モビリティ(海外赴任)コラム:受入外国人赴任者に関する人事業務

ほんの数年前までは、海外進出が活発な国際企業であっても、人材採用・育成、報酬規程、研修、評価制度などの人事業務は、国ごとや法人ごとで運営していました。しかし最近では、国を跨(また)いだ人材配置やグローバル統一の報酬・評価制度の導入など、リソース活用のプラットフォームも全世界共通化してきており、国際企業の人事業務はさらに多様化・複雑化してきています。

日系企業の場合、日本から海外への人の異動が多いため、関連業務についての知見を積んできた会社が多くなってきました。一方、海外から日本への受入れ外国人赴任者については、比較的件数が少ないためか、やるべきことが見落とされていたり、何に注意を払うべきかが分からなかったり、という話をよく耳にします。

外国人赴任者については、赴任前⇒赴任中⇒帰任後という各ステージでやるべきこと、注意すべきことを整理し、チェックリストなどを作成して、いつ誰がどの業務を行うかということを簡単にマニュアル化することで、業務の見落としはかなり避けられると思います。その中に各ステージで注意すべき点についても盛り込むことができれば、より安心感が高まりますし、赴任者の数が増えても同じルーティンで作業することができるので、お勧めします。では一体、各ステージでどのような業務や注意点があるのでしょうか?

コンプライアンス上、しっかりとおさえておきたいことは、イミグレーション、税務、社会保険の三本柱です。赴任前ステージでは、適切なビザを取得し、赴任元国と日本の間に社会保障協定がある場合には赴任元国で社会保険(保障)に加入していることを証明する適用証明書の発行申請をし、出向契約書やアサインメントレターなど文書を通じて赴任元会社や赴任者との認識合わせをしっかりしておくなどの作業があります。国際間異動の場合、国ごとに税法が異なるため、両国で「居住者」というステータスになり二重課税が発生することもあります。二重課税を適正に回避・軽減するにあたり、出向契約書やアサインメントレターなどの文書の内容が客観的な判断要素として非常に重要ですので、必要情報をしっかりと文書に含めることが必須です。

着任~帰任までの赴任中ステージにおいては、人事データベースや給与計算の初期設定、社会保険の加入手続きなどから始まり、月次給与計算(グロスアップ含む)、経済的利益の課税取扱い判断、出向元法人との人件費精算、年末調整、確定申告、個人負担分の税金精算、税務調査対応など、コンプライアンス面だけを見ても人事ご担当者の業務は盛りだくさんです。また、これら全ての業務が相互に少しずつ絡み合う(例えば、経済的利益の課税判断を誤ってしまうと、月次給与計算や年末調整が正しく行われず、確定申告にも影響が出ることがある、等)ため、ひとつひとつの業務を丁寧に処理することが求められます。これら全ての業務をひとりの担当者が行うケースでは業務が属人化してしまうというリスクに繋がるため、極力避けなければいけません。複数名で担当する場合には、お互いに情報共有が漏れなくタイムリーに行われるような連携体制をつくる必要がありますが、この連携が上手くいかなかったために、課税漏れが発生し、源泉所得税の税務調査で追加納税を余儀なくされたという例も少なくありません。属人化や連携ミスを防ぐ方法として、社会保険や税務などの専門業務を外部委託することも選択肢のひとつと考えます。

赴任者が無事に帰任を迎え出国した後の帰任後ステージでは、帰任年の確定申告や個人負担分の税金精算、公的年金の脱退一時金還付申請などの手続きがあります。意外と盲点になるのは出国前年末調整や帰任年の翌年以降に発生する日本源泉所得の源泉徴収です。日本の税法上、国外への転居などにより居住者から非居住者に変わる場合、出国前に所得税の納税を完了させなければなりません。そのため、源泉徴収義務者である会社は、赴任者が出国する前にその年の年始から出国までの給与(経済的利益を含む)について年末調整と同様の手続きで源泉所得税を精算することになります。また、帰任者に株式報酬制度が付与されている場合は、帰任後数年にわたって日本源泉所得が発生する可能性がありますので、株式発行会社である日本の会社は、帰任者の株式報酬の課税所得を効率的に追跡できる環境を作るなどして、源泉徴収漏れが起きないようにすることが必要です。

今回は受入外国人赴任者に焦点をあててお話をさせていただきましたが、役員クラスの外国人赴任者や日本法人が直接雇用する外国人従業員に関する人事業務についても、知っておくべきこと・気をつけるべきことなどがありますので、今後このモビリティコラムで触れていきたいと思います。
 

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