マレーシア、移転価格税制の新規則を公表(2023)

新ルールのハイライト

  • 同時文書化義務の徹底:移転価格文書は確定申告書の提出期限までに作成の上、作成日の記載をしなければならない
  • 記載事項の強化:より詳細な移転価格文書の作成を重視
  • 独立企業間価格幅の明確化
  • 比較可能性分析における決定要素について、経済的類似性に基づいた正確な国外関連取引の実態を重視
  • 無形資産の活用から得られるリターンに対する権利を有する者の識別にあたって、無形資産の所有及び「開発、改良、維持、保護及び活用」(DEMPE)機能を重視

マレーシア内国歳入庁(IRB)は2023年5月29日に、「移転価格規則2023(Income Tax (Transfer Pricing) Rules 2023)[P.U. (A) 165]」(以下、「新規則」)を発表しました。

新規則で定められた変更点は以下の通りです。

新規則の導入

  • 新規則は2023賦課年度から適用
  • 現行の「移転価格規則2012 [P.U. (A) 132/2012](Income Tax (Transfer Pricing) Rules 2012)」は廃止

同時文書化義務

  • 移転価格文書を補完する以下追加情報の提供(新規則、附則1,2,3参照):
    • 附則1、多国籍企業グループ情報
      - 必要な情報はIRBの移転価格ガイドラインに規定されたマスターファイルの記載項目と同様
    • 附則2、納税者の事業説明
      - 必要な情報はIRBの移転価格ガイドラインと同様で、対象年度終了時点の現地組織図(人数及び部門長並びに駐在員と現地採用の情報を含む)、取引価格決定方針、比較可能性分析(要件、差異調整)等の追加開示
    • 附則3、費用分担契約(CCA : Cost Contribution Arrangement)
      - 必要な情報はIRBの移転価格ガイドライン(2017年更新分)と同様で、CCAに関して使用する有形・無形資産のDEMPE機能について追加開示
  • 移転価格文書の作成日について記載義務。なお同時文書化義務が課されているため、作成日は確定申告書の提出期限前でなければならない。
  • 納税者は、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類を作成又は取得し、保存しなければならない。
  • 納税者はIRBから要請があった場合、その日から14日以内に移転価格文書その他必要と認められる書類を提出する義務がある。
  • IRBの局長には、新規則の実施を促進するためのガイドラインを発行する権限が付与されている。

独立企業間価格幅

  • 独立企業間価格を決定する際に「独立企業間価格幅」を設定。対象となる国外関連取引について独立企業間価格かどうかを判断する際、IRB長官が許容する比較対象取引の一定のレンジ(37.5パーセンタイルから62.5パーセンタイル)に入る数値を参照することで、「独立企業間価格幅」を厳格化する。
  • 対象となる国外関連者との取引価格については一定のレンジ内にある場合、独立企業間価格と見なすことができる。ただし、比較可能性の要件を満たしていない等と認められる場合、IRB長官は国外関連取引の取引価格を中位値又は中位値を上回る範囲に調整することができる。
  • 対象となる国外関連者との取引価格がレンジを下回る場合、独立企業間価格は中位値と見なされる。
  • IRB長官が行う移転価格調整による所得の増加額には、5%以下の課徴金が賦課される場合がある。

比較可能性分析

  • 比較対象となる非関連者との取引を決定する前に行う国外関連者との取引を正確に描写するための機能分析の考慮事項など、比較可能性分析に関するさらなるガイダンスの発表。
  • 対象年度とそれ以前の年度のデータを使用するための追加条件の明示。不動産・サービスのライフサイクルや事業サイクルが、関連者間の商業的又は財務的関係性に重要な影響を及ぼしていないこと。
  • 前年度のデータを使用する目的の明示。適切な比較可能性分析のためであり、複数年度検証を目的としたものではないこと。
  • 納税者は選択した移転価格算定方法が最適であることを、事実に基づいた裏付け可能な根拠と共に理由を説明しなければならない。
  • IRB長官は選択した移転価格算定方法を見直し、より適切と考える他の方法に変更する権限を与えられている。

無形資産

  • 無形資産の法的所有権とその開発に係る資金提供がDEMPE機能の実施及び統制を伴わない場合、当該無形資産の活用から生じる利益は法的所有権に関係なく経済的な所有権を有する者が受け取る権利があることを明示。
  • 無形財産の法的所有者がDEMPE機能の実施及び統制を伴わない場合、当該無形資産の法的所有者はその無形財産に起因する所得を得る権利を有しない。
  • 上記は、当局の移転価格ガイドラインと同様である。

その他

  • 新しい移転価格規則における特定の用語、「多国籍企業グループ」、「利益水準指標」、「無形資産」、「マーケティング・インタンジブル」等の定義を新設又は修正
  • 移転価格規則2012で規定されていた関連者取引の再特定、相殺調整等の一部が削除

実務上の留意点

新規則は独立企業間原則の適用について明確なガイダンスを提供するものであり、非常に歓迎すべきものです。ただし納税者は以下の点に注意する必要があります:

  • 新規則では、たとえ関連者間取引における関連条件が独立企業間価格幅に入っていても、中位値以上の調整を行う権限がIRB長官に付与されている。
  • 新規則では、何をもって比較可能性の欠如とするか明らかとなっていない。
  • 追加情報の開示、特に多国籍企業グループ情報として附則1で求められる広範な情報は、マスターファイルの作成義務対象となっていないグループの一員である納税者にとって負担が大きい。
  • 関連者間取引に商業的合理性があり経済的に相互関連性を有することの証明が納税者に課されており、関連書類を維持し保存する必要がある。
  • 比較対象企業に関する対象年度の企業の財務情報がない場合、前年度の情報が信頼できることの証明が納税者に課されている。
  • 比較対象企業の選定について、マレーシア国外に所在する企業の選定が黙認されている。

納税者のためのアクションプラン

  • 納税者は新規則の附則1で求められている情報を提供するために、グループレベルで関連情報の収集を開始する必要があります。
  • 納税者は現在の事業活動を再確認し、重要な前提の有効性が維持されているか確認の上税務申告書の提出日までに移転価格文書を作成する必要があります。
  • CCAを含む無形資産関連取引については、独立企業間価格を決定するために各当事者の貢献度、相対的価値の評価、DEMPE分析をする必要があります。

EYができること

  • 新規則の要件にのっとった移転価格に関するタイムリーな文書化の支援
  • 既存の移転価格文書の分析及び改善による新規則の要件にのっとった文書化の支援
  • 移転価格ポリシーの効率的な運用のアドバイス及び既存の分析による会社間取引の実行、モニタリング、報告のための持続可能な方法策定支援
  • 移転価格調査対応サポート、IRBに対しどのような説明や資料提出を行うべきか移転価格的アプローチからサポート
  • 相互協議・二国間事前確認(APA)といった二重課税の排除や将来年度の課税リスクの排除をサポート

お問い合わせ先

Ernst & Young Tax Consultants Sdn. Bhd.
Japan Business Services (JBS)

Janice Wong
Partner, EY Asean JBS Tax Leader

Tatsuya Enomoto
Senior Manager, JBS Malaysia

※所属・役職は記事公開当時のものです