 適格資本的支出に対する年100%の控除を認める特別即時償却枠の恒久的な水準を50万ポンドに引き上げる。
  • 標準償却率と特別償却率の対象となる資産に対する償却率(Writing Down Allowances)を現在の18%と6%からそれぞれ20%と8%に引き上げる。
  • 標準償却率と特別償却率の対象となる資産に対する初年度アローワンス(First Year Allowance)を導入し、企業が支出した年にそれぞれ40%と13%を控除し、残りの支出を標準的な償却率で償却することができるようにする。
  • 初年度追加アローワンス(Additional First Year Allowance)を導入し、控除可能な総額を初期支出の100%以上に引き上げる。初期支出の100%に対して標準的な償却率を初年度以降適用するのに加え、初年度に20%の追加のキャピタル・アローワンスが認められる可能性がある。
  • 企業が適格資本的支出を一度に償却できるよう、完全な費用化を導入する。

今回検討されている変更は、一般的な工場・機械設備に対する資本的支出に関するものです。しかし、政府は、構造物および建物のアローワンス(Structures and Buildings Allowance)などの他の手当の変更や、特定の投資を対象とした新たな減免措置(指定フリーポート地域内の現行の省エネ技術に関するキャピタル・アローワンス(Enhanced Capital Allowances)の強化など)を検討する可能性があります。また、2023年4月以前の工場・機械設備投資については、現在、130%の手厚いアローワンスが設定されていることに留意が必要です。

研究開発費控除

政府は、新たに3つの発表を行いました。

  1. 純粋数学の研究を英国の研究開発費控除の範囲に含めるようにする。
  2. データおよびクラウドコンピューティングのコストを研究開発費控除対象に含める公約の一環として、控除対象をすべてのクラウドストレージに拡大する。
  3. 英国内のイノベーション支援に重点を置く提案を継続するが、海外で研究開発活動を行うことがやむを得ない場合には例外措置を導入し、海外での研究開発活動に対する支出が、以下のような場合にも適格となるように法制化する。
  • 地理、環境、人口、その他の条件など、英国には存在しない研究に必要な重要な要素がある場合、すなわち英国外で支出されなければならない、深海調査などの支出
  • 規制やその他の法的要件により、臨床試験などの活動を英国外で行わなければならない場合

これらの措置は2023年4月に施行されますが、2022年夏に発表される法案で詳細が示される予定です。

政府は、英国の研究開発費控除が、納税者にとって最も効果的で最大の価値をもたらすように、秋季予算でさらなる措置の導入を検討する予定です。これには、現在13%である研究開発費控除の適用範囲を拡大し、英国での研究開発投資を促進することを含む可能性があります。


所得税/源泉税

2024年4月から所得税の基本税率が20%から19%に引き下げられますが、これは財務相の財政原則が満たされることを条件として、将来の財政法案によって実施されます。基本税率の変更は、租税条約による減免措置が適用されない場合の利息・ロイヤルティにかかる源泉税や、所得税の課税対象となる海外企業の税率にも影響を及ぼします。


スキル

政府は、英国の雇用主に対し、質の高い従業員教育を提供することを奨励するために、さらなる介入が必要かどうかを検討します。これには、職業実習賦課金の運用を含む現行の税制が、企業が適切な種類の訓練に投資するインセンティブとして十分に機能しているかどうかを検証することも含まれます。

事業用資産税の環境配慮による減免

非居住用建物の脱炭素化を支援するため、政府はイングランドにおいて、敷地内の再生可能エネルギー発電・貯蔵に使用される適格な設備・機械に対し、対象を絞った事業用資産税減免の導入、適格な低炭素熱ネットワークに対して、独自の税率法案を用いて100%の減免の導入をしています。春季予算案では、これらの措置が従来の計画より1年早く、2022年4月から施行されることが発表されました。


次のステップ

今回の春季予算案には、税法全体の抜本的な変更は盛り込まれませんでした。しかしながら、英国で事業を展開する日本企業は激動期を経た英国経済の回復を支援することを目的とした、今後発表される多数の重要な措置適切に対応していく必要があります。特に、英国で利用可能な優遇税制(英国のR&D救済制度の範囲のさらなる拡大や、英国のキャピタル・アローワンス制度のさらなる強化など)と、2023年4月1日から25%に引き上げられる英国法人税率の組み合わせは、日系企業グループにとって欧州事業ストラクチャーを改めて検討する機会となります。

 

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