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2023年5月11日、経済協力開発機構(OECD)は、2023年5月のG7財務大臣・中央銀行総裁会議のための進捗報告書(以下、「進捗報告書」)を公表しました。この進捗報告書は、2022年5月のOECD報告書に基づき、税務協力の進展について概説するとともに、将来的な検討のための潜在的な新しい分野を特定したものです。進捗報告書では、2022年の報告書に示された諸原則がBEPS2.0プロジェクトにおける第1の柱および第2の柱にどのように反映されているのか、ならびにこれらの諸原則がどのように行動に移されているかについて述べています。また進捗報告書では、キャパシティビルディング(能力構築)の動向および計画について説明しています。
G7財務大臣・中央銀行総裁会議は2023年5月11日から13日に日本で開催され、終了後にG7議長国から議論の主なトピックを要約した声明が発表されました。国際課税に関して、G7財務大臣は、第1の柱および第2の柱の迅速かつグローバルな実施に向けた強い政治的コミットメントを再確認しています。同声明では、第1の柱の多国間条約(MLC)をめぐる交渉の重要な進展を認識し、合意された期限内にMLCへの署名の準備を整えるための交渉の迅速な完了に対するG7財務大臣のコミットメントを再確認しています。また同声明では、国内法制における第2の柱の導入をめぐる進展を歓迎するとともに、グローバルな一貫性のある実施のためのさらなる運用指針に関するOECD/G20包摂的枠組みの取組みを求めています。さらに同声明では、開発途上国が持続可能な税収源を築くための税に関する能力の強化を支援する考えを示し、第1の柱および第2の柱の実施を支援することの重要性を強調しています。
2023年5月11日、OECDは、2023年5月のG7財務大臣・中央銀行総裁会議のための報告書を公表しました。この進捗報告書は2022年5月のOECD報告書に基づいており、(i)法人税をめぐる情勢、(ii)法人税を超えた取組み、および(iii)開発途上国への影響の3つの主要セクションで構成されています。
2022年の報告書では、共通の国際課税ルールの合理的、協働的、かつデジタル的な執行を目指す原則が示されていました。2023年の報告書では、BEPS2.0プロジェクトにおいて策定された改革とこれらの原則がどのように整合するかについて述べています。
「ワンストップショップ」の原則は、納税者のコンプライアンス負担を最低限に抑えることを目指すものです。進捗報告書では、この原則が第2の柱のルールに組み込まれる予定であると述べるとともに、これらのルールのグローバルな性質から生じる標準化が、協調的な情報申告およびコンプライアンス行動の機会をもたらすと指摘しています。進捗報告書によると、こうした協調の1つの例であるグローバル税源浸食防止(GloBE)情報申告書では、複数の実施国・地域にわたる提出を1回で済ませることが可能になり、申告プロセスが合理化されます。同様に進捗報告書では、2022年10月の「第1の柱の執行および税の確実性の側面に関する進捗報告書」1が、Amount A税務申告書の提出プロセスを合理化するものであるとしています。また進捗報告書では、このワンストップショップの原則が、BEPS2.0プロジェクトにとどまらず、二国間事前確認マニュアル2や、多国間の相互協議および事前確認の処理に関するマニュアル3等のイニシアチブにも反映されていると指摘しています。
また、「全面対応したデジタルのコミュニケーション」の原則も、第2の柱に組み込まれていると進捗報告書には述べられています。この原則は、GloBE情報申告書によって推進される一元的な提出要件および自動化された情報交換に沿い、専用の拡張可能マークアップ言語(XML)スキーマを通じて反映されることを意図しています。第1の柱および第2の柱におけるさらなる協力では、全面的なバーチャルの会合が基礎となるであろうと進捗報告書は指摘しています。これに向けて、税務当局と納税者の間におけるコミュニケーションおよび協働のための共通のプラットフォームを、2024年までの実用化を目標として開発する作業が進行中であると進捗報告書には述べられています。
「一元的なプロジェクト管理および納税者の積極的な役割による協働的なアプローチ」の原則は、第1の柱のAmount Aにおいて提案された紛争防止および紛争解決の仕組みに反映されていると進捗報告書には述べられています。この税の確実性の枠組みは、リード税務当局の指揮による、税務当局間の協調的な努力に依拠しています。加えてこの枠組みには、納税者からの確実性の請求を評価することを目的とした、その他の税務当局からの代表者の参加が含まれます。
