EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
金利上昇の結果として成長率が低迷し、3月期の国民経済計算においてもその傾向が見られました。
主要な数字を見ると、インフレ圧力から抜け出すのに十分なほど景気が減速しているように見えるかもしれませんが、GDPのデータは、経済が停滞しているにもかかわらず、インフレ率がまだ必要な水準に達していないことを示しています。家計の国内物価上昇率は4.6%と非常に高く、2023年12月期からほぼ変化がありませんでした。
F1グランプリやテイラー・スウィフトとピンクのコンサートに関連した旅行や宿泊の需要が急増したため、これが思わぬ要因となり、3月期の消費は予想を上回る0.4%の上昇となりました。
オーストラリア準備銀行(RBA)は一過性のイベントに注意を払いますが、確かな需要指標を無視することはありません。当期の家計貯蓄率は所得の0.9%にとどまり、貯蓄総額が1年間で2.0%を下回ったのは世界金融危機以降初めてのことです。
今年もRBAによる利上げがないとすると、230億豪ドルの減税とさらなる実質賃金のプラス成長と相まって、消費が上向く可能性もあります。
企業投資は低迷し、当四半期は鉱業プロジェクトが減少し、州・地方政府の教育プロジェクトの一部完了や医療プロジェクトの遅れが政府投資を押し下げました。しかし、これらはデータの不均一性を反映したもので、ここ最近の公共・民間投資は高い水準にあります。データセンターに対する需要の高まりは、機械設備投資の増加という形で表れ、経済にAI関連投資の波が早くも押し寄せていることを示しています。投資意欲は、投入コストと賃金の上昇にもかかわらず、依然として前向きな見通しです。サイバーセキュリティは多くの組織にとって重要なテーマであり、官民を問わず今後もデータに対するニーズは高まるでしょう。
政府のインセンティブもあり、堅調な再生可能エネルギー・インフラ投資もこの明るい見通しを後押ししていると思われます。パンデミック以来好調な政府消費は、当四半期も伸びています。メディケアや医薬品給付スキームを通じた医療プログラムやエネルギー料金補助など、家計部門への援助は、連邦政府の職員の増員と同様に好調の一因となっています。
オーストラリア統計局(ABS)は、当四半期に軍事演習が増加したことも国防費が増加した原因であるとしていますが、国家安全保障政策の変更もこの数字を押し上げたと思われます。
3月期は輸入が大幅に増加したため、海外売上高がGDPの数字を押し下げることになり、複雑な結果となっています。肥料から衣料品に至るまで、あらゆる商品の輸入の増加はサプライチェーンの改善と需要が増加したことを示すものです。しかし、輸入品の多くは在庫として積み上がり、GDPには逆にプラスに働きました。ABSによると、卸売業と小売業は1〜3月期に22億豪ドル相当の販売用の在庫を積み増しました。
オーストラリア人が休暇でヨーロッパに行く代わりに、より近いアジア諸国、特に為替レートが有利な日本に旅行先を変えたため、サービスの輸入は減少しました。
鉱業部門は長らく経済全体の大きな成長源でしたが、世界的な企業活動の低迷は鉄鉱石、石炭、リチウムの需要に影響を与え、ABSは鉱業生産が輸出需要を上回ったと指摘しています。輸出価格はここ数年非常に高かったものの、この傾向に変化が見られ、当四半期は1.8%の下落でした。
またプラスの要因として挙げられるのは、予想を上回る成長率を示す移民の増加です。力強い人口増加がなければ、経済は1年以上にわたって縮小が続いていたでしょう。
物価指標が高水準にあり、特に家計と政府部門でインフレ圧力が依然として強いため、消費者物価指数を2〜3%の目標範囲までに引き下げることが必要です。根本的なインフレ要因がなくなるまで、RBAが金融政策の引き締めを継続するため、近いうちにキャッシュレートが変動することはないでしょう。
3月期の家計消費は、家計が引き続き必需品やサービスに支出を充てたため、0.4%増加しました。夏の高気温によるエネルギー支出と医療サービス支出が必需品への支出の増加をもたらしました。また、人口の増加は、家賃やその他の住居サービスへの支出に影響を与えました。
消費者が、海外旅行、大がかりなスポーツ/音楽イベントに、裁量的な支出を充てたことにより、交通機関、ホテル、カフェ・レストラン、衣料品・履物への支出は増加しました。全体として、非必需品への支出は0.3%増加したのに対し、必需品への支出は0.5%増加となりました。
生活費高騰は続いているものの、社会扶助給付を差し引いた未払所得税は1.5%減少しました。所得税は可処分所得の12%弱と依然として高い水準にあります。7月1日から減税が実施されるため、所得税の減少は6月期以降も続くと予想されます。家計貯蓄率は3月期に0.9%に低下し、パンデミック前の5年間平均の約6.5%を大きく下回る水準が続いています。
