情報センサー

公開草案「全般的な表示及び開示」の公表


情報センサー2020年3月号 IFRS実務講座


IFRSデスク 公認会計士 岩田英里子

2005年、当法人入所。以降、主として個別受注産業、広告業等の会計監査、株式公開準備監査、およびJ-SOX導入支援業務に携わる。17年よりIFRSデスクにて、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆業務などに携わっている。


Ⅰ  はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2019年12月に、IAS第1号「財務諸表の表示」(以下、IAS第1号)を新たに置き換えることを念頭に置いた公開草案「全般的な表示及び開示」(以下、本公開草案)を公表しました。本公開草案は、業績報告における比較可能性及び透明性に関する財務諸表利用者の要望に応えるべく、IASBが基本財務諸表プロジェクト及びより広範な「財務報告におけるコミュニケーションの改善」に関する作業の一環として開発しました。
本稿では、本公開草案の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

 

Ⅱ 概要

本公開草案の主な内容は<表1>の通りです。

表1 本公開草案の主な内容

本稿においては、前記のうち特に影響が大きいと想定される損益計算書における新たな小計表示、及び財務諸表における経営者業績指標の導入及び開示を取り上げます。なお、その他の内容については、当法人のウェブサイトにて公表されている『IFRS Developments第158号/2019年12月』をご覧ください。

1. 損益計算書における新たな小計表示

IAS第1号では、「収益」及び「純損益」の表示は求められているものの、特定の段階利益の表示は求められていません。また、多くの企業が損益計算書において「営業利益」を表示していますが、現行のIFRS基準では「営業利益」が明確に定義されていないため、企業間での意味のある比較が困難になっているという問題があります。そこで、新たな小計を設けることによって、企業はより適切な損益構造を財務情報として表示することとなり、また財務諸表利用者による企業間比較が可能となります(<図1>参照)。

図1 損益計算書の表示例

次に、本公開草案は損益計算書の小計に関連して、収益及び費用を四つのカテゴリーに分類することを提案しています。

(1) 営業カテゴリー

営業カテゴリーには、企業の主要な事業活動から生じる収益及び費用が含まれます。また、他のカテゴリーに分類されなかった全ての収益及び費用も営業カテゴリーに分類されることになります。

(2) 不可分な持分法投資損益カテゴリー

関連会社及びジョイントベンチャーから生じる持分法損益は、企業の主要な事業活動と不可分なものと、不可分でないものに分類され、不可分な関連会社及びジョイントベンチャーからの収益及び費用は、不可分な持分法投資損益カテゴリーに分類されることになります。
持分法を適用する関連会社及びジョイントベンチャーが企業の主要な事業活動と不可分であるかどうかは、IFRS第12号「他の企業への関与の開示」に新たに示される指針に従い、全ての事実及び状況を考慮して評価することになります。企業と関連会社又はジョイントベンチャーに重要な相互依存関係がある場合、当該関連会社又はジョイントベンチャーは企業の主要な事業活動と不可分であることを示唆します。例えば、企業と関連会社又はジョイントベンチャーが、不可分な事業分野を共有している、社名やブランド名を共有している、あるいは重要な取引関係を有しているといった関係がある場合には、重要な相互依存関係が存在すると考えられます。

(3) 投資カテゴリー

投資カテゴリーには、不可分でない関連会社及びジョイントベンチャーから生じる持分法損益を含む、投資から生じた収益及び費用が分類されます。これは、企業が保有するその他の経済的資源からおおむね独立した別個のリターンを生じさせる資産に関連する収益及び費用を分類することを目的としています。また、投資から収益及び費用を生じさせるために生じた費用、すなわち投資を行われなければ発生しなかったであろう費用も当カテゴリーに分類されます。

(4) 財務カテゴリー

財務カテゴリーには、現金及び現金同等物から生じる収益及び費用、借入やリース負債等の財務活動から生じた負債に係る収益及び費用が分類されます。また、資産除去債務の割引の振戻しに伴う費用等その他の負債から生じた利息収益及び費用も含まれます。

2. 財務諸表における経営者業績指標の導入及び開示

多くの企業は、財務諸表利用者とのコミュニケーションにおいて経営者業績指標を用いています。経営者業績指標は、経営者が企業の業績をどのように捉えているのか、企業がどのように経営されているのかといった有用な情報を提供すると考えられます。一方で、経営者業績指標がどのように計算されているのか、なぜその経営者業績指標が企業の業績を適切に表していると経営者が考えているのかといった情報が、明確に開示されていないという懸念もあります。
そこで、IASBは経営者業績指標を財務諸表で注記することを提案しています。この注記では、当該指標が有用な情報を提供する理由と当該指標の計算方法を説明し、IFRS基準で定めている最も比較可能な利益小計との調整表を示すことが提案されています。この結果、経営者業績指標の使用に必要とされていた透明性と規律が確保され、財務諸表利用者が分析を行うために必要な情報が提供されることになります。
なお、経営者業績指標は<表2>の全てを満たす収益及び費用の小計と定義されます。

表2 経営者業績指標の定義

Ⅲ おわりに

本公開草案は、財務諸表の理解可能性や比較可能性を高めることを意図した提案が多くなされており、この結果、財務報告におけるコミュニケーションの改善が図られることが期待されます。
なお、本公開草案に対するコメント期限は、2020年6月30日です。

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2020年3月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。