EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2022年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2022年4月15日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。
株式上場は、上場する会社にとって、資金調達の円滑化・多様化、企業の社会的信用力や知名度の向上等のメリットがあるとされていますが、その一方で、その会社の株券が不特定多数の投資者の投資対象となることを意味します。
このため、証券取引所では、投資者保護の観点から、上場にあたって上場申請会社が一定の適格性(上場適格性)を有していることを求めており、上場審査に関する基準に従って審査が行われています。
この上場審査の基準には、「形式要件」と「実質審査基準」があります。
「形式要件」とは、上場申請をする場合に充足しなければならない定量的な基準をいいます。
「実質審査基準」とは、上場適格性を有しているか、言い換えれば、上場会社としてふさわしい質的な要素を備えているかどうかを審査するための定性的な基準です。安定した収益性を維持し、将来を見通した経営が行われている会社かどうか等を、企業経営の質的な側面から審査されます。
「形式要件」だけでなく、「実質審査基準」をクリアできるように、早めに上場準備を開始することが、株式上場をスムーズに実現させるための重要なポイントです。
東京証券取引所における各市場区分(プライム・スタンダード・グロース)はそれぞれ独立しており、上場会社が他の市場区分へ変更する場合には、変更先の市場区分の新規上場基準と同等の基準に基づく審査を改めて受け、その基準に適合することが必要となります。
形式要件は、上場までに一定の数値または一定の事実の有無によって充足しなければならない条件であり、証券取引所の市場ごとにその内容が異なっています。
形式要件は、その趣旨から主に以下の4項目に分類されます。
① 上場時株主数
② 流通株式(流通株式数、流通株式時価総額、流通株式数(比率))
③ 時価総額
① 事業継続年数
② 純資産の額
③ 利益の額
① 虚偽記載又は不適正意見等のないこと
② 上場会社監査事務所による監査
① 株式事務代行機関の設置
② 単元株式数及び株券の種類
③ 株式の譲渡制限がないこと
④ 指定保管振替機関の取扱同意
⑤ 合併等の実施の見込み
上場審査では、実質審査基準に基づく審査として、上場会社としての適格性を備えているかを重点的に確認するため、有価証券上場規程等において定められた5つの適格要件に適合するかが判断されます。
東京証券取引所の各市場区分の実質審査基準の概要は、図表1のとおりです。各市場区分には、いずれも5つの実質審査基準があることは共通していますが、一部の項目については、それぞれの市場区分のコンセプトを反映させており、他の市場区分と異なる取扱いとしている内容もあります。
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事業を公正かつ忠実に遂行していること |
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(注)「新規上場ガイドブック(プライム市場編)」、「新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)」「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」(いずれも日本取引所グループウェブサイト)をもとに作成 |
プライム市場・スタンダード市場の実質審査基準に大きな違いはありませんが、相違点としては、「企業の継続性及び収益性」において求められる収益基盤の程度があげられます。
具体的には、スタンダード市場では、「安定的な収益基盤」が求められるのに対し、プライム市場では、「安定的かつ優れた収益基盤」が求められるという点で相違します。これは、収益力という面から、プライム市場に上場する会社の方が、高い水準が求められていることの表れといえます。
グロース市場のコンセプトは、「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」とされています。
グロース市場における上場審査は、前述の市場コンセプトも踏まえ、他の市場よりも、事業計画の合理性、企業内容及びリスク情報等の開示がより慎重に確認される傾向にあります。
これに関連して、グロース市場に上場申請する会社には、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の作成が求められており、審査対象にもなります。「事業計画及び成長可能性に関する事項」の記載内容は、図表2のとおりです。
審査では、記載内容や上場後の進捗状況の開示方針など、上場後も継続的かつ適切に開示される見込みであるかという点も確認されます。
事業計画及び成長可能性に関する事項 |
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概要 |
グロース市場の上場会社は、投資者に合理的な投資判断を促す観点から、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を継続的に開示することが求められます |
