宇宙戦略基金の基本方針及び実施方針が決定  ~宇宙ビジネス開発に向けて、日本において10年間1兆円規模の補助金~

宇宙戦略基金の基本方針及び実施方針が決定 ~宇宙ビジネス開発に向けて、日本において10年間1兆円規模の補助金~

背景

人類の活動領域の拡大や宇宙空間からの地球の諸課題の解決が本格的に進展し、経済・社会の変革(スペース・トランスフォーメーション)がもたらされつつあります。

多くの国が宇宙開発を強力に推進するなど、国際的な宇宙開発競争が激化する中、革新的な変化をもたらす技術進歩が急速に進展しており、日本においても技術力の革新と底上げが急務となっています。

令和5年6月13日に「宇宙基本計画1」が閣議決定され、同年12月22日には、宇宙基本法に基づき内閣に設置された宇宙開発戦略本部により工程表が決定されました。

さらに、令和5年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策2」においては、生産性向上・供給力強化を通じて潜在成長率を引き上げるための国内投資のさらなる拡大のため、宇宙や海洋はフロンティアとして市場の拡大が期待され、宇宙については、民間企業・大学等による複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するため、宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)に10年間の「宇宙戦略基金」を設置し、そのために必要な関連法案を早期に国会に提出するとされました。同基金について、まずは当面の事業開始に必要な経費を措置しつつ、速やかに総額1兆円規模の支援を行うことを目指すこととされました。その際、防衛省等の宇宙分野における取組と連携し、日本政府全体として適切な支援とするとともに、H3ロケットの開発・打上げや衛星コンステレーションの構築、アルテミス計画への参画、準天頂衛星システムの7機体制の確立と11機体制に向けた検討・開発への着手、次期気象衛星の整備を進めるなど、宇宙産業を成長産業とする取組を一体的に進めることが述べられています。

スペース・トランスフォーメーションの加速を実現するために、民間企業・大学等が複数年度にわたる予見可能性を持って研究開発に取り組めるよう、日本の内閣府、総務省、文部科学省並びに経済産業省が「宇宙戦略基金」を創設し、JAXAの役割・機能を強化し、同基金の委託を受け、戦略的かつ弾力的な資金供給として、民間企業、大学、国立研究所等に補助金を交付することとされ、令和5年度補正予算3,000億円(総務省240億円、文部科学省1,500億円、経済産業省1,260億円)が組まれ、令和6年4月26日に、内閣府、総務省、文部科学省並びに経済産業省から基本方針と実施方針が公表されました。

本税務ニュースにおいては、民間企業の立場から宇宙戦略基金による補助金の活用を検討するに際して、同基金の概要を解説しています。

宇宙戦略基金の目的

本基金事業では、「市場の拡大」、「社会課題解決」、「フロンティア開拓」の3つの出口に紐づく次の項目の実現を加速・強化することを目標としています。

  1. 宇宙関連市場の拡大:「宇宙基本契約」では、2020年に4兆円となっている市場規模を2030年早期に8兆円に拡大していくこと
  2. 宇宙を利用した地球規模・社会課題解決への貢献:エネルギー、環境、農林水産業、公衆衛生、水循環・気候変動等の地球規模問題の解決やSDGsの達成、安全保障への貢献
  3. 宇宙における知の探究活動の深化・基盤技術力の強化

技術開発の方向性

本基金事業では、「輸送」「衛星等」「探査等」の各分野において次の方向性に沿った技術開発を推進するとされています。

図表1 技術開発の方向性

出典:内閣府「宇宙戦略基金について(全体概要)(令和6年4月内閣府宇宙開発戦略推進事務局)」(2024年5月21日アクセス)を基にEYが編集
 

技術開発テーマ

令和6年3月28日に宇宙政策委員会が決定した「宇宙技術戦略3」において、「宇宙輸送」、「衛星」、「宇宙科学・探査」「分野共通技術」について、日本が推進すべき技術とロードマップが記載されており、同基金の技術開発テーマの設定に際して参照することとされています。その上でJAXA主体ではなく、民間企業・大学等が主体となることで、より効果的な技術開発の推進が図られる技術開発テーマを設定するとしています。

