効果的なIPOプロセスの実行
安藤 IPOプロセスに入るステージのタイミングからさまざまなプレーヤーが登場し、専門用語も飛び交う状況になります。その際、関係者間で使われる単語に異なる解釈が生じているケースが少なくありません。ガイダンスでは、専門用語の定義を行い、解釈の違いにより会話がかみ合わないなどのミスコミュニケーションが生じないよう配慮されました。
藤原 例えば、カンファレンス、インフォメーションミーティング、プレヒアリング、ロードショーなど、さまざまな用語が出てきますね。
鈴木 それらの用語に共通しているのは、機関投資家とのコミュニケーション機会を指している点。スタートアップと主幹事証券会社がこれらの用語が示す概念について、何を目的とし、どのようなタイミングで行うことが最適かを理解した上で進むことが重要となります。似た表現であっても、目的が異なっている場合もありますので、初めてこれらを経験するスタートアップには、機関投資家とのタッチポイントに向けての準備や、VCではない投資家とのコミュニケーションにおいて注意すべきポイントを把握して臨むべきだと考えます。
藤原 証券会社を選定する際のポイントはどのようなものがありますか。
鈴木 自社のIPOやディールの特性を踏まえ、主幹事証券会社や担当チームに何を期待するかが重要だと思います。例えば、その担当チームに企業としてのトラックレコード(過去の実績)があり、当該企業の特性を踏まえた類似の論点審査を通過したことがあるかを見るわけです。もしくは新規性のあるエクイティストーリーが投資家から正しくない評価になり得てしまうケースにおいて、理解を浸透させるエクイティストーリーを構築し、適正なバリエーションを獲得することができた実績を有するチームが必要となる場合もあるでしょう。期待する内容に応じて証券会社の選定基準は大きく異なると考えています。
安藤 この章で「証券会社の役割」に言及した背景には、「共同主幹事」「事務幹事」などの用語の解釈に揺らぎがあり、定義と役割を明確化すべきとの意見が出されたことがあります。
藤原 主幹事証券会社を選定する際、複数を選定すべきか1社に絞るべきか、そのメリット・デメリットが議論になると思いますが、いかがでしょうか。
鈴木 メリット・デメリットはケース・バイ・ケースであるため、判断基準が難しいところです。1社より2社の方が競争原理によって、より良いものが出てくると期待しがちですが、そう単純なものではありません。スタートアップの経営陣が主幹事証券会社の健全な競争によって、より良い提案を引き出せるコミュニケーションを取れるか否かが前提となります。証券会社もパートナーであるため、コミットメントを引き出す関係構築が鍵だと考えます。