住宅建築・改築による経済成長への影響は3月期も横ばいで、この傾向は2021年第2四半期から続いています。住宅投資は改築・増築と同様に0.5%、所有権移転費用も2.2%減少しました。
新築住宅への投資は、建設ローンが低調で建築許可件数が低水準にあるため、今後も低迷するでしょう。人口増加も加わり、住宅市場とアフォーダビリティに引き続き悪影響を与えるでしょう。
3月期の労働時間は0.1%の緩やかな増加となりました。控えめな経済成長と相まって、労働生産性(労働時間1時間当たりGDP)は前期比0.1%改善しました。
EYの年間(または複数年)ベースで見た指標では、年間成長率はわずか0.1%と低水準にとどまりました。2022年第2四半期以来のプラス成長ではありますが、20年間平均の1.2%に及ばず、継続的な改善の必要性が浮き彫りとなりました。
実質単位労働コスト(インフレ調整後の生産単位当たりの平均労働コストを示す指標)は、当四半期に0.7%減少し、年率換算では3.4%と緩和傾向が続いています。
従業員報酬(COE)は、賃金、雇用、雇用の変更を反映した経済全体の賃金指標で、当四半期は1%の上昇となりました。これは2021年9月期以来最も低い上昇率で、公共部門の職場協定の更新が要因となりました。年間ベースでCOEは7%強の上昇となり、依然として上昇を続けていますが、2022年9月の11%のピークから緩やかに推移しています。
3月期の企業利益は、民間の非金融企業が業績を押し上げ2.3%増加しました。主要都市で開催された大型イベントにより宿泊・飲食サービス業が好調で、鉄鉱石、石炭、リチウムの世界的な需要低迷による鉱業利益の減少を相殺し、年間ベースでは0.5%の減益となりました。
公的需要(消費および投資の両方)は3月期の成長率に0.2ポイント寄与し、対GDP比でも高水準を維持しています。3月期の政府消費は、メディケアや医薬品給付制度を通じた医療プログラムを含む、家計への社会扶助給付に対する連邦政府の支出、一部の州政府によるエネルギー料金補助により1.0%増加しました。
公共投資は、州・地方政府による保健・教育プロジェクトの完了と停滞により、3月期は0.9%減と2四半期連続で減少し、年間ベースでは、12月期の12%超から6.4%へと減少しました。公共部門のインフラ・プロジェクトのパイプラインが堅調であることから、公共投資は2024年まで高水準を維持すると予想されます。
民間投資は12月期に0.1%増加した後、3月期は0.8%減少しました。鉱業部門を中心とする非住宅建設が4.3%減少したため、企業投資は前期を通して0.8%減少しました。
経済の変革が進む中、倉庫やデータセンターを整備するための機械設備投資は2.2%増となり、オンラインショッピングやAIへの投資の高まりを表しています。企業投資は、年率換算で12月期の8.9%強から当期は3.6%増へと減少しました。
2023/24年の設備投資意欲は、成長率が低迷し投入コストと賃金が上昇しているにもかかわらず、引き続き前向きな見通しを示しており、2023/24年の資本的支出は前回予測より2.5%上昇しました。この指標は名目ベースであるため、資本財や建設コストの上昇が要因となっている可能性が高くなっています。2024/25年の投資計画に関する第2次推計は1,554億豪ドルで、2023/24年の同推計を12.8%上回りましたが、2022/23年の記録的な上昇をやや下回りました。
純輸出全体では、主に輸入が5.1%増加したため、四半期GDP成長率を0.9ポイント押し下げました。3月期の商品輸出は0.7%の増加にとどまりました。
商品輸入は6.5%増加しました。サービス輸入は、運輸の10.4%増に支えられ、3月期に0.7%増加しました。これは、オーストラリア人が海外での支出を減らしたため、旅行が3.5%減少したことで一部相殺されました。
一方、商品輸出は、液化天然ガスに対する海外需要の増加により、3月期を通して1.1%増加しました。サービス輸出は、留学生の入国が3月期も平均を下回ったため、1.1%減少しました。
前期に減少した卸売・小売在庫が輸入の増加により回復し、輸出需要の低迷により鉱業在庫が増加したため、在庫は22億豪ドル増加し、GDP成長率に0.7ポイント貢献しました。
金利上昇の結果として成長率が低迷し、3月期国民経済計算においてもその傾向は続いています。GDPのデータは、経済が停滞しているにもかかわらず、インフレ率がまだ適切な水準に達していないことを示しています。そのため、金利はしばらくの間、高水準にとどまるでしょう。
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