モビリティ(海外赴任)コラム:国際的リモートワーカー(デジタルノマド)の受入れ

1. 序

日本政府は、「新しい資本主義」を掲げ、地方創生やグローバル競争力の強化、新しい働き方の推進等に取り組む一環として、海外起業家や、エンジェル投資家を含む投資家の誘致拡大に取り組んでいます。また、デジタル技術の進歩や働き方の多様化等によって国際的なリモートワーカー、いわゆるデジタルノマドが増加しており、デジタルノマドの誘致に向けた制度整備が行われてきました。

2. 日本における受入れ

2024年2月3日、出入国在留管理庁は、デジタルノマドを一定要件の下で受け入れるための法務大臣告示改正に係るパブリックコメント手続を開始しました。今後、提出されたパブリックコメントの結果を反映した内容の改正告示が公布される可能性があります。以下は、パブリックコメント手続開始時の情報を基にしておりますので予めご承知おきください。なお、改正告示は、2024年3月下旬に公布・施行される予定です。

3. デジタルノマド本人に認められる活動内容*

海外の会社・団体との雇用契約があることを前提にして、次の活動が認められています。

(1)日本にいながら、海外の会社のために、情報通信技術を用いて業務に従事する活動
(2)海外にいる人に対して、日本にいながら役務を有償で提供する業務に従事する活動、もしくは、海外にいる人に対して、日本にいながら物品等を販売する活動(ただし、日本に入国しないと提供、又は販売等できない場合を除きます)

すなわち、インターネットを通じて仕事ができるマーケティング、コンサルティング、企業経営、プログラマー、海外から広告収入を得るYouTuberなどが該当すると考えられています。

他方、日本の会社との契約に基づいて報酬を受ける活動や、海外の会社や海外にいる人ではなく、もっぱら日本国内の会社等に役務を提供する活動等は認められない点に注意が必要です。

*(1)外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体との雇用契約に基づいて、本邦において情報通信技術を用いて当該団体の外国にある事業所における業務に従事する活動

 (2)外国にある者に対し、情報通信技術を用いて役務を有償で提供し、若しくは物品等を販売等する活動(本邦に入国しなければ提供又は販売等できないものを除く。)。

4. デジタルノマド本人に求められる要件

次のいずれにも該当する必要があります。

①日本に上陸する年の1月1日から12月31日までのいずれかの日において開始し、又は終了する12月の期間の全てにおいて、日本での滞在期間が6カ月を超えないこと
②租税条約の締約国等かつ査証免除国・地域の国籍者等であること
③年収が1,000万円以上であること
④本邦滞在中に死亡、負傷又は疾病に罹患した場合における保険に加入していること

なお、上②の要件を満たすのは次の50の国・地域となります。

アイスランド、アイルランド、アメリカ、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、インドネシア、ウルグアイ、オーストリア、オーストラリア、オランダ、カタール、カナダ、ギリシャ、クロアチア、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、セルビア、タイ、チェコ共和国、チリ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、ブラジル、フランス、ブルガリア、ブルネイ、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マレーシア、メキシコ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク、韓国、香港、台湾

5. デジタルノマドの家族が帯同を認められるための要件

①デジタルノマド本体と法律婚の関係にあること(配偶者)、又は、
②デジタルノマド本体の実子又は養子であること(子)
③査証免除国・地域の国籍者等であること
④本邦滞在中に死亡、負傷又は疾病に罹患した場合における保険に加入していること

6. デジタルノマド本人、家族の在留期間等

デジタルノマド本人、家族について認められる在留期間は、「6カ月」で、更新は認められません。6カ月を超えて、日本でリモートワークを希望する場合には、一度日本を出国し、一定期間(6カ月)を経過後、再度利用することができます。

なお、デジタルノマド本人、家族について、資格外活動許可は原則認められません。

7. 手続

デジタルノマドの要件を満たす場合は、在留資格「特定活動」が認められます。

デジタルノマドとして来日するためには、次の手続となります。

①在留資格認定証明書交付許可申請(管轄の地方出入国在留管理局)
②国籍国・居住国の日本大使館・総領事館で査証申請
③上陸許可

なお、デジタルノマド本人、家族は、在留期間6カ月が与えられても、中長期在留者には該当しないとされ、在留カードが交付されない点に注意が必要です。在留カードがない場合、住民登録ができず、日本で銀行口座を開設したり、携帯電話を契約したりすることは著しく困難であると思われます。

8. 税務のコメント*

デジタルノマドビザを対象とした税務上の取扱いに関し、個別の方針などは現在までに国税庁等から発表されていません。しかし、認められる活動内容(上記3)や本人に求められる要件(上記4①②)から、海外企業から日本への出張者の給与等に対し適用される租税条約(給与条項)、いわゆる短期滞在者免税の適用を考慮した要件設定となっているように見受けられます。

一例として、海外企業の従業員がデジタルノマドビザにより来日する場合には、以下のようなケースに該当することが想定されるため、この間の給与等については短期滞在者免税の適用により日本では免税となる可能性が高いと考えられます。

  1. 雇用主である海外企業のための業務を行う(「認められる活動内容」を満たす)
  2. 日本滞在期間が183日(6カ月)以下(「本人に求められる要件」および短期滞在者免税の日数要件**を満たす)
  3. 給与等は当該海外企業が支払い、負担する(短期滞在者免税の支払・負担要件**を満たす)

上記1および2はデジタルノマドビザの要件となっているため当然に該当することとなりますが、短期滞在者免税は日数要件(いわゆる183日ルール)以外にも支払要件・負担要件を満たす必要がありますので、免税適用を考える上では上記3にも留意が必要です。

*上記コメントは、執筆時点の関連法令等に照らした場合の税務上の一般的な取扱い例です。
**短期滞在者免税の実際の適用にあたっては、各対象国との間の租税条約の内容を確認ください。

9. 諸外国におけるデジタルノマドビザ

デジタルノマドをめぐる世界各国の状況はさまざまです。

①デジタルノマドビザがある国:マレーシア、タイ、スペイン、ポルトガル等

これらの国々では、年収要件や医療保険、社会保険の加入義務などが課せられる点では共通している一方、在留できる期間には幅があります。

②デジタルノマドビザはないが、他のビザをもって、デジタルノマドが認められる制度がある国:ドイツ、台湾、カナダ、イギリス、オーストラリア等

これらの国々では、デジタルノマドビザはないものの、就労ビザ等によって、リモートワークができます。

10. 結

現在、日系企業ではデジタル人材が非常に貴重な存在となっています。今後、日系企業は、日本に滞在している優秀なデジタルノマドと出会い、採用を考えることがあるかもしれません。デジタルノマドを採用する場合には、在留資格変更の手続が必要と思われますが、デジタルノマドは在留期限が6カ月に限定されていることから、手続のタイミング等には注意が必要です。

すでに述べたとおり、提出されたパブリックコメントの結果を反映して、改正告示の内容が変更される可能性がありますので、最終的な要件や手続については、改正告示の公布を待って判断するようにしてください。

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