総務省4、文部科学省5、並びに経済産業省6の宇宙戦略基金の実務方針では、令和5年度補正予算措置分として、22の技術開発テーマが掲げられています。

図表2 技術開発テーマ

出典:内閣府「宇宙戦略基金について(全体概要)(令和6年4月内閣府宇宙開発戦略推進事務局)」、「宇宙戦略基金 実施方針(総務省計上分)(令和6年4月26日総務省 内閣府)」「宇宙戦略基金 実施方針(文部科学省計上分)(令和6年4月26日文部科学省 内閣府)」「宇宙戦略基金 実施方針(経済産業省計上分)(令和6年4月26日経済産業省 内閣府)」(いずれも2024年5月21日アクセス)を基にEYが編集
 

支援方法等

本基金事業では、国内に研究開発拠点を有し、日本の法律に基づく法人格を有している民間企業、大学、国立研究開発法人等7を対象としています。また、代表機関の研究代表者及び連携機関の研究分担者は日本の居住者8であることとされています。

技術開発の実施に当たって、間接経費の額は、直接経費の30%に当たる額を上限、うち民間企業等への補助事業については、直接経費の10%にあたる額を上限とし、各技術開発テーマの性質や、その経費の使途、実施機関の規模等に応じて、設定することができるものとされています。

知的財産権の出願に係る費用及び適切な情報管理に必要な費用、ロケット調達や衛星の周波数の調整に係る経費は、その必要性や妥当性についてJAXAと協議の上、直接経費として支出ができるものとされています。

支援期間は最大10年の範囲内で、実施方針において技術開発テーマごとに定められます。

支援形態としては、JAXAから民間企業・大学等への委託事業又は補助事業として実施されます。JAXAが資金配分機関として特にマネジメントを行うべきテーマであって、実施者の裨益が顕在化していない若しくは具体予測しがたい技術開発(現時点では収益化が困難な技術開発)、技術成熟度が低く事業化までに長期を要する革新的な技術開発、又は協調領域・基盤領域としてわが国の業界全体への裨益が大きい技術開発等については委託事業として実施されます。一方、(将来的に)民間企業による商業化等、実施者の裨益が大きいと見込まれるもの等については、補助事業として実施されます。

技術開発テーマごとに委託事業又は補助事業の別が定められ、技術開発テーマごとの次の図表3にある類型別に、補助事業の場合の補助率上限が定められています。

図表3 支援の類型

*Technology Readiness Level (TRL): NASA基準を参照、宇宙実証を伴わないもの等についてはDOE基準も参照。
https://www.nasa.gov/directorates/somd/space-communications-navigation-program/technology-readiness-levels/
https://www.directives.doe.gov/directives-documents/400-series/0413.3-EGuide-04a-admchg1/@@images/file

出典:内閣府「宇宙戦略基金について(全体概要)宇宙戦略基金について(全体概要)(令和6年4月内閣府宇宙開発戦略推進事務局)」「宇宙戦略基金 実施方針(総務省計上分)(令和6年4月26日総務省 内閣府)」「宇宙戦略基金 実施方針(文部科学省計上分)(令和6年4月26日文部科学省 内閣府)」「宇宙戦略基金 実施方針(経済産業省計上分)(令和6年4月26日経済産業省 内閣府)」(いずれも2024年5月21日アクセス)を基にEYが編集

中小企業とは、科学技術・イノベーション活性化法律第2条第14項に規定する中小企業者を指し、スタートアップとは、原則設立15年以内の同法第2条第14項に規定する中小企業者をいい、J-Startup又はJ-Startup地域版選定スタートアップを含むとされています。

また、同法令第2条の二第2項第8号では、直接又は間接の構成員の3分の2以上が中小企業者である技術研究組合も中小企業者の範囲とされています。

本基金事業の趣旨に鑑み、JAXAは、以下の観点等に留意しつつ技術開発課題の選定を行うこととされています。なお、技術開発テーマごとの評価の観点等については、実施方針において定められます。

