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国際会計基準審議会(IASB又は審議会)は2020年1月23日、負債を流動負債又は非流動負債に分類する際の規定を定めるために、IAS第1号「財務諸表の表示」の第69項から第76項の改訂(本改訂)を公表した。
本改訂は、第69号の分類原則が、企業が既存の融資契約の下で債務の借り換え又はロールオーバーを見込む場合の第73項の規定にどのような影響を及ぼすかに関する明確化を望む要望書がIASBに寄せられたことに端を発している。
本改訂は、2012年5月に公表された公開草案「IFRSの年次改善2010-2012年サイクル」の一環で最初に提案され、その後2015年2月にこの論点に関する単独の公開草案「負債の分類(IAS第1号の改訂案)」が改めて公開された。最終的な改訂は、上記の論点に限定されていた2015年のEDに示された提案を超えた改訂となっている。具体的には、当該改訂により、財務制限条項違反に関する規定に影響が生じる可能性がある。
IASBは、「少なくとも12カ月にわたり延期することのできる無条件の権利を企業が有していない場合、負債は流動負債になる」と規定している、第69項の4番目の要件の「無条件の」を削除することにより、分類の明確化に関する当初の要望書に対応した。IASBは、決済を延期する権利は多くの場合、財務制限条項への準拠が条件になることから、決済を延期する権利が無条件となるのは稀であると説明していた。したがって、負債の決済を延期する権利が特定の条件に準拠することが前提となる場合、IASBは、企業が報告期間の末時点で当該条件に準拠しているケースでは、報告期間の末時点で負債を延期できる権利を有しているものと決定した。
現行の実務では、「無条件の権利」は、改訂後の基準における「権利」と同じような意味を有すると解釈される。よって、将来の期間における財務制限条項への準拠を条件とする権利は、企業が報告期間の末時点で当該条件に準拠している場合に「無条件」とみなされる。したがって、我々は、この明確化により現在の実務に大きな影響が生じることはないと考えている。
本改訂はまた、報告期間の末時点で存在していなければならないとされる権利に関する規定が、貸手による契約条件準拠の判定を報告期間の末時点もしくはその後行うか否かに関わらず、適用されることを明らかにしている。
IASBは、契約条件がある期間の業績の累計額、例えば利益の測定に関係するもので、かつ当該期間が報告期間末をまたぐように設定されている場合において、報告期間の末時点における企業の契約条件準拠を、経営者がどのように判断すべきかに関するガイダンスを定めるべきかどうかを検討した。IASBは、そのようなケースでは、比較可能性を維持するために、企業は報告期間を超える期間の将来業績を見積もる、あるいは代替手段として、業績期間のベンチマークを報告期間末時点に合わせるべく調整する必要があろうということで一致した。適用される契約条件に準拠しているかどうかの判断に際し、比較可能性がある場合にのみ、そうした見積りや調整は、適切である。しかし、それぞれのケースで事実と状況は異なることから、IASBは、比較可能性に向けて調整する際に適用すべき方法については特定しないこととした。
将来の財務制限条項への準拠の判定を、報告期間末時点の分類において考慮すべきかに関しては、現状の実務にばらつきがみられる。したがって、本改訂が一部の企業の実務に影響を与える可能性がある。
また、IASBは、企業による財務制限条項の違反又は期限前償還などの後発事象が負債の分類に影響を与えるかどうかについても検討した。
IAS第1号第75A項は「負債の分類が、報告期間後少なくとも12か月の負債の決済を延期する権利を企業が行使する可能性に影響されることはない」ということを明確化するために、追加された。
したがって報告期間末日以降(かつ財務諸表の公表が承認される前の)の事象に関するいかなる予測も、報告期間末時点でなされた負債の分類の検討に影響を及ぼすことはない。経営者が報告期間後すぐに金融負債を決済することを意図しても、決済を少なくとも12か月延期する権利を有している限り、負債は非流動負債に分類される。財務諸表の公表が承認された時点で決済が行われるとしても負債は、同じように非流動負債に分類される。しかし、負債の決済など、負債の状況の変化に関する開示規定がIAS第10号「後発事象」に存在することには留意しなければならない。
一般的に我々は、経営者の想定及び意図に関する明確化が、実務に著しい影響を及ぼすことはないと考えている。というのも現在の実務において、大半の企業が分類を判断する際に報告期間末時点で当該権利を検討しているからである。しかし、負債が流動負債であるか非流動負債であるかを判断する際に経営者の予測と意図について考慮する企業が存在することも認識している。
IASBは、負債の「決済」が何を意味するのかを明確化するために新しく2つの項(第76A項及び第76B項)をIAS第1号に追加し、企業の負債の決済と資源の流出とを結びつけることが重要であると結論付けた。
第76A項は次のように定めている。
「負債を流動負債又は非流動負債に分類する目的上、決済は、結果として負債の消滅につながる相手方当事者への移転をいう。移転は以下のいずれかによる。
a) 現金又はその他の経済的資源。例:財又はサービス
b) 企業の自己の資本性金融商品。第76B項が適用される場合を除く」
多くの負債は企業からの現金の移転により決済される。また、財やサービスなど、現金以外の資源あるいは企業の自己の資本性金融商品の移転により決済される負債も存在する。
第76A項で明確化されたとおり、自己の資本性金融商品による決済は、負債の流動又は非流動への分類目的上は決済とみなされるが、1つの例外が存在する。その例外は第76B項において「相手方の選択で、自己の資本性金融商品の移転により決済を可能にする負債の契約条件については、IAS第32号「金融商品:表示」を適用して当該オプションを資本性金融商品として分類し、複合金融商品の資本要素として負債から区別して認識する場合には、流動負債又は非流動負債への分類に影響を与えない」と規定されている。したがって、転換オプションが負債、もしくは負債の一部として分類される場合、資本性金融商品の移転は、流動負債又は非流動負債への分類目的の観点からは負債の決済となる。転換オプション自体が資本性金融商品に分類される場合にのみ、負債が流動負債であるか非流動負債であるかの判断において、自己の資本性金融商品による決済は考慮対象外となる。
従前の基準と同じであるが、借入のロールオーバーは、既存の負債の延長と考えられ、したがって「決済」を表すものではないと考えられる。
転換オプションを資本又は負債に分類することの影響については、今回の改訂により実務に影響を受ける企業もありうる。というのも、現在の基準は、負債を流動負債又は非流動負債に分類する際に自己の資本性金融商品の移転による決済を考慮外とするために、転換オプションの資本への分類が求められるかどうかを明確に定めていないからである。
IAS第1号の改訂は、2022年1月1日以降に開始する年度から適用しなければならない。当該改訂は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って遡及適用しなければならない。早期適用も容認される。
多くの企業がすでに本改訂に準拠していると考えるであろう。しかし企業は、改訂により現在の実務に影響が生じないかどうかを検討する必要がある。このことも、IASBが適用日を2022年1月1日に定めた理由の一つである。企業は、現行の融資契約の条件を見直さなければならなくなる、本改訂に伴う規定が存在しないかどうか、慎重に検討する必要がある。この点から強調されるのは、本改訂が遡及適用しなければならないということが重要であるということである。
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