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開示時期 |
⑴ 新規上場日に開示が求められるほか、少なくとも1事業年度に対して1回以上の頻度(事業年度経過後3か月以内に少なくとも1回)で、進捗状況を反映した最新の内容を開示 ⑵ ⑴にかかわらず、事業計画を見直した場合や、事業の内容に大幅な変更があった場合など、記載内容に重要な変更が生じた場合には、速やかにその内容を開示 |
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記載内容 |
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記載内容 |
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記載内容 |
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記載内容 |
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以下の場合には、当該行為により申請会社の事業内容、財政状態および経営成績等が極端に変化し、当該行為後の企業実態を把握することが困難であること等から、上場申請を受理しないこととなっています。
新規上場申請日以降、同日の直前事業年度の末日から2年以内(※)に、以下のいずれかを行う予定があり、かつ、申請会社が当該行為により実質的な存続会社でなくなる場合
※ 新規上場申請日の属する事業年度の初日以降、新規上場申請日までの間に、合併等を行っている場合は、上場申請可能です。
上場申請時点において、上場廃止となる予定のある会社を上場させることは好ましくないことから、申請会社が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換又は株式移転を新規上場申請日の直前事業年度の末日から2年以内に行う予定の場合(※)には、上場申請を受理しないこととなっています。
※ ただし、当該再編を上場日以前に行う予定がある場合については、上場申請は可能です。
申請会社が行った合併等が上記に該当せず、不受理にならない場合でも、申請会社の財政状態及び経営成績に重要な影響(※)を与える場合には、当該行為の前後における申請会社の期間比較等が困難になることから、被再編会社の財務諸表等、監査意見、新規上場申請のための被合併会社等の概要書の提出が必要となります。
※ 重要な影響とは、申請会社の総資産の額、純資産の額、売上高、営業利益、経常利益及び税引前当期純利益のいずれかの項目において、50%以上の影響度を有する場合をいいます。
形式要件における「利益の額」及び「純資産の額」については、合併前については、合併主体会社(※)の連結損益計算書、連結貸借対照表等に基づいて算定される利益の額及び純資産の額を審査対象とします。これは、企業再編の実施が申請会社の上場申請の妨げとなることなく、より申請会社の実態に近い財政状態及び経営成績に基づいた審査を実施することによるものです。
※ 合併当事会社のうち、存続会社、消滅会社に関わらず、事業規模の最も大きい会社をいいます。
東京証券取引所は、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現のため、2015年6月に「コーポレートガバナンス・コード」を制定(2018年6月、2021年6月に一部改定)しています。
当該コーポレートガバナンス・コードは、上場会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応を図り、会社、投資家、ひいては経済全体の発展に寄与することを目的として取りまとめられたもので、5つの「基本原則」・31の「原則」・47の「補充原則」から構成されています(全83原則)。
「基本原則」は、5つのベースとなるルールが定められており、それらをより具体化したものが「原則」・「補充原則」といった関係になっています。詳細は、「第6章 経営管理制度の整備・運用 1.コーポレート・ガバナンス制度の整備」もあわせてご参照下さい。
上場会社は、自社のコーポレート・ガバナンスの状況を説明した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を東証へ提出・開示することが求められています。報告書の中では、各原則への対応状況について、いわゆるコンプライ・オア・エクスプレインの手法(※)による記載が必要となっています。
※ 各原則を遵守(コンプライ)するか、遵守することが適切ではないと判断する場合はその理由を説明(エクスプレイン)する方式です。
また、コーポレートガバナンス・コードの適用は、上場している市場によって違いがあります。具体的には、プライム市場・スタンダード市場に上場する会社には、「基本原則」・「原則」・「補充原則」の全てについて適用されます。一方、グロースに上場する会社には5つの「基本原則」のみが適用されます。これらの関係を示すと、図表3のとおりです。
コーポレートガバナンス・コードは上場会社に適用されるものですが、上場準備会社においても、コーポレートガバナンス・コードの内容を十分に検討し、上場予定の市場や上場スケジュールを踏まえて、自社に適したコーポレート・ガバナンス体制を構築していく必要があります。
