英国2023年度春季予算案

2023年3月15日、英国財務相は初の春季予算案を発表し、首相が1月に掲げた5つの優先事項のうち、インフレ率の半減、経済成長、公的債務の減少の3つに重点的に取り組むことを明らかにしました。 

予想通り、財務相はこれまで発表してきた増税と課税標準の凍結を保持し、特に、2023年4月1日から法人税率を25%に引き上げることを再確認しました。しかし、成長戦略に対応するため、新たな目標を定めた税制上の優遇措置を講じました。 

法人税率の引き上げは、日本の外国子会社合算税制(JCFC)の観点からは、一部の日系企業にとってプラスに働くと思われますが、他の税制優遇措置(パテントボックスや後述の研究開発費控除の変更など)の、実効税率(ETR)への影響については検討の必要があります。

以下に主要な変更点をまとめていますが、BEPS第2の柱の施行、エネルギー利得税の変更、発電事業者課税の詳細など、以前に発表された他の措置は、3月23日に公表される2023年度春季財政法案で大きく取り上げられる予定です。 

また、春の「Tax Administration and Maintenance day」において、政府がさらなる税務管理とその整備に関する発表を行うことが確認されています。

主な変更点の概要

法人税関連
  • 法人税率 - 2023年4月1日から25%への引き上げが確認されました。これはJCFCの観点から一部の日系企業グループにとってプラスに働くと思われますが、他の措置(後述する税制優遇措置の変更など)のETRへの影響を検討する必要があります。 
  • キャピタル・アローワンス(税務上の減価償却) - 少なくとも2023年4月1日から2026年3月31日まで、特定の工場や機械に対する資本的支出について全額費用化(即時100%償却)とし、さらに政府はこれを恒久化することを望んでいます。この全額費用化によって、投資額1ポンドにつき25ペンスの節税が可能となります。加えて、全額費用化の対象とならない「特別償却率の対象となる資産」の初年度50%償却も、同じ期間延長されます(これも恒久化されることが期待されています)。これらの措置は、いずれも100万ポンドの特別即時償却枠(Annual Investment Allowance)に加えて行われるものです。
  • 研究開発費控除 - 2023年度春季予算案に先立ち、2023年4月から大企業向け研究開発費控除(RDEC)の適用率が13%から20%に引き上げられ、適格費用の定義がクラウドコンピューティングやデータ保存/処理にも拡大されると発表されていました。これらの変更は引き続き予定されていますが、以前発表され2023年4月1日から施行される予定であった、外部により提供された労働者に対する海外での支出の制限は、2024年4月1日に延期されました。これは、RDECと中小企業向け研究開発費控除の統合の可能性とこの制限との相互作用を政府が検討するためです。以前示されたように、有効な申請を行うために、申請者にはデジタル追加情報フォームを法人税確定申告書(CT600)と共に提出することが義務付けられていましたが、どの会計期間に係るものであるかに関わらず、2023年8月1日以降申請されるすべての申請に適用されることになりました。
  • クリエイティブ産業のリリーフ - 政府は、5つのオーディオビジュアルリリーフ(映画、ハイエンドTV、ビデオゲーム、アニメーション、子供向けTV)を、研究開発費控除(RDEC)モデルを基礎として、費用をベースとし課税所得の調整を行う控除制度に移行する改正を行う意向です。
インベストメントゾーン

5つの優先分野であるデジタルおよびテクノロジー、グリーン産業、ライフサイエンス、先進的な製造業、そしてクリエイティブ産業で、12の新しいインベストメントゾーンが発表されました。これらは、イーストミッドランド、グレーターマンチェスター、リバプール、ノースイースト、サウスヨークシャー、ティーズバレー、ウエストミッドランド、ウエストヨークシャーに設置され、さらにスコットランド、ウェールズ、北アイルランドで4カ所設置される予定です。

政府は、これらインベストメントゾーンの指定された課税区域において5年間にわたり、以下の税制優遇措置を提供します。

  • 商業用または商業目的開発用に購入する土地・建物に対する土地印紙税(SDLT)の全額免除
  • 新たに進出する事業所、およびインベストメントゾーンの課税区域で拡張する既存事業所のビジネスレート(事業用資産税)の100%免除
  • 企業が課税区域で使用する適格支出の初年度100%償却
  • 構築物および建物の加速償却
  • 課税区域で勤務時間の60%以上働く新規従業員の給与につき、年間2万5,000ポンド(1人あたり36カ月間)までの収入に対する雇用者に係る国民保険料(NICs)のゼロレート適用

上記は、同様の税制優遇と関税緩和措置を提供する既存のフリーポート(イングランドのイーストミッドランズ空港、フェリックストー/ハリッジ、リバプール都市圏、ハンバー、ティーズサイド、テムズ、ソレント、およびプリマス)に加えられるものです。 

その他の税金
  • プラスチック製包装税 - 2023年4月1日から消費者物価指数(CPI)に連動してプラスチック製包装税の税率が引き上げられます。
  • 企業の通関輸出入手続きを簡素化するための一連の措置が発表されました。政府は、今後数カ月の間に、これらの措置のそれぞれについて利害関係者との協議を予定しています。
  • また、酒税の改正、タバコ税の変更、燃料税の凍結が行われ、2023年4月6日からは、所得税の追加税率である45%が適用される所得金額が年間15万ポンドから12万5,140ポンドに引き下げられる予定です。個人基礎控除と所得税の基本税率、NICsと相続税の基準金額は、2028年4月まで凍結されることが決まっています。これらの変更は、英国への赴任者に対しタックスイコライゼーションを適用している企業に影響を与えることになります。 

その他の最近の動向

  • 移転価格文書 - 2023年4月より、英国で事業を行う国別報告書制度の対象となる企業には、移転価格マスターファイルと英国ローカルファイルを保持することが義務付けられます。これらの文書は、HMRCから要求された場合、30日以内に提出する必要があるため、事前に準備しておくことが重要です。また、以前発表された監査証跡サマリーの導入は延期されましたので、ご留意ください。 
  • BEPS第2の柱 - 所得合算ルール(IIR)と適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)は、2023年12月31日以降に開始する会計期間から英国で導入されます。これは、IIRが2024年4月1日以降に開始する会計期間から導入される日本の方針とは対照的です。 
  • ハイブリッドの開示 - 2022年4月以降、企業はハイブリッド事業体およびハイブリッド金融商品に関する特定の情報を、英国の法人税確定申告書の別紙に記載することが義務付けられます。その一環として、企業はハイブリッド事業体であるかどうか、また同一の支配関係に属するグループ内のハイブリッド事業体と取引しているかどうかを開示することが必要になります。3月決算の企業グループは、現在、この要件に対応する最初の申告書を提出しようとしています。したがって、もしまだレビューが行われていない場合は早急に対応し、十分な注意が払われたことを証明する同時文書が存在することを確認する必要があります。 


日本に拠点を置くUK Tax Desk チームは、上記およびその他の英国税制の動向が、企業グループのビジネスに与える影響を理解するお手伝いをします。 
 

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工藤 保浩 シニアマネージャー

小林 仁紀 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです