EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
海外へ赴任者を送る、または海外から赴任者を受け入れるにあたっては、さまざまな検討事項や課題が発生します。中でも、赴任者のコストについては頭を悩ませてしまうことも多いのではないでしょうか。
「赴任者のコスト」というと、「どのくらいの金額感になるのか?」「赴任先で赴任者のコストを負担する体力(財力)はあるのか?」「日本側でコストの負担をしても問題ないか?」など、疑問は色々ありますが、やはりまず気になるのは金額感だと思います。最近は、赴任に係る諸手当(家賃、生活費手当、赴任手当、教育費、租税手当、等)をあらかじめ月額給与に含めて支給し、赴任者本人がその支給額から現地で係る諸経費や税金などを支払うケースも少しずつ見受けられるようになりましたが、日系企業の大半は、手取り補償を前提とし、税金・社会保険を含めて現地諸経費を会社が負担しているケースが多いと思います。
赴任者コストの試算については、EYもサービスメニューとして持っており、新規赴任者が決まるとクライアントから赴任国、給与、手当、家族構成などの詳細情報をお預かりして現地所得税などを計算しますが、日系企業の場合はまだ、赴任者コストの試算を社内で行う会社が多いと思います。せっかく時間と労力をかけて計算するのですから、それなりに正確な数字を算出したいところですが、そのためには、計算の基となる給与や手当、経費などの金額が想定値に近くなければなりません。海外赴任者における代表的な経費と言えば、家賃、教育費、車などが挙げられますが、それらの金額の相場感は外部の媒体から情報収集することができるため、コストの予想が比較的容易です。一方、手取り補償をして現地所得税を会社が負担する場合の現地所得税の金額については、ざっくりとした税率を用いて計算するという、苦肉の策で対応していることが多いのではないでしょうか。
そこで気をつけたいことは、国によって手当や経費の課税の仕方が異なるという点です。例えば、日本には「社宅制度」というものがあり、ある一定の条件を満たせば社宅(借上げ住宅を含む)という経済的利益が課税の対象にならないことや、おおむね1年に1回のホームリーブについては課税しなくても良いという取扱いがありますが、一部条件を満たすことで課税軽減されることもあるものの、これらの経費を課税対象とする国が少なくありません。意外と盲点になるのは、確定拠出年金など会社が運営する年金制度における会社拠出金が日本では非課税ですが、自国以外の国で運用されている年金制度への会社拠出金は課税とする国がほとんどであったり、赴帰任時に発生する引越し費用が米国では課税となっていたり、また日本の社会保険料の会社負担分が中国では課税としていることなどがあるという点で、これらにかかる現地所得税が赴任者コストの試算から漏れてしまうことが多いように見受けられます。
仮に、社会保険の標準報酬月額が35等級(月額給与65万円)の従業員が中国へ赴任した場合の会社負担分社会保険料が月9万5,000円(年額114万円)で、現地の適用税率が30%だとすると、グロスアップを加味して約50万円の現地所得税が発生します。対象者が100名いれば合計5,000万円のインパクトになります。米国の引越し費用も同様に、例えば200万円の引越し費用が現地の最高税率37%でグロスアップすると、約120万円の現地所得税が発生し、年間の赴任者が30名いると想定すると、引越し費用に係る現地所得税の合計が約3,600万円となります。
これらの経費が赴任先国で課税対象であることを知らずに試算すると、その分の金額にズレが生じることとなります。あくまで「試算」であれば、そこまで精緻な計算は不要ではあるものの、現地の課税取扱いを正しく加味しながら試算することができれば、それに越したことはありません。
試算の範囲で金額にズレが出ることは受け入れられるとしても、実際の現地所得税は正しい課税関係の下で計算する必要があります。海外赴任者の手当・経費の課税取扱いは、時にとても複雑な場合があり、もろもろ条件を満たすことで非課税のメリットを享受することもできれば、逆に条件を満たさずに課税となる場合もあります。現地の担当会計事務所がそれらの条件を十分理解し、外国人赴任者の税務に精通していれば心配ありませんが、中には外国人赴任者の特殊事情が税額計算に反映されず、税金の過払いまたは課税漏れなどが生じていたこともあります。この機会に現地の所得税取扱いについてヘルスチェックをしてみてはいかがでしょうか。
川井 久美子 パートナー
土田 真喜 アソシエートパートナー
羽山 明子 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
EYの関連サービス
国境を越えた人材の異動が日常的に行われる中、海外赴任者や出張者の働き方も多様化し、海外人事の税務・労務管理にはより複雑な対応が求められています。 ピープル・アドバイザリー・サービスチームでは、海外赴任者に関連する業務を通じて、海外人事を幅広くサポートします。
続きを読むメールで受け取る
メールマガジンで最新情報をご覧ください。