モビリティ(海外赴任)コラム:海外勤務者の社会保険について

日本の社会保険は毎年7月上旬に定時決定が行われ、4月から6月に支払われた実際の給与と標準報酬月額の乖離がないように見直しがされた後、その年の9月から反映されることになります。定時決定の対象となるのは、7月1日時点で健康保険・厚生年金保険の被保険者である全ての従業員であるため、海外勤務者についても対象となります。

そこで今回は海外勤務者にかかる標準報酬の考え方、社会保険の留意点について見ていきたいと思います。標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、勤務地手当、家族手当、住宅手当など労働の対償として事業所から現金または現物で支給されるものとされています。現物で支給されるものの例としては、住宅手当のほか、創業記念品、出向にかかる旅費や転居費用など、所得税においては非課税として処理できるものでも社会保険料を計算するための標準報酬に含まれることになります。

海外勤務者については、日本と海外の二重の雇用が発生するため、標準報酬の考え方は注意が必要です。平成26年(2014年)3月に日本年金機構から「海外勤務者の報酬の取扱い」が公表されましたが、公表前は以下の取扱いがされていました。

(1)日本の法人から海外勤務者に給与が支給される場合:海外勤務者の厚生年金と健康保険の資格は継続し、日本の法人から支給される給与(賞与、現物給与を含む)を報酬等とする。
(2)日本の法人から海外勤務者に給与が支給されない場合(外国の法人から海外勤務者に給与の全額が支給される場合):海外勤務者は、日本の法人との使用関係はないため、健康保険・厚生年金の資格を喪失する。

その後、平成26年(2014年)3月に日本年金機構から「海外勤務者の報酬の取扱い」が公表され、以下の取扱いが明らかにされました。
①日本国内の厚生年金保険適用事業所での雇用関係が継続したまま海外で勤務する場合、出向元から給与の一部(全部)が支払われているときは、原則、健康保険・厚生年金の加入は継続する。
②労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、給与明細等に記載があるものについては、原則、すべて「報酬等」となる。
③海外の事業所から支給されている給与等であっても、適用事業所(国内企業)の給与規定や出向規定等により、実質的に適用事業所(国内企業)から支払われていることが確認できる場合は、その給与等も「報酬等」に算入することになる。
④適用事業所(国内企業)の給与規定や出向規定等に海外勤務者に係る定めがなく、海外の事業所における労働の対償として直接給与等が支給されている場合は、適用事業所から支給されているものではないため、「報酬等」には含めない。
ただし、上記③の「適用事業所(国内企業)の給与規定や出向規定等により、実質的に適用事業所(国内企業)から支払われていることが確認できる場合」が、具体的にどのようなケースかは明らかではないため、「海外の事業所から支給されている給与等」が報酬等に該当するかどうかを見極めるのは非常に難しい状況です。

「海外勤務者の報酬の取扱い」が公表された当時に年金事務所の担当者からは、以下の回答を得ており、従前の取扱いがそのまま継続されていると考えられます。

  • 「海外勤務者の報酬の取扱い」を公表した趣旨は、これまでの内部的な取扱いを公表したもので、従来の取扱いを変更するものではない。
  • 上記③の「適用事業所(国内企業)の給与規定や出向規定等により、実質的に適用事業所(国内企業)から支払われていることが確認できる場合」とは、本来、国内の事業所が給与規定に基づいて支払うべきものを、海外の事業所が代わりに支払う場合のように、実質的に国内の事業所が支払うことと同様の状況であるものが該当するが、出向形態や給与の支払い方法はさまざまなので、一概にどのようなものかを回答することはできない。
  • 「実質的に適用事業所から支払われている」とは、海外の事業所が海外勤務者に支払う給与を、適用事業所が負担(経費負担)するという意味ではない。
  • 海外勤務者の給与が、①適用事業所から支給される給与(いわゆる留守宅手当)と②海外の事業所から支給される給与の2カ所から構成されている場合において、それらの給与の支給割合を海外勤務者の意思によって自由に変更できるケースであっても、適用事業所から支給される給与のみが報酬に該当する。

最近は年金事務所による事業所調査において、海外勤務者の報酬について指摘を受けるケースも出てきています。
上記にある年金事務所の回答は担当者によって異なる見解もありますが、実務処理を考える上でご参考になれば幸いです。

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川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです