EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
EY はパーパス(存在意義)として「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」を掲げ、積極的にダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)を推進しています。
その取り組みの一環として、国際女性デーにあたる2023年3月10日に特別セッションをオンラインで開催しました。大阪女学院大学(開催時点。現在は大阪経済大学 経営学部)の船越 多枝准教授をお招きし、「多様な人材が活躍する、インクルーシブな職場・組織を生み出すには」と題した講演をしていただきました。さらに、EY Japanのリージョナル・ディレクター・オブ・オペレーションズである塚原 正彦とEY JapanのDE&Iリーダーの梅田 惠も交えて女性活躍に向けてパネルディスカッションを実施しました。ここではその内容についてご紹介します。
塚原 正彦(以下、塚原): EY Japanではリーダーを目指す女性の割合が少ないと感じています。実際、2022年にEY Japanにおいて実施した企業環境調査によると、72.7%の男性が執行役員クラスにあたるPPEDD(パートナー、プリンシパル、エグゼクティブディレクター、ディレクター)を目指しているのに対し、女性は25.8%で大きな開きがありました。リーダーを目指す女性を増やすためには、どのようにして魅力を伝えていけば良いのでしょうか。
船越 多枝氏(以下、船越氏):現在、女子大学に勤務していますが(注:講演当時)、将来リーダーシップを取りたいと考えている女性は一定数以上いると感じます。では、なぜ社会に出てからリーダークラスを目指す女性が減ってしまうのか。その大きな理由として、やはり結婚・出産が考えられます。企業に勤める若手の知人と話していたところ、仕事に対して非常にやりがいを感じているものの、将来の結婚・出産について考えるとさまざまなチャレンジをちゅうちょする部分が間々あるとのことで、このように考える女性は結構多いと思います。
一方で、私の周囲にいるリーダークラスの女性たちは、身近にいた女性がリーダーポジションに就いて楽しそうに働いている姿を見たり、生き生きと働いている話を聞いたりしたことがきっかけで、自分もリーダーになってみたくなったと言います。
こうした点から考えると、まずは女性、男性に限らず、リーダークラスの方々がプライベートも含めてリーダーであることをエンジョイすることが大切です。仕事と生活を両立し、人生を楽しんで輝いている姿をあえて見せることが、リーダーを目指す方の増加につながるのではないでしょうか。
また、よく言われることではありますが、女性のロールモデルが増えることもやはり重要です。かつて、女性リーダーのロールモデルは「すべてにおいてパーフェクトでなければいけない」と思われていたように感じます。しかし、身近な先輩がロールモデルとして、「リーダーになることはなかなか良いことだ」とポジティブに発信することも大切だと思います。
梅田 惠(以下、梅田):私も含めて今の50代以上の女性リーダーは、1985年に男女雇用機会均等法ができたばかりの状況を経験しています。「男性と同じか倍以上働かないと、女性は認めてもらえないよ」と若い頃に何度も言われてきました。(それまで女性の就職や就業には制約があったので)男性と同じ仕事ができるようになったことがうれしくて、ついつい頑張ってきてしまった世代です。
今の若い世代が「ああいう風には働けない」とおびえてしまうのも正直、理解できます。だからこそ上の世代の女性リーダーが自分の失敗や乗り越え方、例えば、職場でわんわん泣いてしまった経験などをもっと伝えるのが良いのではないでしょうか。船越先生のご講演にもありましたが、性別に関わらず弱さも示して「今は完璧に見えるリーダーも、実は自分たちと変わらない」と感じてもらうことも重要だと思います。
また、男性の多くが「自分は難易度の高い業務にアサインされている」と感じている一方で、そのように感じる女性はまだまだ少ないというデータがあります。もしかすると男性リーダーは配慮・遠慮しすぎるあまりに女性に難しい仕事を任せていないのかもしれませんが、女性は「自分が女性だから期待をかけられていない」と感じてしまうし、経験を深め、広げる機会を失ってしまっています。だから自信が持てないのだと思います。女性やマイノリティには男性と比較すると、経験が圧倒的に不足していると私は考えており、経験の種類や回数が増えて、自信をつけられる機会が増えれば、リーダーとして活躍する女性が増えていくと思います。
塚原:今活躍しているリーダーが、自らエンジョイして輝いている姿を見せられるように行動するのは非常に大切だと感じましたし、私自身もエンジョイしていきたいです。またロールモデルについて、たしかに船越先生がおっしゃるように昔はとにかく「すごい人」がロールモデルになるという印象を私も持っていましたが、身近なリーダーが自分の欠点や失敗などを積極的に開示していくことも重要なのだと気づかされました。
塚原:ダイバーシティの取り組みについて「女性が優遇されている」と思う人が男女ともにいます。特に男性に多く、2022年のEY Japanでの企業環境調査では74.3%の男性が「女性が優遇されている」と感じているようです。これは誤解だと思うのですが、解消するにはどうすれば良いのでしょうか。
船越氏:これはエクイティ(公正)に関連する話であり、男性と女性では何をもって優遇と考えるのか視点の違いがあるために起きているのだと思います。
女性の視点からは、挑戦する機会そのものは平等になっても、まだまだ男性の方がさまざまな機会にアクセスしやすいという意見があります。これまでは男性の方が働く人材として数が多かったため、あらゆるシステムが男性に使いやすいように無意識に設計されている傾向があり、その中で働いてきた女性は仕組みなどの前提部分に対して「男性の優位性」を感じ続けてきたと考えられます。
