EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
9月期の国民経済計算では、公共部門がオーストラリア経済を支えていることが明らかになりました。
政府のリベート、減税、インフラ整備、医療・障がい者支援、国防などを通じて、政府がこれほど多くの資金を経済に投入した例は過去にありません。
9月期のGDPに占める政府支出と投資の割合は28%と、過去最高を記録しました。
しかし、本四半期の経済成長率は0.3%、年間では0.8%にとどまりました。
連邦政府も州政府も巨額の支出を続けており、今後4年間の投資計画は過去最高額を更新していくでしょう。これは、パンデミック期に人口増加と経済を支えたインフラ投資の名残によるところが大きいと言えます。
生活費高騰は、連邦政府および州政府による電気代のリベートを筆頭に、政府から家計への一時的かつ多額の新たな給付を促しました。これらの給付により家計支出は本来あるべき水準より低下しましたが、電力・ガスその他の燃料を除いても、家計消費は年間0.5%しか増えませんでした。
第3段階の減税によって家計の納税額が3.8%減少し、可処分所得が1.5%増加したことを考えると、これは特に残念な結果ですが、家計の貯蓄率は若干上昇しました。
高齢化、行政サービスに対する高い需要、地政学的に不確実な世界における防衛対策の必要性、エネルギー転換など、政府に対する支出圧力は続いています。
しかし、EYが繰り返し主張してきたように、このような支出レベルではマクロ経済の安定は望めず、持続可能な長期成長は望めません。
生産性の伸びと交易条件は低下し、消費者物価は高騰を続け、金利は高止まりしています。
供給能力に制約のある経済下では、金融政策と財政政策はトレードオフの関係にあります。短期的なインフレ率が2~3%の目標範囲を超えることをオーストラリア準備銀行(RBA)が懸念している間は、金利は緩和されないでしょう。政府による支出は、財やサービスの価格の高騰を招き、インフレに拍車をかけている部分もあります。
さらに、追加的な政府支出は負債による資金調達が必要となるため、経済への一時的な「穴埋め」には継続的な金利コストもかかります。9月までの1年間で、政府のあらゆるレベルにわたる金利負担は430億豪ドル近くに上りました。これでは将来的に政府のとれる選択肢が減ってしまいます。
民間企業の設備投資は、企業がテクノロジーや再生可能エネルギーへの投資ニーズを受け実施した設備やソフトウェアへの追加投資に支えられ、堅調です。しかし、非住宅建設と資源探査への投資は減少しました。また、トランプ新政権により、新たな不確実性が高まっています。規制の強化、移民の減少、必要とされる税制改革に積極的でない行政などが相まって、投資の凍結も予想されます。
9月期の国民経済計算では、希望が見えない悲観的な経済状況が浮き彫りとなりました。民間部門が政府に求めているのは、目先の問題を短期的に解決することだけではありません。9億豪ドルの生産性奨励基金や国家競争政策イニシアチブのような政策は評価できますが、民間部門からGDP成長を促進する重点的な施策の提起が、今こそ重要です。
政府からの電気代補助金の影響もあり、家計消費は低迷を続け、前期比では横ばいとなりました。年間ベースの消費成長率はわずか0.4%でした。支払所得税の減少や短期的なエネルギー料金の軽減にもかかわらず、多くの家計は物価上昇と高金利のために引き続き苦境にあります。
必需品への支出は0.1%減少しましたが、これは電気料金支出の減少が、家賃、教育、医療サービスなど他の必需品支出の増加によって一部相殺されたためです。裁量支出は、衣料品と履物が主導し、わずかに増加しました(0.1%増)。しかし注目すべきは、多くのオーストラリア人が海外旅行への支出を継続していることです。
家計貯蓄率は、新型コロナウイルス感染症発生前の10年間の平均である6%超を大幅に下回り、9月期は3.2%に達し、6月期の2.4%から少し上昇しました。これは2022年第4四半期以来の高水準です。
オーストラリア準備銀行は、家計消費の回復が今後の経済成長を下支えすると予想しています。明るい兆しとしては、ANZ-Roy Morganの消費者信頼度指数が最近、2022年5月以来の高水準に上昇しました。
住宅投資は3四半期連続で増加し、9月は1.2%増となりましたが、以前から工期遅延があった新築住宅の完成が遅れたため、前年同月比では0.5%減となりました。しかし、建築業界には依然として制約が残されています。改築・増築は同0.4%増加しましたが、継続的な不動産市場の回転により、所有権移転費用は同1.6%増加し、年間では約8%増加しました。
東海岸と西海岸の住宅市場では大きな差が出ており、西オーストラリア州では、新築住宅投資と増改築が力強い伸びを示し、9月期までの1年間で5.4%増を示したのに対し、その他の地域では1%減少しました。
9月期の労働時間は0.8%増加しましたが、労働生産性(労働時間1時間当たりのGDPで測定)は0.5%低下しました。年間ベースでは、生産性の伸びは0.8%低下し、マイナスに転じました。この2年半、生産性の伸びは、パンデミック以前の20年間の平均成長率1.2%を大きく下回っており、持続的な改善が切実に求められています。
