持続的経営と税(2)国別納税額など開示広がる

寄稿記事

掲載誌:2023年1月11日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人
EU経済・財務相理事会(ECOFIN)、EUブラックおよびグレーリストを改定

企業の税に関する情報開示の対象範囲が急速に拡大しています。これまでは重要な企業機密とされ、税効果会計などの財務情報などを除き開示されていませんでしたが、税負担の増減は企業価値評価の主要指標である自己資本利益率(ROE)に直接影響するため、企業の租税戦略や納税状況などの開示の重要性が増しています。

社会的責任という点からも、税のガバナンス(統治)について、株主や債権者だけでなく消費者などを含むステークホルダー(利害関係者)から透明性の確保が求められるようになりました。

開示対象となる範囲は、環境税、租税戦略や具体的なプランニング、税務リスク管理、国際課税ルールへの対応、国別納税額などへと大きく広がっています。

法人税率の低い国に拠点を設けるなどして納税額を少なくしようとする多国籍企業の「BEPS(税源浸食と利益移転)」への対抗措置として導入された国別の損益・納税報告書(国別報告書)は、税務当局内で使用する守秘義務の対象とされ開示はされてきませんでした。

しかし、2021年11月の欧州議会で国別報告書をディスクロージャーの対象とする欧州連合(EU)会計指令が承認され、23年6月までに各国で導入することが決まりました。

各国に先駆けて、ルーマニアは23年1月開始の事業年度から開示対象とするルールを導入、他のEU加盟国でも最終的には25年1月開始の事業年度から開示が始まる見通しです。

こうした動きに対し、企業側では懸念も広がっています。

EU域内の販売子会社の各国での利益水準が開示された場合、利益水準に違いがあれば各国での販売マージン(利幅)が異なっていると推測され、販売交渉や価格戦略に影響を与える可能性があります。各国での実効税率に違いがあれば、移転価格税制による利益配分の調整が求められ、実効税率の改善余地があるとの指摘を受ける可能性が出てくるのではないかといった懸念です。

税情報の開示は、企業経営へのインパクトが極めて大きいと考えられており、外部のアナリストなどによる分析では、税務当局による移転価格の分析とは異なり、多様な指摘を受ける可能性があります。

特に国別報告書では、租税戦略を開示する際に実証的な説明が求められます。サステナビリティ(持続可能性)やESG(環境・社会・企業統治)の観点から求められる税情報のディスクロージャーは、国別報告書のデータによって実質的に裏付けられることになり、国別の損益・納税の配分と租税戦略を整合的に説明していくことが求められるようになります。

国別報告書を根幹とする税に関する情報は、従来の税務当局との閉鎖的な環境下とは異なり、ステークホルダーによる企業価値評価に直結するものとなります。企業経営に深刻なインパクトを与えるレピュテーション(評判)リスクとして重要な問題となってきています。

 

(出典:2023年1月11日 日経産業新聞)

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