一方、男性の視点からは、これまでのジェンダーギャップを埋めるための施策やポジティブアクションなどを見て、「女性の方が優遇されている」と感じているのではないでしょうか。女性活躍推進法なども含め、喫緊のダイバーシティ推進対象としてまず女性が打ち出されていることが多く、企業もその活躍推進に重点的に取り組んでいることが背景にあると思います。
何をもって優遇とするかの視点が、女性は「入り口」に、男性は「出口」に向いているという違いがあるため、こうしたギャップが生まれているのでしょう。ギャップを解消するには、こういった啓発のためのイベントを開催するなど知識を深めることが重要です。多くの人が正しい知識を持ち、考え方を少しずつ調整していければ、ダイバーシティ=女性優遇という誤解が減っていくと考えています。
塚原:船越先生のおっしゃっていた入り口と出口という視点の違い、非常に興味深いです。日本のダイバーシティは女性の登用比率など結果としての数値を求められる場合が多いですが、企業によって全体の母数などが違う中で、女性・男性それぞれの視点で最適を考えていくことが重要だと思いました。DE&Iを推進していくにあたり、基礎知識を身につけて、自分自身の行動の指針を定めることが大切ですね。梅田さんは視点の違いについてどのようにお考えでしょうか。
梅田:日本だけでなく世界中でジェンダーギャップがあり、企業内では男性がまだマジョリティです。そのため男性は女性よりもロールモデルを見つけやすく、「あの先輩みたいにやっていけば何とかなる」と思えるのが有利だと思います。また、先輩や上司も自分と似た男性の後輩には声を掛けやすいため、接点を多く持つことができます。反対に女性は身近なロールモデルが少ないため、自分で道を切り開いていかなければならないケースが多いです。
キャリアアップについても同じような側面があります。社内にキャリアアップの機会や制度があったとしても、女性はそれらを活用するために思い切ってジャンプしなければいけないようなことがあります。自信のなさや経験の少なさもステップアップの際に影響してくるでしょう。また、女性自身が「自分は女性だからといって優遇されたくない」と思い、一歩踏み出すのをためらってしまうことも少なくありません。
機会が平等であれば男性も女性もキャリアの道のりは同じだと思われがちですが、実際はまだ女性の前にだけ壁があるケースが大半です。その壁の存在を男性に認識してもらうことも重要だと思います。
塚原:これらの話は男性と女性に限らず、同性同士でも起こり得るし、場合によっては男性がマイノリティになることもありますね。
梅田:もちろんです。ここでは国際女性デーにちなんで男性と女性で言及しましたが、性別以外にも文化的背景や歴史的背景に伴うさまざまな違いが世の中には存在しています。以前、講演してくださった上智大学の出口 真紀子教授がおっしゃっていましたが、マジョリティ性の高い人の前には「自動ドア」があるようなもので、簡単に通り抜けられる故に自分のマジョリティ性を自覚する機会がありません。対して、マイノリティ性の高い方の前にあるのは固く閉ざされた扉で、外に出るために自分でこじ開ける必要があります。こういった違いがあることをマジョリティ側の方には認識していただきたいですし、「開けにくいドア」があるならば内側から開けるのを手伝ってくれるような施策をさまざまなところで実現していきたいと考えています。
船越 多枝 氏
大阪経済大学 経営学部 准教授
博士(経営学)。外資系企業を含む複数の企業での勤務を経て、日系企業でダイバーシティ推進、国内外の人材開発、企画管理などにマネージャーとして携わる。ダイバーシティ推進においては、2010年ごろよりプロジェクトベースで、2015年度からは専任のマネージャーとして関連施策の立案・推進全般を担当。2013年神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程(MBA)修了(経営学修士)、2019年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期修了。大阪女学院大学国際・英語学部 准教授を経て、2023年4月より大阪経済大学 経営学部 経営学科にて教鞭をとる。
専門は組織行動論。特に、ダイバーシティ・マネジメントに効果をもたらす「インクルージョン」に着目し、研究を進めている。著書に『インクルージョン・マネジメント:個と多様性が活きる組織』(白桃書房、2021年)がある。
多様な人材が活躍する、リーダークラスで活躍する女性を増やすためには、身近なリーダーが生活と仕事を両立しながら生き生きと働く姿を見せることが大切です。ダイバーシティという観点から、さまざまな施策において女性だけに焦点が当てられ、それが女性優遇と捉えられないためには、ジェンダーギャップの解消が必要です。そして、それには正しい知識を持つことが欠かせません。
EYの最新の見解
EYは「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)として、エクイティ(公正)の実現に取り組んでいます。エクイティとは、個人差を考慮して、それぞれに見合ったリソースの配分や支援をする考え方です。EYは、より公正な社会の実現に向けて障壁を取り除き、さまざまなバックグラウンドやアイデンティティの人々が平等な結果を得られるよう取り組んでいます。
EYは「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)として、メンバー一人一人のあらゆる行動の中心に据え、事業活動を展開してきました。インクルーシブで心理的安全性が高い職場づくりに取り組んでいる株式会社ポーラ代表取締役社長 及川 美紀氏からお招きいただき、EY Japanチェアパーソン兼CEO 貴田 守亮 が対談しました。