EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2023年2月2日、OECDは、OECD/G20税源浸食と利益移転(BEPS)で承認された第2の柱GloBEルールに関する運用指針を公表しました。この文書は、GloBEモデルルールとそれに関係するコメンタリーについて追加指針を提供するものです。本指針は、コメンタリーの追加やその他の修正という形で、今年末に公表されるコメンタリーの改正版に組み込まれる予定です。
本運用指針は、さまざまな技術的問題を対象としており、以下のセクションで構成されます。
本アラートでは、セクション4の「移行措置」およびセクション5の「適格国内最低トップアップ税」について解説します。また、セクション3の「保険会社に対する適用」のうち、3.5「短期ポートフォリオ所有持分に関する簡素化」については、保険会社以外の一般の事業会社にもあてはまりますので、その内容についても解説します。
この運用指針のセクションでは、GloBEモデルルール第9章(移行措置)について述べています。
GloBEモデルルール第9.1.1条に含まれる移行措置は、ある国・地域における企業グループの実効税率(ETR)を評価する際に、繰延税金会計の使用を認めるものです。このルールによれば、企業グループは、GloBEルールが適用される最初の年(移行年度)において、すべての構成事業体の財務諸表に反映または開示された繰延税金資産(DTA)および繰延税金負債(DTL)を、最低税率と国内税率のいずれか低い方で考慮することになります。
本コメンタリーでは、GloBEルール発効前に存在した繰延税金資産負債がGloBEルール適用年度の財務会計上適用されている場合、当該繰延税金資産負債はGloBEモデルルール第4.4条の適用に利用可能であり、国・地域別のETRを評価する際に考慮することを明確にしています。一方で、第4.4条では、一連の調整事項を定めています。第4.4.1条(e)では、税額控除の発生ならびに使用に係る繰延税金費用を除外しています。
本運用指針では、税額控除に関する既存のDTAを移行年度以降の国・地域別のETRの計算に利用することを第9.1.1条が認めているのかについて説明を求められていることが示されています。さらに、繰延税金会計上の金額を決定するために、第4.4条(および、第4.4.1条(e)に定められているその他の調整も考慮すべきかについて説明を求められていることが示されています。
本運用指針では、繰越税額控除に関するDTAは、GloBE上の調整後対象税金を計算する際に考慮することが明確にされています。国内税率が最低税率と同等かそれ以上の場合には、複雑さを避けるために、FTCsを含む税額控除に関するDTAを再計算する簡素化されたアプローチが組み込まれています。適用される国内税率が最低税率より低い場合には、再計算は認められません。このようなDTAの再計算の金額は、以下の計算式に従って決定されます。
国内適用税率は移行年度の前事業年度に適用された税率ですが、翌事業年度以降に税率が変更された場合は、税額控除の残高を再計算する必要があります。
また、本運用指針では、このような既存の税額控除が確定または使用された場合のさらなる明確化を求めており、以下のように定めています。
GloBEモデルルール第9.1.3条に基づき、2021年11月30日以降、移行年度の開始前までに構成事業体間で資産譲渡が行われる場合、取得した資産(棚卸資産を除く)の基準額は、譲渡側事業体における当該譲渡資産の処分時の帳簿価額に基づいて決定されるものとし、GloBEに基づく算定に含められるDTAおよびDTLはその基準額に基づき決定されます。
本運用指針では、資産譲渡と同様の方法で計上される(すなわち、企業グループが資産の帳簿価額を付しまたは増加させる)すべての取引や企業再編は、その形態、事業体内または事業体間で行われるかどうかにかかわらず、第9.1.3条上、資産譲渡とみなすべきとされています。
本運用指針では、「資産譲渡」には、取得側の事業体が財務会計上の資産の帳簿価額を増加させ、譲渡側の事業体がそれに対応する金額を移行年度前の期間に収益認識するような譲渡が含まれると定められています。このルールは、企業グループがグループ内取引を原価で計上し、国内法の下で帳簿価額と課税標準の差額に基づくDTAが発生する場合、および、同一事業体内の譲渡またはみなし譲渡にも適用されます。
運用指針では、第9.1.3条が適用されるべき状況について、以下の設例を設けています。
このセクションでは、GloBEモデルルール第9.1.3条について、企業グループが2021年11月30日以降、かつ移行年度の前に譲渡した資産について、その結果から生じる利益をGloBE所得の計算に含めず、ステップアップを防止するための追加指針を提供します。
本運用指針では、移行年度の期首にGloBE上で使用すべき帳簿価額は、譲渡日における譲渡資産の処分時の帳簿価額に、取引後、取得側事業体がGloBEルールの適用を受ける前の資本的支出、償却または減価償却を調整したものです。
原価で計上される取引について、追加指針では、本条の範囲において、企業グループが資産の譲渡に関連して生じたDTAを、譲渡者の帳簿価額と取得側の事業体の課税標準との差額に基づいて計上できないことを明確化しています。譲渡時にすでに存在していたDTAおよびDTLを、その後の資本的支出、償却および減価償却の影響を調整し、最低税率で再計算したものは、移行年度以降に第9.1.1条の下で考慮されます。