実質単位労働コスト(インフレ調整後の単位生産量当たりの平均労働コストを示す指標)は前期に0.5%上昇しましたが、年率換算では1.6%と緩和傾向が続いています。オーストラリア準備銀行は、単位労働コストの上昇を相殺し、インフレ圧力を軽減するために、労働生産性の継続的な改善を期待しています。
経済全体の賃金請求額の指標である従業員報酬(COE)は、当四半期に1.4%上昇しました。公共部門は、労働人口の増加と賃金の上昇により2%の大幅な伸びを示しましたが、民間部門は1.2%の伸びとなりました。
COEは年率換算で前四半期の6.4%から引き続き緩和傾向にありますが、労働市場の逼迫により5.4%と高止まりしています。
9月期の企業利益は1.5%減少しました。これは主に鉱業部門によるもので、当部門は世界的な需要減退による石炭と鉄鉱石の価格下落が原因で、3四半期連続の減益を記録しました。企業利益について、年間ベースでは0.8%強の増益となりました。
オーストラリアの交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は3四半期連続で低下し、2.5%の減少となりました。これは、原料炭と鉄鉱石価格の下落により輸出価格が2.6%下がったことを受けています。一方、輸入価格も、原油価格の低下を受け下落しました。
国内経済に対する物価上昇圧力を示す国民経済計算の指標において、9月期の上昇率は0.7%と2021年3月以来の低水準となりました。労働力不足と建設費の高騰が引き続き物価上昇圧力となっているため、年間ベースでは国内物価は3.6%で高止まりしています。
国際物価は9月期までの1年間で1.0%下落しました。9月期までの1年間の基調インフレ率は3.5%と目標を上回り、オーストラリア準備銀行は引き続き経済の物価上昇圧力に懸念を抱いています。
公共部門は引き続き経済に大きく貢献しており、公共消費と投資は9月期の成長率0.6%ポイント増につながる大幅な貢献をしました。GDPに占める公的需要の割合は上昇を続け、過去最高の28%に達しています。
これは、公共部門の雇用比率が上昇し、オーストラリア経済全体の雇用の約18%と、過去最高を記録したことにもよります。
公共投資は9月期に6.3%急増し、GDPに0.3%ポイント寄与し、過去最高の投資水準となりました。
政府は国防設備、病院、道路、再生可能エネルギーに多額の投資を行いました。公共投資は前期では0.6%減少しましたが、年間では2.3%増加しました。
政府消費は前期に1.4%増加し、GDPに0.3%ポイント寄与しました。これは主に、州・地方政府による州ベースのエネルギー料金軽減のための支出が2.2%増と大幅に伸びたためです。公共消費は引き続き年間ベースで増加しており、6月期の4.5%から4.7%に上昇しました。
9月期の民間投資はわずか0.1%の増加にとどまりました。年間ベースでは1.3%の増加です。非住宅建設は、倉庫やデータセンターへの投資が好調なのを受け、新築ビルやエンジニアリング建設が減少したため、当期には2.7%減少しました。
企業投資は9月期に0.6%減少し、年率換算では1.3%の増加となり、6月期の2.6%から減少しました。鉱業投資は2.3%減少し、非鉱業投資は横ばいでした。名目GDPに占める非鉱業投資の割合は高水準を維持し、鉱業投資は比較的横ばいでした。
経済成長が伸び悩む中、2024/25年の設備投資の第4次予測は第3次予測を5.1%上回る1,782億豪ドルとなり、比較的堅調な投資計画を維持しています。
2023/24年の同見通しと比較すると、4.3%高くなっていますが、これは名目ベースであり、資本財と建設の価格上昇の影響を受けていることを考慮し、慎重に読み解く必要があります。
貿易収支は、輸出の0.2%増と輸入の0.3%減という緩やかな増加となり、9月期の成長率を0.1%ポイント押し上げました。
サービス輸出は、主に留学生数の減少により3.6%減少しましたが、アジアからのオーストラリア産石炭への需要増加により、商品輸出は0.9%増加しました。
サービス輸入は、オーストラリア人が夏休みに欧州やオリンピックなど、海外に旅行したことにより堅調に3%増加しました。しかし、一般家庭の電気自動車に対する需要が減少したため、商品輸入は1.5%減少しました。
一方、在庫は7億1,200万豪ドル減少し、成長率を0.4%ポイント押し下げました。これは主に鉱業在庫の減少によるもので、鉱業生産が操業停止やメンテナンス、流通の影響を受けたためです。
9月期の経済成長率は0.3%、年率換算では0.8%でした。当四半期は若干の回復が見られましたが、長期平均成長率を大幅に下回る成長率にとどまっています。公共部門は依然としてオーストラリア経済を下支えし、GDPに0.6%ポイント寄与しましたが、家計消費と民間投資は成長に貢献していません。
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