  • 本事業の目標や関連の指標、各技術開発テーマの成果目標の達成等に大きく貢献し得る技術の創出や商業化等に向けて実現可能性を有し、実効的な計画であること。
  • 国内外の技術開発動向を踏まえ、優位性、独自性を有すること。(近い将来の事業化に向けた技術開発テーマである場合)実施機関の経営戦略等に位置付けられており、市場展開に向け、経営者のコミットメントが得られていること。また、VC(venture capital)等の金融機関からの評価等、民間資金の調達に向けた将来性が期待できること。
  • わが国全体の宇宙分野の技術開発リソース等も鑑み、有効な体制となっていること。また、研究代表者及び研究分担者が目標達成に向け、リーダーシップ及びマネジメントを発揮できること。
  • 技術開発成果、技術開発データ、知的財産権等が有効に活用できる体制であること。また、技術開発に関する情報を適正に管理するために必要な計画・体制であること。

産業競争力強化の観点から、国内産業への波及効果等の日本への裨益が特に期待される場合には、支援対象となる実施者が、JAXA及び各府省と協議の上、国内産業に十分な付加価値を提供することや技術開発成果の用途、国外への技術流出リスク等については十分に留意し、適切な技術情報管理や知財マネジメントを実施することを条件に、同盟国・同志国との国際共同研究・実証等を行うことが可とされています。

運営体制

JAXAは、外部有識者にて構成される第三者の審査体を設置し、厳正かつ公正な審査、評価を行うとともに、自らの高度かつ専門的な知見及び経験を活かした技術開発マネジメントを実施することとされています。

JAXAは、本事業全体の管理を行うステアリングボード(その座長をプログラムディレクター<PD>と呼びます)を設置します。また、各領域(宇宙輸送、衛星、宇宙科学・探査等)の技術開発テーマのプログラムオフィサー(PO)を任命し、POは、各技術開発テーマの採択・ステージゲート評価等を行う他、実施内容の中止・見直し・加速・連携を判断するなどについての最終的な決定を行います。

JAXAは、技術開発テーマや技術開発課題に応じたマイルストンの設定や、ステージゲート評価を通じた進捗確認や社会実装可能性等の評価を行い、必要に応じて当該技術開発課題の見直し(予算配分の変更、中止を含む)等を行うこととされています。

今後の予定

「宇宙戦略基金 実施方針」に基づき、JAXAにおいて各技術開発テーマに関する公募が行われる予定です。各企業においては、「宇宙戦略基金 実施方針」を理解し、自社における宇宙事業の開発計画の精査、複数の機関との連携等技術開発実施体制の構築、補助率上限による自己負担分の資金獲得等を行い、宇宙戦略基金の技術開発テーマに応募に備えることが考えられます。

巻末注

  1. 内閣府「宇宙基本計画(令和5年6月13日閣議決定)」(2024年5月21日アクセス)
  2. 内閣官房「デフレ完全脱却のための総合経済対策デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~(令和5年11月2日閣議決定)」(2024年5月21日アクセス)
  3. 内閣府「宇宙技術戦略の概要(2024年3月28日宇宙政策委員会)」(2024年5月21日アクセス)
  4. 内閣府「宇宙戦略基金 実施方針(総務省計上分)(令和6年4月26日総務省 内閣府)」、(2024年5月21日アクセス)
  5. 内閣府「宇宙戦略基金 実施方針(文部科学省計上分)(令和6年4月26日文部科学省 内閣府)」(2024年5月21日アクセス)
  6. 内閣府「宇宙戦略基金 実施方針(経済産業省計上分)(令和6年4月26日経済産業省 内閣府)」(2024年5月21日アクセス)
  7. 協働利用機関法人、高等専門学校、技術研究組合、公設試等を含みます。
  8. 外国為替及び外国貿易法上の居住者(特定類型該当者を除く)を指します。

お問い合わせ先

EY税理士法人

Balazs Nagy アソシエートパートナー
荒木 知 ディレクター
大堀 秀樹 ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです