EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
オーストラリアの四大銀行といわれるある銀行は、EY Nexusの「接着剤」と「時代に沿った最適化」という2つの概念に共感し、住宅ローンを中心としたリテールバンキングビジネスに活用しています。
もともとその銀行は、代理店経由での住宅ローンの締結に加え、直接銀行のチャネルを通じて住宅ローンのオファリングを強化することにより、代理店への手数料支払いの低減はもとより、顧客との直接接点による顧客理解と関係構築の強化、そしてクロスセルオファリングの強化を目指していました。新たなチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)のもと、顧客分析が徹底され、それを実行するためのプラットフォームとして、EY Nexusが選ばれました。約2年にわたる銀行とEYとの協働プロジェクトを経て、10以上のデジタルチャネルと伝統的なチャネルで発生するイベントからトリガーを検知し、最適なタイミングで最適なオファリングを実行する仕組みが完成しました。
これにより、住宅ローンの成約率のみならず、クレジットカードや預金等をシームレスにオファリングすることで飛躍的に売り上げが向上。さらには、トリガーの有効性分析から物理・デジタル問わず、チャネルごとの利益に対する貢献率の把握が可能となり、また今までは成約率から店舗に偏っていた貢献率を見直し、デジタルチャネルの強化にもつながっています。
前述の通り、EY Nexusが持つ2つの概念により、顧客およびその先の顧客に対して大きなメリットを提供することが可能です。しかしながらこのようなソリューションは、ただそれを導入すればすぐに効果が出るというものではなく、実績に基づいたソリューションフレームワークを活用して、各行のビジネス戦略に沿って組み立てることで、その効果が最大化します。
EYでは、オーストラリアのその銀行での実績をベースに、ソリューションとしてのEY Nexusのみならず、その効果を最大化するためのコンサルティングフレームワークを持っています。
1. 顧客分析とカスタマージャーニー
顧客中心志向においてベースとなるのはやはり、顧客を知り行動を推測することであり、顧客分析とカスタマージャーニー・マップの作成は基本となります。このような活動は、今までも銀行が取り組んできた内容ですが、実施後に的確にメンテナンスされているでしょうか。顧客の趣向は常に変化するものであり、それに伴い銀行の戦略も変化し、アプローチや商品もそれに合わせて進化を続けなければなりません。しかし、このような顧客分析やカスタマージャーニーは、ある施策の中で一部検討されるにとどまり、成果物もアナログでのメンテナンスが難しくなっています。
また、これらの活動の中で活用するペルソナやカスタマージャーニー・マップは、担当者の“想定”で作成されており、データとのひも付けやデータを変更した際の変化などをシミュレーションできるような形にはなっていないケースは多いのではないでしょうか。
ここでのポイントは、顧客分析やカスタマージャーニー・マップは、データとひも付けて、データの変更に耐え得る状態として保持すべきで、常にアップデートし続けることが重要ということです。EY Nexusのフレームワークでは、カスタマージャーニー・マップの作成のみならず、データと連携したダッシュボード「カスタマーエンゲージメント・トリガー・マップ」によって、チャネル上のイベントやトリガーをデータとひも付け、的確に検討とアップデートを可能にします。
2. 最適なオファリング「キャンペーンパフォーマンス・ダッシュボード」
イベントは快適に顧客が銀行サービスを利用することをサポートするだけでなく、銀行が顧客に最適な形でオファリングすることも重要になります。EY Nexusは、このようなオファリングについても、データとひも付けることによって、オファリング時の顧客の反応をデータで捕捉し、それを分析することでより最適なオファリングを実行できるようにサポートします。
3. データ整備
上述のカスタマーエンゲージメント・トリガーマップやキャンペーンパフォーマンス・ダッシュボードなどを的確に活用するには、データ整備が重要となります。データは、いわゆるビッグデータとして集約すれば活用できるということではなく、データ1つ1つの意味と関連性を地道に整理し、ビジネスの目的にあったデータアーキテクチャを確立していくことで活用できるようになります。EYでは、これらデータの整備と活用をトータルでサポートする「Modern Data Strategy」というフレームワークとソリューション群を提供しており、EY Nexusと併せてこれを利用することにより、効果を最大化し、恒久的にデータを活用できる環境の実現を支援します。
