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新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第11回 外食産業

2018年9月28日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2018年10月号 業種別シリーズ

外食セクター 公認会計士 堀井 秀樹

主に国内事業会社や外資系企業の監査業務に従事。業種は、外食、小売など。法人内の外食産業ナレッジ活動では、サブリーダーとして業種別監査の品質とクライアントサービス向上のために活動。主な著書(共著)に『外食産業のしくみと会計実務Q&A』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(米国基準ではTopic606)を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進めてきました。17年7月には公開草案を公表し、当該公開草案に対して寄せられた意見等について検討を重ね、18年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)を公表しました。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 外食産業における収益認識の論点

新たに公表されたわが国の収益認識会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます。ここで「顧客との契約」は口頭による約束も含まれるため、外食産業における日々の顧客との取引(飲食サービスの提供等)も、新基準に照らして検討する必要があります。
また、新基準の特徴の一つは、収益の認識に当たり五つのステップを適用することにありますが、この五つのステップを通して、「いつ(When)」そして「いくら(How much)」で収益を計上すべきかを決定します。本稿では、この二つの視点から、外食産業に特有の論点について解説します。

1. 「いつ」収益を計上すべきか

(1) 顧客への飲食サービスの提供

外食産業における飲食サービスの提供では、事前にサービスの価格が明示され、サービス提供の都度、顧客から現金やクレジットカード等の決済によりサービスの対価を受領します。顧客が飲食サービスに満足して対価を受領した時点で飲食サービスの提供が完了するため、この時点で収益を計上することについては新基準でも同様といえます。

(2) その他の取引に係る収益

一方、外食産業では直営店方式による飲食サービスの提供の他、フランチャイズ(FC)方式により店舗展開する場合があります。ここで、FC方式の場合の加盟金収入や、FC加盟店から受け取るロイヤルティー等については、収益の計上時点に注意が必要です。加盟金収入は通常、FC契約締結時に対価を受領しますが、当該収入がFC契約期間にわたり充足されるFC本部の履行義務(FC本部が加盟店に提供すべきサービス等)と考えられる場合、FC契約期間にわたり収益を認識することを検討すべきといえます。また、受取ロイヤルティーが売上歩合方式の場合、加盟店の売上高が生じる時(例えば、加盟店の売上計上月と同じ月)に収益を認識することに留意が必要です(収益認識適用指針 設例25)。

2. 「いくら」で売上高を計上すべきか

(1) 割引クーポンやポイントの付与

外食産業では、顧客への販売促進のため、割引クーポンやポイントの付与が行われています。割引クーポンは自社のスマートフォンアプリ等を利用して運営されるのに対し、ポイント制度は自社運営タイプ(自社ポイント)もあれば、携帯電話事業者やコンビニエンスチェーン等の他社が運営するポイントプログラムに参加する方式(他社ポイント)もあります。
これら割引クーポンやポイントの付与について、新基準では従来と異なる会計処理が求められることがあります。会員等に無料配布される割引クーポンが店舗で使用された時に、飲食サービス代金の割引額を費用処理している場合(例えば、割引額を販売促進費として処理している場合等)には、収益の金額から減額する処理への変更を検討すべきといえます。
また、自社ポイントが顧客への飲食サービスの提供に付随して付与される場合、当該ポイントは追加的な飲食サービスを無料または割引価格で購入できる顧客のオプションとして扱われます。このようなポイント制度が顧客への重要な権利の提供と判断される場合、当該ポイント部分について収益の計上の繰り延べを検討する必要があります。具体的には、例えば500円の飲食サービスの提供に対し、次回以降に利用可能な10%相当(50円)の自社ポイントが付与された場合、顧客から受領した500円のうち45円は収益の計上を繰り延べ、455円だけ収益を計上する会計処理です。なお、繰り延べられた45円は、次回以降のポイント利用時に収益が計上されます(収益認識適用指針 設例22)。
一方、他社ポイントを付与している場合、顧客への飲食サービスの提供に係る取引価格の算定において、ポイント運営会社のために回収した金額(契約により当該会社に支払うべき金額)は、収益から控除すべきといえます(収益認識適用指針 設例29)。つまり、従来は500円の飲食サービスについて5%相当(25円)のポイントを付与した際、25円を支払手数料等の費用項目で処理していた場合、新基準では収益の金額を475円(=500円-25円)で計上することになります。

(2) FC加盟店との間のさまざまな取引

FC方式による店舗展開の場合、FC本部は加盟店に対し、さまざまなサービスを提供します。ここで、新基準では収益の認識について「本人」と「代理人」の考え方があり、企業が当該取引について本人と認められる場合は総額で収益を計上し、代理人と認められる場合は(手数料等の)純額で収益を計上することが求められます。
例えば、仕入業者が納入する食材等について、FC本部を通じて加盟店に販売される場合、FC本部の履行義務が食材等を自ら提供することなのか(すなわち、FC本部は新基準上の本人に該当)、または仕入業者によって食材等が提供されるよう手配することなのか(すなわち、FC本部は新基準上の代理人に該当)を慎重に判断すべきと考えます。ここで、FC本部が代理人と認められた場合、食材の仕入と売上の総額では計上されず、FC加盟店から受け取る利ざや(手数料)部分のみを収益として計上することになります(収益認識適用指針 設例17)。

(3) 決済手段の多様化

近年の外国人旅行客の大幅増加等を受けて、外食産業では決済手段の多様化に取り組んでいます。これまでの現金による決済に加え、クレジットカードやデビットカード、さらにはビットコイン等の仮想通貨を決済手段に加える企業も見られます。ここで、仮想通貨を対価とした場合、当該通貨の時価により収益を計上することに留意する必要があります(収益認識会計基準 59項)。

Ⅲ おわりに

収益認識会計基準は、東京オリンピック後の21年4月1日から開始する事業年度から原則適用となります。検討のための時間は十分にありますが、収益の配分等についてシステム対応等が必要なケースも想像されます。本稿の読者の皆さまには、担当会計士と忌憚(きたん)のない議論が行われることを望んでいます。

※ 将来のポイント利用率を100%と見積もった場合、500円×(500円÷550円)≒455円だけ収益を計上することになる。

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