さらに進捗報告書では、「共通の同期的なリスク評価」の原則が、第1の柱のAmount Aにおける確実性プロセスの重要な特徴の1つになっているとしています。またこの原則は、国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)の成功事例を参考にすることの可能性について考察した、第2の柱および税の確実性に関する2022年12月のパブリック・コンサルテーション・ドキュメント4にも反映されていると進捗報告書は指摘しています。進捗報告書によると、共通のアプローチによって確実性の向上が促進され、税務当局と多国籍企業グループ双方における重複が削減され、税務当局間の相互理解が推進されることが、ICAPの経験から示されています。
「識別されたリスクに対応する協調的な質問および行動」の原則は、進捗報告書において調査を代替するものとされ、第1の柱のAmount Aについて策定中の包括的な確実性レビュープロセスに反映されていると進捗報告書には述べられています。第2の柱については、GloBE情報申告書を通じて識別されたリスクに関して、さらなる情報要求のための協調的な枠組みが策定される可能性があると進捗報告書は指摘しています。さらに、税務行政執行共助条約に基づく同時調査を実施することの可能性が検討されています。
進捗報告書によると、「早期の拘束力ある解決」の原則は、適時の拘束力ある確実性を納税者に提供することを意図した、第1の柱のAmount Aについて策定中の確実性プロセスに反映されています。また、国内法を通じて実施される第2の柱については、紛争解決のための革新的なソリューションが検討されていると進捗報告書には述べられています。
最後に、「重複する要件の排除」の原則は、第1の柱のAmount Aに反映され、代替的な措置(デジタル税等)の排除を義務付けていると進捗報告書には述べられています。また、BEPS2.0プロジェクトの目下の関心は、重複する要件の検討および執行の簡素化の問題に向けられていると進捗報告書は指摘しています。
2022年の報告書では、税務当局にとっての情報交換の重要性について、および進みつつある第三者の情報への依拠からリアルタイムデータへのアクセスへの移行について取り上げていました。2023年の報告書における当セクションでは、この分野の最近の動向に基づく最新情報を提供しています。
進捗報告書では、暗号資産報告フレームワーク(CARF)および関連する共通報告基準(CRS)の改定5における最新の動向について概説しています。進捗報告書によると、CARFおよび改定版CRSについて、一貫性のある国内的・国際的な適用および効果的な実施を確実にする実施パッケージを作成する取組みが完了に近づいています。
また進捗報告書では、クロスボーダーの情報交換に関連するその他のイニシアチブ(シェアリングエコノミーおよびギグエコノミーにおけるプラットフォーム運営者のためのモデルルール6を含む)をOECDが拡大し続けてきたと述べています。これらのモデルルールに基づく国際的な情報交換を推進するための権限ある当局の多国間協定には、2022年11月以降、25の国・地域が署名しています。さらに進捗報告書では、世界中の国・地域がCRSの効果的な実施を確実にすべく尽力する姿勢を示していると述べるとともに、共通報告基準の回避の取決めや不透明なオフショア構造に関するモデル強制開示ルールに基づいて国際的な情報交換を推進するための権限ある当局の多国間協定に、2022年11月以降、17の国・地域が署名していると指摘しています。
また、進捗報告書では、ハンガリーおよび日本においてコンプライアンスリスク管理プロジェクトの推進のためにCRSがどのように利用されているかについて、2つのケーススタディが盛り込まれています。
進行中の国際課税アジェンダでは、その一環として、開発途上国のニーズに応え、キャパシティビルディング(能力構築)を推進するために多大な努力が払われてきました。進捗報告書では、この点においてOECDが取り組んでいるさまざまなワークストリームに関する最新情報を提供しています。
進捗報告書によると、OECD事務局は、第2の柱が税制優遇措置に及ぼす影響を評価するために9つの試験プログラムに着手しています。これらのプログラムでは、専門家の協働により、税制優遇措置の設計が第2の柱の実施とどのように相互作用するかについて、各国の理解を促していく予定です。加えて、国際通貨基金、国際連合、世界銀行グループ、およびOECDの共同イニシアチブである、税に関する協働プラットフォーム(PCT)は、第2の柱の影響を反映させるべく税制優遇措置に関するツールキットを更新する取組みを続けていく予定です。