さらに運用指針では、処分による利益が譲渡側事業体の課税所得に含まれるため、譲渡側の事業体が当該取引に関する税金を支払った範囲内でDTAを考慮することができることを明確化しています。このことは、第9.1.1条で考慮されるべきDTAが、譲渡側の事業体に取り崩され、または計上されなかった場合(その他の税効果)の範囲にも適用されます。例としては、利益が繰越欠損金と相殺され税金を支払わなかった場合が考えられます。
本運用指針では、立証責任は企業グループ側にあるとしています。
また、簡素化された措置として、上記のようにDTAを計算する代わりに、買収企業が財務諸表上、公正価値で取引を計上した場合、最低税率に当該資産の国内課税標準と第9.1.3条に基づいて決定された当該資産のGloBE帳簿価額の差を乗じたDTAを考慮する権利があれば、当該資産の財務諸表に反映された帳簿価額をGloBE上で使用できることを定めています。
この運用指針のセクションでは、国内最低税がGloBEルールと「同等」であるため、適格国内最低トップアップ税(QDMTT)に該当するかを判断するための一般原則を定めています。国内最低税がGloBE上のQDMTTとして認められるかは、企業グループにとって重要な問題です。なぜなら、QDMTTで支払う税金は、GloBEルールの下で決定されるトップアップ税と完全に相殺することができるためです。一方、非適格の国内最低税は、対象税金として取り扱われ、国・地域別のETRの計算には(分子レベルで)含まれるのみであり、あまり利点はありません。
本運用指針では、包摂的枠組みは2023年に、ある国の国内最低税がQDMTTとして取り扱われるべきかを評価するための多国間レビュープロセスを策定すると定めています。GloBEルールとの同等であるための新しい指針は、そのプロセスの策定に適用されます。
運用指針では、包摂的枠組みがQDMTTセーフハーバーの策定についてさらなる作業を行うことが示唆されています。
運用指針には取り上げられていない、国・地域の観点から国内法的枠組みを考慮したQDMTTにおける所得と税のブレンド、フロースルー事業体および投資事業体を含む税の中立性と分配税制の取り扱い、および無国籍構成事業体の取り扱いを含む、QDMTTの設計および運用に関する更なる指針を検討するとしています。
運用指針では、第10.1条に係るコメンタリーのパラグラフ118(QDMTTの定義)を、新たにパラグラフ118.1から118.53(新たなパラグラフ)に置き換え、QDMTTにおける「GloBEルールとの同等であること」の意味を説明しています。
この新たなパラグラフで述べられている原則は、国内の最低税が同等であるとみなされるために、その設計がGLOBEルールの設計と一致するように、また、GLOBEルールの下で生み出される国・地域の結果と一致するように、設計、導入および運用されなければならないということです。具体的には、国内最低税は、GloBEルールの仕組みに沿ったものでなければならず、当該国・地域に係るトップアップ税の増加分が、GloBEルールの下で決定されたトップアップ税を下回る結果とならないように体系的に構成されていなければなりません。このように、国内最低税とGloBEルールとの結果の差異が、GloBEモデルルールおよびコメンタリーの下で予想されるよりも、体系的に大きな租税債務の増額をもたらすか、体系的に低い租税債務をもたらさない場合、当該国内最低税がQDMTTとして扱われことを妨げるものではありません。
また、この新たなパラグラフでは、QDMTTが同等であるとの結果(同等性テスト)を得るために、GloBEモデルルールの各章にどの程度準拠する必要があるかについて説明しています。
GloBEルールと同等であるためには、GloBEモデルルール第1.1条に定める750百万ユーロの閾値が満たされたとみなすため企業グループの国内構成事業体にQDMTTを適用する必要があります。しかし、750百万ユーロの閾値を満たさない企業グループや、外国企業を持たない純粋な国内グループにまでQDMTTの適用を拡大しても、GloBE上の同等性が損なわれるような結果を招くことはありません。
QDMTTの定義に関連する運用指針の新しいコメンタリーには、構成事業体、少数被保有の構成事業体(MOCE)、ジョイントベンチャー(JV)へのQDMTTの適用に関する具体的な指示も記載されています。
QDMTTの定義に関する新しいパラグラフでは、主に外国の構成事業体の所得について適用される所得合算ルール(IIR)および軽減税支払いルール(UTPR)と異なり、QDMTTは国内構成事業体に対してのみ適用されることが示されました。そのため、GloBEモデルルール第2条の賦課規定はQDMTTには適さないものと考えられます。したがって、QDMTTは、第2条の賦課規定に代えて、国内親事業体を含む全ての国内構成事業体の超過利益について、1つ以上の国内構成事業体に対してトップアップ税を課す必要があります。
QDMTTで課せられるトップアップ税は、企業グループの親事業体がQDMTTが課される国・地域にある構成事業体に対して保有する所有持分にかかわらず、GloBEモデルルールの第5.2.3条で算出される国・地域別トップアップ税の総額が課されます。従って、状況によっては、QDMTTはGloBEモデルルールの下で課されるはずの租税負債を上回ることがあります。このような結果を望まないのであれば、その国・地域にあるすべての構成事業体が、UPEまたは部分被保有親事業体(POPE)によってすべての会計年度にわたって完全に所有されている企業グループに対してのみQDMTTを選択適用することも可能です。