4. オファリングの柔軟性向上のためのシステムアーキテクチャ改編
データの整備とEY Nexusによって、顧客にとって快適な体験と最適なオファリングが実現できたとしても、オファリングを受け申し込みに進む際に、従来通りの銀行視点でのプロセスでは、成約に至らない懸念があります。
銀行は、顧客接点での最適なタイミングにおいて、最適な粒度でオファリングや申し込みを柔軟に変化させて提供できることが求められます。従来の銀行商品の提供の在り方を見直し、その商品の在り方やプロセスを分解、整備しておく必要があります。
そのためには、アナログな事務のデジタル化、既存システムのアーキテクチャをサービス指向に変更するなどの取り組みも不可欠です。
事務のデジタル化には、従来の考え方に依存しない形で“デジタル”を適用することが肝要で、このためにはプロセスのみならず技術をしっかりと把握した上での新しいプロセスデザインを実施します。また既存システムのアーキテクチャ変更は、システム内部の処理を解析するとともに意味ある単位のサービスを定義し、サービス化していきます。その過程において、画面や判断基準のルール、プロセスなどを切り出して、既存システムのダウンサイジングと透明性を確保することにより、モノリシックなシステムを分解・疎結合化していく取り組みも重要となります。
5. 収益管理
このようなデジタルの取り組みで、銀行が抱えている悩みの1つに、KPIの設定があります。もちろんデジタル化の重要性は十分に理解しており、データ整備やシステムアーキテクチャの改編なども必要と多分に感じているでしょう。
しかし、それらに対する投資対効果を、コスト削減と売り上げ向上の2択で明確に示すことは難しく、継続的な投資についてはそれらを示すことはさらに難しいことは言うまでもありません。このようなことから、銀行のデジタル施策は、道半ばで停滞し継続的な進化が難しくなっているケースも少なくないと言えます。
顧客満足度や従業員のIT/デジタルリテラシーの向上など、定性効果をうたうこともよくありますが、これらは経営者が投資判断に至る決定打とはなりにくいのも事実です。よって収益にこれらの投資がどのようにつながるかをKPIにする他ありません。
そこで、海外を中心にDXと共に推進されているのが、“コストトランスフォーメーション”です。これ自体が経営戦略とリンクする非常に大きな改革活動なため、ここで全てを語ることは控え、その中にある上記の課題をクリアする1つの手法を紹介します。
それは、Activity Based Costing(ABC)です。ABCは、それほど新しい考え方ではなく、10年以上前から製造業や金融機関でも採用されている手法であり、業務の中で発生する全てのActivityに対して原価設定することで、間接コストの細分化と透明性を高めることができるというものです。
ABCは非常にコスト管理に有効な方法でありながらも、その導入のハードルの高さにより、銀行、特に日本の銀行では導入があまり進んでいません。一方、“鶏と卵”の議論もあるものの業務のデジタル化によって、業務および顧客のActivityがログ・データによって把握しやすくなることで、導入の一部の課題を解決することができます。
よって、DXとともにABCを導入することで、デジタル施策とコストを動的にひも付けた推進が可能となります。またそのコストはデータであるため、容易に更新することができ、それが継続的なDXの推進に寄与します。コストを売り上げと連動させKPIとして設定することで、施策を打ちその収益効果がクリアに見えてくれば、施策の方向性修正もしやすく、効果を数値として経営に示すことができるため判断もしやすくなる、といった効果が期待できるようになります。
【共同執筆者】
西田 良映
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービス 銀行・証券セクター ディレクター)
銀行・証券セクター、デジタルトランスフォーメーション(DX)において、戦略から実行までエンド・ツー・エンドのアドバイザリー業務に従事する。
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EY Nexusやフレームワークは、EYがグローバルにサービスを提供している数々の金融機関とのDX、Data、Technologyのコンサルティング実績からアセットとして形成したものです。日本企業の皆さまもビジネス戦略に沿って組み立て、ご活用いただくことでその効果の最大化が期待されます。