また進捗報告書では、第1の柱および第2の柱の実施に関連する課題への対応において各国を支援するキャパシティビルディングについて述べています。この支援には、教育訓練イニシアチブの提供、モデル法制の策定、ハンドブックの提供、指針資料の起草、および法制草案のレビューにおける助言の提供が含まれる可能性があります。ルールの執行における支援には、開発途上国による関連するデータへのアクセスの確実化が含まれる可能性があります。
第1の柱および第2の柱がもたらす課税上の課題に加えて、開発途上国が抱えるその他の優先事項には、デジタル化に伴うより幅広い課題が含まれると進捗報告書には述べられています。この点においてOECDは、電子商取引およびデジタル取引の成長に伴う付加価値税(VAT)をめぐる課題への対応に焦点を合わせた包括的なキャパシティビルディングのプログラムを設置し、世界銀行および地域機関との協力によって3つの地域VATデジタルツールキットを策定したと進捗報告書は指摘しています。2022年には20を超える開発途上国に二国間支援が提供されており、2023年にはさらなる拡大が計画されています。
G7財務大臣・中央銀行総裁会議の終了後に発表された声明には、BEPS2.0プロジェクトの第1の柱をめぐる交渉の進展、および第2の柱におけるさらなる取組みに関する文言が、以下のとおり盛り込まれています。
「我々は、OECD/G20包摂的枠組みによる経済のグローバル化及びデジタル化に伴う課税上の課題に対応し、より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた我々の強い政治的コミットメントを再び強調する。我々は、第1の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内にMLCの署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、第2の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎し、包摂的枠組みに対し、グローバルに一貫性のある実施のために、更なる執行ガイダンスについて作業することを求める。我々は、途上国に対して、二つの柱の解決策の実施に係る支援の重要性を強調しつつ、持続可能な税収源を築くための税に関する能力強化に対する支援を更に提供する。我々は、OECDの『21世紀の税務協力に関する2023年進捗報告書』を歓迎する。」
BEPS2.0プロジェクトがもたらす改革は、多国籍企業の活動の基礎となる国際課税構造を一変させることになると思われます。G7財務大臣は、これらの改革の迅速かつグローバルな実施に向けた政治的コミットメントを改めて表明しました。しかし、技術的な詳細や事務的な事項への対応のために包摂的枠組み内で行われるべき作業はまだ多く残されています。一方で、この作業が続く間にも、第2の柱の実施プロセスは世界各国で進行しています。
進捗報告書から分かるとおり、国際的な税務協力の将来像は変化し続けています。その焦点となっているのは、共通の、協働的な、デジタル対応のアプローチの採用です。法人所得税のみにとどまらず、より幅広い分野について、デジタルツールの配置によるリアルタイムの情報収集システムの導入による国際課税ルールの執行を強化するために、多国間の税務当局による取組みが進行しています。
これらのトレンドは、租税政策および租税執行における最新の進展を常に把握しておくことの重要性を浮彫りにしています。企業は、グローバルな動向を注意深く見守り、自社のビジネスにとっての潜在的な影響を見極める必要があります。
巻末注
角田 伸広 パートナー
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
西村 淳 パートナー
古川 武宏 パートナー
久保山 直 アソシエートパートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター
高垣 勝彦 シニアマネージャー
野々村 昌樹 シニアマネージャー
加藤 広紀 マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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