モビリティ(海外赴任)コラム:今さら聞けない税務情報 ―コロナ退避者税務のおさらい―

2022年も早いもので残すところ1カ月余りとなりました。新型コロナウイルスの感染拡大から3年目になりますが、新たな変異株が登場し年末にかけて感染「第8波」が予想されており、引続き予断を許さない状況です。今回は、新型コロナウイルスの影響により海外赴任者が日本に一時退避した場合の日本税務上の留意点について、改めて解説をしていきたいと思います。ここ数年話題となっている論点ですが、税務上は必須の検討・対応項目となりますので、今一度ご確認いただければと思います。

通常、海外赴任により日本を1年以上離れる場合、赴任中は日本税務上において非居住者に該当することとなります。非居住者の場合については、2022年11月1日付のモビリティ(海外赴任)コラムで記載した通り国内源泉所得が課税されることとなります。また、赴任先国においては一般的に現地の居住者として課税されることとなります。

では、海外赴任を継続しながら日本に一時退避し、日本から赴任先業務を行う場合についてはどうでしょうか。従業員の場合、一時退避期間中に日本国内で勤務を行うことで、給与のうち国内勤務期間相当は国内源泉所得に該当することとなります。ここで、海外赴任中は一般的に赴任先国が居住国・日本が非居住国となるため、日本への一時退避期間中の取扱いとして「短期滞在者免税」を検討されるかもしれません。しかし、その適用を受けるにはそもそも日本と赴任先国との間に租税条約等が締結されている必要があり、かつ、よく知られている滞在日数要件(下記1.)のみならず、2.および3.の要件も考慮した上で適用の可否を判断する必要があります。

  1. (日本)滞在期間が課税年度または継続する 12 カ月を通じて合計 183 日を超えないこと
  2. 報酬を支払う雇用者等が、勤務が行われた締約国(日本)の居住者でないこと
  3. 給与等の報酬が、役務提供地(日本)にある雇用者の支店その他の恒久的施設によって負担されないこと

*上記の要件はいずれも一般的な内容となります。詳細な適用要件については各国の租税条約等を確認する必要がございます。

例えば、一時退避者に対し日本法人が支払い・負担する給与等があるケースにおいては、当該給与等は短期滞在者免税の適用を受けられないこととなり、日本法人に当該給与等の国内源泉所得部分に対し20.42%の税率で源泉徴収義務が生じます。それにより生じる源泉税を会社側が負担する場合には、併せてグロスアップ処理が必要となる点も留意が必要です。

また、コロナ感染やその他のカントリーリスクなどにより一時退避期間が長期化し、短期滞在者免税に規定する滞在日数を超えるケースも見受けられ、この場合は海外払い・負担の給与等も含めて国内勤務期間に係る給与等が課税対象となります(この場合、海外払い部分は、原則的には源泉徴収ではなく個人の確定申告により納付することとなります)。

さらに、一時退避期間が1年を超えてしまうようなケースでは、日本の所得税法上、居住形態が非居住者から居住者(永住者)に切替わります。全世界所得を対象に居住者課税されることとなるため、退避前と同様の給与体系(=ネット保障契約による給与)を継続する場合には、日本払い・海外払いの給与を含めグロスアップを加味した課税処理が必要となることが考えられます。

仮に日本国内勤務の給与体系に変更する場合でも、現地で引き続き発生する現物給与があれば日本での課税関係を整理しておくことが望ましく、例えば、赴任先国の現地税金を会社が負担する場合の当該現地税金相当は日本で漏れなく課税処理する必要がある一方で、外国税額控除の適用可否も検討すべき事項として挙げられます。

上述の通り、一時退避期間の長期化により課税上の取扱いが変わり、複雑になりますので、赴任者ごとに滞在日数を管理し、課税関係を検討し、適切な実務処理対応が求められます。

最近の源泉所得税税務調査では、コロナ退避者の源泉徴収処理は漏れなく調査対象とされており、中には約1億4千万円の追徴課税がなされる事例も明らかにされていることからも、改めて一時退避者の税務上の取り扱いについては注意が必要です。

コロナ海外赴任者の税務取扱いは判断に迷う要素が多いため、税務対応に不安のある企業におかれましては税務専門家に相談することも視野に、早めの対応をお勧めします。


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川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

白澤 賢 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです