コロナ一時帰国の源泉徴収漏れ・申告漏れに注意

2022年5月28日付の新聞報道において、コロナ帰国者の給与の源泉徴収漏れに関し、「一時帰国中に国内勤務の対価として支払った給与について、2021年3月までの約1年間に支払った約6億円が源泉徴収の対象となり、不納付加算税を含めた計1.4億円が追徴」された事例が明らかになりました1。

EYでは2020年3月18日付税務アラートにて本件についての対応の必要性を説明していましたが、一部の未対応企業において、報道と同様の追徴事例が散見されます。そこで本アラートでは、これから源泉所得税の税務調査が入る企業において行うべきポイントをまとめました。

1. なぜ源泉徴収が必要なのか
~一時帰国者(非居住者)でも日本で勤務すれば「国内源泉所得」が発生し源泉徴収必要

通常、1年以上の予定で日本を離れ、海外赴任している方は「日本の非居住者」に該当します。日本の所得税法では、非居住者は「国内源泉所得(例:国内で勤務した対価等)」のみ日本で課税の対象になり、「国外源泉所得(例:国外で勤務した対価等)」は日本では非課税となります。そのため、海外赴任中の国内払い給与は、日本法人の役員2が海外赴任する場合を除き、日本勤務が発生しない以上、日本では非課税となります。つまり海外赴任中は日本で所得税が発生するケースは極めて限定的でした。

ところが今回のコロナ一時帰国のように、海外赴任者が一定期間帰国し、その間日本で勤務を行うと、日本払い給与のうちの日本勤務期間相当分は「非居住者の国内源泉所得」として課税の対象になります(日本から給与が支給されているため、赴任国と日本の間の租税条約における短期滞在者免税は適用されません)。

なお、課税対象になるのは日本勤務期間に相当する日本払いの給与だけとは限りません。一時帰国中、日本に滞在している家族等のために払った福利厚生関連費用等も「国内源泉所得」として課税されます。また、赴任先で支払った給与(国外払い給与)も租税条約の短期滞在者免税要件が適用されない場合は日本で申告・納付が必要です(源泉所得税の税務調査においても、国外払い給与の申告状況を確認され、申告した所得の内訳も確認されている事例がみられます)。

2. 源泉徴収に伴い必要となる手続き
~所得税会社負担の場合はグロスアップ計算が必要、既に帰任していればさらに複雑に

今回の新聞報道等のように源泉徴収漏れが指摘されれば、本来払うべき所得税に不納付加算税等が課されることになります。通常、日本から海外に赴任している社員に対しては、「手取り」で給与が保証されています。そのため、国内払い給与等について日本で所得税が課されてしまうと、その分だけ本人の手取りが減ることになります。そのため、ほとんどの企業においてはコロナ一時帰国に伴い生じる所得税は会社が負担しています。この場合、会社が負担した所得税は本人に支払った給与の一部とみなされます。本来、本人が払うべきものを会社が払っているからです。そのため、会社が本人の所得税の負担をする場合はその額を見込んで日本払い給与をグロスアップする必要があります。

仮に今から数年前に処理すべきであった源泉所得税を支払った場合、対象となる赴任者が現在も引き続いて非居住者であれば、非居住者としてのグロスアップ計算を行うことになります。

一方、すでに帰任して居住者になっている場合、居住者としてのグロスアップ計算が必要になります。しかし居住者グロスアップは非常に複雑かつ専門知識を有するため、社内で実施することは非常に困難です。対応が遅くなるほど延滞税や不納付加算税が増加する上、帰任して日本の居住者になる方も増えるため、より処理が複雑になるケースが増え、対応に手間取ることになります。

3. コロナ一時帰国者の対応について企業が行うべきこと
~対象者の洗い出し及び必要に応じて源泉徴収・確定申告実施

 まずは過去に一時帰国した対象者の洗い出しとその期間を確認することが必要です。企業の中には、「一時帰国期間が183日を超えたケースだけ源泉徴収実施」や「そもそも源泉徴収していない」、「国外払い給与について日本で確定申告が必要かの確認も行っていない」「対応が必要と認識しているが社内で意見が分かれている」等、未対応のままの企業も存在します。また、「一時帰国した後、再赴任し、再び一時帰国している者もいるが日本と任地の税務が複雑すぎて対応できていない」事例も見られます。日本で源泉徴収を行い、その所得税を会社負担すると、本人の所得として取り扱う件は前述の通りですが、これらは赴任国側でも所得とみなされ課税対象になることがあります。このように日本で源泉所得税を払ったことが赴任国側の税務にも波及する点にも留意が必要です。

「日本の所得税は日本本社で管理するが、現地の所得税は現地に任せておけばよい」という体制だと、今回のように日本及び任地双方を考慮しながら検討が必要な場合に対応できません。今回の件をきっかけに、赴任者の所得税も現地任せにせず、日本側での一元管理に向けた動きが必要になるでしょう。

4. 源泉所得税実地調査で指摘されるポイント
~以下ポイントも確認が必要

コロナ一時帰国以外にも、源泉所得税の実地調査で確認される可能性があるのは以下のポイントです。これらの点についても正しく源泉徴収を行ったかの確認が必要です。

コロナ一時帰国以外にも確認しておいた方がよいポイント

1

海外勤務中に退職した赴任者に対して支給された退職金のうち、当該退職金の計算期間に日本国内での勤務期間が含まれる場合

2

永年勤続表彰金等、当該支払いの対象に国内勤務期間と国外勤務期間の両方が含まれる場合

3

日本の取締役が海外に赴任し、赴任中も日本払い給与が発生している場合

4

日本出国後に支給する賞与の計算期間に、国内勤務期間が含まれる場合

5

日本出国後に支給する給与の計算期間が、全て国内勤務期間に該当する場合

6

海外赴任者が海外勤務を終え帰任した後に、現地の個人所得税を会社が支払った場合

7

海外赴任者の自宅を社宅として借り上げている場合

8

理由如何(コロナ基因のみならず、傷病等)にかかわらず一時帰国をして日本勤務する場合

EYでは居住者・非居住者のグロスアップ計算、TEQ(Tax Equalization:税調整計算)、一時帰国した赴任者(居住者・非居住者)の申告書作成業務、税務コンサルティング業務、海外赴任者規程等、海外赴任者・出張者に関わるあらゆる業務に対応しています。
 

巻末注

  1. 出典:「三菱電機が源泉徴収漏れ コロナ帰国者の給与 国税1.4億円追徴」(朝日新聞デジタル、2022年5月28日)
    https://www.asahi.com/articles/ASQ5W5GMJQ5VUTIL014.html?iref=pc_ss_date_article (2022年5月31日アクセス)
  2. 税務上の役員とは「会社法上登記されている者(株式会社の取締役・執行役・会計参与・監査役)」「経営に参画する者」です

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藤井 恵 パートナー