運用指針に含まれる新しいパラグラフでは、いかなる国・地域においても、QDMTTまたはGloBEモデルルールに関連する利益の供与を禁止しています(例えば、直接、間接的を問わず、QDMTTを企業グループに払い戻すことはできません)。新しいコメンタリーでは、QDMTTに関連しているとみなされる種類の利益の特定に関して、包摂的枠組みはさらなる指針の提供が示唆されています。
新しいパラグラフでは、QDMTTとの同等性テストについて、以下のように規定しています。
同等性テストを通過するためには、QDMTTに基づく調整後対象税金の決定は、GloBEモデルルールによる決定と同等またはそれ以上の制限を課されなければなりません。同時にQDMTTは、GloBEモデルルール第4.5条に記載のGloBE損失選択を規定する必要はありません。また、QDMTTの定義に関する新たなパラグラフでは、QDMTTに基づく調整後対象税の決定について、以下のように定めています。
QDMTTの定義に関する新たなパラグラフでは、QDMTTに基づくトップアップ税の計算にについて以下のように述べています。
これらのルールは、GloBEモデルルールと共通の組織再編税制との調和を図ることを目的としています。同等とみなされるために、QDMTTは、その国・地域の組織再編税制に適合させるために、これらのルールを適用する必要があります。
QDMTT導入国・地域は、GloBE情報申告書にトップアップ税債務を正しく報告するために、QDMTTの申告期限を調整する必要があり、企業グループの報告事業年度の最終日から15カ月以内に提出することが求められます(ただし、移行年度については、この期限が18カ月に延長されます)。
QDMTTは、GloBEモデルルールに基づきトップアップ税債務が発生する場合にトップアップ税を課すように設計されているため、QDMTTでは、移行時セーフハーバーを含むGloBEモデルルールに基づいて合意したセーフハーバーと整合性のあるセーフハーバーを含めるべきとされています。
本運用指針では、QDMTTを採用している国・地域において事業活動を行う企業グループに対して、コンプライアンスを簡素化するためのQDMTTセーフハーバーの策定に関する作業を包摂的枠組みが進めることを示唆しています。QDMTTセーフハーバーは、例えば、企業グループに対して、当該セーフハーバーに適合する国・地域に所在する構成事業体に関するGloBEの追加計算を行う義務を免除することが想定されます。
QDMTTを採用する国・地域では、その結果がGloBEモデルルールと整合するように、第9.1.1条から第9.1.3条に規定のGloBE移行措置を採用しなければならず、QDMTT計算における繰延税金、対象税金および資産の帳簿価額についてGloBE計算と同じ時点から適用されます。GloBEモデルルール第9条のその他の移行ルール、例えば、SBIEの移行緩和措置、申告義務の移行緩和措置および国際事業の初期段階におけるUTPRからの除外については、QDMTTにおいて採用する必要はありません。
GloBEモデルルールが選択を行うことを容認している場合、QDMTTは選択についても規定しなければならず、企業グループに対してGloBEモデルルールに基づく選択と同じ選択をQDMTTに基づいて行うように要求しなければなりません。ただし、特定の選択を規定しないQDMTT、例えば、GloBE損失の選択は、同等である可能性があります。
GloBEモデルルールでは、短期ポートフォリオ所有持分(配当分配時点の保有期間が1年に満たない所有持分と定義されるもの)から支払う配当については、除外配当ルールから除かれるとしています。このような配当は、GloBE所得または損失の計算に含まれます。
短期ポートフォリオ所有持分と長期間保有するポートフォリオ所有持分の区分を実施することは負荷が大きいという懸念に応えるため、本運用指針では、運用の利便性を考慮すべく新たな選択肢を定めました。この新しい選択肢は、すべての事業体が利用でき、企業グループはすべての構成事業体について、それらの事業体のポートフォリオ所有持分から支払う配当金をGloBE所得または損失の計算に含めることを選択できます。これは5カ年選択であり、構成事業体単位で行います。
本運用指針は、GloBEモデルルールの解釈および運用に関する重要な追加情報を提供しているため、グローバルミニマム課税パッケージにとって不可欠な構成要素です。この点について、移行ルールに関する運用指針が、2021年11月30日以後、かつGloBEルール発効前に行われる取引に影響を与えることに注意することが重要です。
運用指針では、合意が得られ次第、さらなる指針を策定し、公表することが示唆されています。実際、運用指針には、さらなる指針で対応するまたは対応する可能性のある分野への言及が数多く含まれています。当該指針によって大きな変更がなされる可能性があることを踏まえ、企業は、追加で公表される指針に目を通し、自社に関連する新しいルールやその理解に努める必要があります。
第2の柱のルールを国内法に組み込むにあたり、国・地域には、本運用指針を含むGloBEモデルルールおよびコメンタリーの適用が期待されており、このことは、これらの合意文書が、今後数カ月の間に関連する国・地域における第2の柱の国内法制化において、どのように反映されるか注視することが重要です。
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