関税とは

関税とは


多国間でサプライチェーンを展開する企業にインパクトを与える関税。

企業経営に欠かせない関税の基礎知識と、関税管理において考えるべきポイントについて解説します。


要点

  • 関税は輸入時に課される間接税で、法人税と比較しても企業にとって大きなコストとなる税金である。
  • 関税額は「課税価格×関税率」で計算されるため、関税管理は「関税評価」「関税分類」「EPA/FTA(原産地)」「保税・減免税」を適切に管理することが求められる。
  • 関税管理は特に国際情勢の変化による影響が大きく、リスクへの適切な対応が求められる。企業では関税管理の高度化と戦略的なアプローチが必要であり、既存業務については多くの企業が外部アウトソースやIT技術の活用を検討している。


1. 関税とは?

関税は、貨物の輸入時に課される間接税の一種であり、輸入申告時に輸入者が支払う税金です。主に国内産業の保護の効果があり、先進国では一部の品目を除いて一般的に低く設定されていますが、開発途上国では自国で育成したい産業における製品を中心に高い関税が課せられる傾向にあります。また、消費税(VAT・GST等)や物品税は、関税の課税後の価格に対して課税されるため、関税は他の輸入税のコストにも影響を及ぼすことがあります。関税は一般的に従価税が採用され、輸入貨物の取引価格に対して課税されるため、企業の収益に対して課税する法人税と比較して、課税ベースの金額が大きく、また、物品の貿易量に応じて課税されるため、企業の損益に左右されない特性を持っています。特に景気後退時には、法人税と比較して、相対的に大きなコスト負担となることがあります。

関税の基礎 図1

関税は、多国間で展開する企業にとって大きなコストを占める税金である一方で、関税は一般的に企業会計において売上原価の一部として認識されるため、自社の関税支払額を正確に把握していない企業も多くあります。サプライチェーン全体を見渡すと、川上から川下に至るまで、多様な関税プランニングの可能性が広がっています。しかし、断片的なアプローチでは、その効果は限定的となるため、サプライチェーン全体を総合的に把握した上で、戦略的に取り組むことが不可欠です。


2. 関税の基礎

関税額は、一般的には貨物の「課税価格×関税率」1で計算されます。

関税の基礎 図2

課税価格はWTO関税評価協定に基づく世界共通の「関税評価」と呼ばれるルールに基づき計算されます。関税評価では、輸入貨物の取引価格に、取引条件による差異によって生じる加算要素(海上運賃・保険料、無償提供した原材料、ロイヤルティ、手数料など)を加減調整した価格を用いることとしています。
 

関税率は、国際的な商品分類システムであるHSコードを用いた「関税分類」に基づいて設定されます。HSコード(Harmonized System code)は、貨物の種類を世界共通の基準で分類するために制定されたHS条約によって定められたコード体系である、商品の機能や材質などに応じて細かく分類ルールが定義されています。
 

さらに、貨物が経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に基づく原産品である場合には、輸入国の輸入通関において通常の関税率より低い優遇税率が適用できる可能性があります。企業においてEPA/FTAは幅広く利用されており、原産地規則を充足するために、生産国における材料供給・製造工程を含むサプライチェーンを構築することで、大幅な関税コストの低減を図ることが可能です。一方で、EPA/FTAは条件付きの関税優遇措置であり、自社の輸出入貨物についてそれらの基準を満たさないことが判明した場合には、本来支払うべき関税額との差額の納税に加えて、国によっては多額の罰金が科せられる可能性もあり、そのコンプライアンスにも十分に注意して活用することが重要です。
 

その他には、保税制度・減免税制度があります。保税制度は、保税地域と呼ばれる輸入申告前の貨物を置くことが認められる地域を活用した制度です。この地域内では、貨物に関税が課されることなく、国によっては、その保税地域内で一定の加工や組み立てなどの輸出加工のための生産行為が可能な場合があります。保税地域内で、海外から輸入した材料を用いて製品を生産した上で、そのまま第三国へ輸出する場合においては、その国での関税が発生しない形で加工貿易を行うことが可能です。また、減免税制度は、特定の条件を満たす貨物に対して関税の減免を認める制度です。一般的には、輸入時と同じ貨物を再輸出する場合の減免税等がありますが、国によっては特定産業用途の輸入貨物など、各種の減免税制度があります。



3. 企業における関税管理の重要性

先述の通り、関税は、多国間にまたがるサプライチェーンを展開する企業にとって大きなコスト要因となる可能性があります。しかしながら、多くの日系企業では関税管理を専門に行う部署が社内にないことによって、自社の関税負担を正確に把握できていないばかりか、潜在的な税コスト節減の機会を見逃している場合が少なくありません。また、世界情勢の変化により、特定の国での突発的な高関税の導入や、その相手国による報復措置が頻発する環境にあります。企業においても、これらの突発的な事象によって、ビジネスの継続に影響を与えるリスクが高まっています。このような環境下では、企業において関税面でのサプライチェーンに与える影響を常に把握し、それらが実施された場合に迅速に対応できる、関税管理体制の高度化が今後の企業経営においてさらに重要になると予想されます。

関税の基礎 図3

関税管理の高度化の第一歩は、現在の自社の関税支払額・節減額を含む「管理すべき税額(Duty Under Management)」を明確にすることです。これらの定量化された情報を把握することで初めて自社が実施すべき施策を検討することが可能になります。

関税管理は輸出入手続の業務の一部として捉えられることが多いですが、最近の国際情勢を踏まえた関税コストの上昇が予想される局面では、戦略的な関税面での戦略やプランニングが重要です。これらの戦略的な業務に対応する自社のリソースを確保するために、欧米の企業を中心に、日常的な関税業務の外部へのアウトソースやITテクノロジーを利用した効率化が一般的になっています。

また、昨今の貿易上の課題は複雑化しており、本質的には物流・調達・税務・財務・法務・ITなどさまざまな領域と連携した対応が求められます。関税に対して一貫した戦略的アプローチを取る必要があります。

巻末注

  1.  従価税の場合。輸入貨物の数量に対して一定金額を課税する、従量税もある。


サマリー

関税は輸入時に課される税金で、企業のサプライチェーンに大きな影響を与えます。適切な管理と戦略的なプランニングにより、コスト削減とリスク回避が可能です。





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