企業を取り巻く環境は日々変化しており、こうした環境変化の下で新たな成長を実現するには、企業自身が課題を認識し変化を先取りすることが求められます。そのため、持続的成長と中長期的な企業価値の向上の実現に向け、取締役会の機能発揮、企業の中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取り組みをはじめとするガバナンスの課題に企業がスピード感をもって取り組むことが重要です。また、2022年4月の新市場区分への移行により、国際的にもより魅力のある市場となることが期待されています。
これらを背景に、一段高いガバナンスの向上、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指して各々の企業が取り組んでいくことが重要となるため、コンプライ・オア・エクスプレインの手法を継続のもと、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されました。
主な改訂内容は、以下のとおりです。
① 取締役会の機能発揮
② 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
③ サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取り組み
④ その他個別の項目
・ グループガバナンスの在り方
・ 監査に対する信頼性の確保及び内部統制
・ リスク管理
・ 株主総会関係(株主がその権利を行使することができる適切な環境の整備)
東京証券取引所では、上場会社が提出した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に基づき、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計を行って、2015年12月末時点以降、毎年、その結果を東証ホームページに公表しています。
東証ホームページに公表されている「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2021」によれば、2020年8月時点を基準として行われた東証一部と東証二部のコーポレートガバナンス・コードの対応状況(全78原則に対するコンプライ率)は、図表4のとおりです。
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(東証ウェブサイトの「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2021」から作成) |
また、東証は、中長期的な企業価値の向上等の実現を目指した取組内容の検討やコーポレートガバナンス・コードの充実した開示の促進を目的として、我が国において中長期的な企業価値向上を実現していく上で課題と指摘されている資本コストを意識した経営や取締役会の機能発揮等に係るコーポレートガバナンス・コードの各原則に関して、充実した取組が行われ、その内容が投資者に対し分かりやすく提供されていると考えられる開示例を、「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」として2019年11月に公表しています。
日本取引所自主規制法人は、2016年2月に『上場会社における不祥事対応のプリンシプル~確かな企業価値の再生のために~』を、2018年3月に『上場企業における不祥事予防のプリンシプル~企業価値の毀損を防ぐために~』を公表しています。
これらは、上場会社において多くの不祥事が発生・表面化したことを踏まえて、企業価値の毀損を招くような不祥事を予防または不祥事が発生した場合の適切な事後対応を行うための原則(プリンシプル)を指針として示したものです。
このうち『上場企業における不祥事予防のプリンシプル』は、事前対応としての不祥事予防の取組みに重点が置かれ、6つの原則から構成されています。また、『不祥事対応のプリンシプル』は、実際に不祥事に直面した上場会社の速やかな信頼回復と確かな企業価値の再生に向けた指針として事後対応に重点が置かれ、4つの原則から構成されています。それぞれの原則は、図表5のとおりです。
なお、これらのプリンシプルは、詳細・具体的な内容が定められているものではなく、どの企業にも共通する原則的な考え方であり、各上場会社においては自社の実態に即して創意工夫を凝らし、より効果的な取組みをすることが前提となっています。
このため、各上場会社はプリンシプルの考え方を十分に理解し、2つのプリンシプルを車の両輪として、不祥事の予防・対応に向けて実効性の高い取り組みをすることが重要です。
これらのプリンシプルは、上場会社を対象としたものですが、上場準備会社においても体制整備にあたって考慮する必要があります。
主幹事証券会社及び証券取引所等による実質基準に基づいた上場審査への対応において求められる様々な管理体制の整備と運用を行っていくうえで、不祥事の発生は上場時期の延期または上場自体の断念といった事態につながる恐れも否定できません。このため、上場をスムーズに実現するためには、プリンシプルを意識した適切な取り組みを上場準備の早い段階から行うことがポイントとなります。