EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
FAAS事業部 中務貴之
企業における多様な人材活用に関する領域だけでなく、科学技術・イノベーション政策、高度人材政策に関する立案・実行支援業務を担当。当法人含め、国内金融機関シンクタンク、官公庁政策研究所にて計20年の経験を有する。東京大学大学院修士。当法人 アソシエイト・パートナー。
どの企業においても人手不足は深刻化しています。「なかなか採用できない」「すぐに辞めてしまう」「求める質の人材からは応募がこない」など、人材に関わる課題を抱える企業が多くなっています。
中小企業だけでなく、多くの大企業・中堅企業においても多様な人材活用は避けられない状況にあります。企業を取り巻く環境変化のスピードが加速化する中、企業の抱える経営課題も絶えず変化しています。環境の変化に対応しながら持続的な成長につなげていくためには、従来の慣例や慣習に捉われることなく、新たな視点で、経営戦略・人材戦略を見つめ直すことが必要です。従来のように画一的・均質的ではなく、多様な人材の能力や特性を最大限に活かし、それを新たな企業価値の創造につなげる動きを、経済産業省※1では2012年から「ダイバーシティ経営」と名付け、その推進を実施しています。
しかし、女性、外国人、高齢者、チャレンジド(障害者)を含め、社員一人ひとりが多様な能力を最大限発揮して価値創造に参画していく「ダイバーシティ経営」を実践し、成果を出すことは、一朝一夕には成しえず、また、その手法も全ての企業に共通するような絶対的なものはないのが現実です。「ダイバーシティ経営」の重要性・必要性は広く浸透してきていますが、具体的な実践手法が分からないという声も多数耳にします。
当法人は、これまで経済産業省のダイバーシティ経営企業100選事業の受託やさまざまな企業との話を通して、ダイバーシティ経営の実践を考えるきっかけとなるような、複雑過ぎず、かつ全体を包括するようなフレームワークを作成できないかと考えていました。経済産業省の「平成30年度女性活躍推進基盤整備委託事業(ダイバーシティ経営普及アンバサダー事業)」において、さまざまな有識者からの助言も踏まえて、検討を行いました。
成果として、ダイバーシティ経営診断ツール※2(ダイバーシティ経営診断シート、その手引き)を作成しました。本フレームワークについては、経済産業省のウェブサイト※3に公開されていますが、本稿ではポイントを紹介します。
フレームワークは、大きく①「理念や戦略に関する項目」と、多様な人材を活かすための②「取組群」に分けて整理しています。
「理念や戦略に関する項目」には、経営姿勢や経営理念の下に、経営戦略と人材戦略が連動したものになることが重要であるため、これらについての設問を置いています。
また、多様な人材を活かすための「取組群」には、単に勤務環境や組織風土に関する項目だけでなく、個々人の育成や評価、適正配置に関する項目、多様な人材の採用・定着に関する設問を置いています。
これらの項目について、さらに数問の問いにブレイクダウンした設問が、診断シートには記載されています(<図1>参照)。この設問に対して、自社の状況を主観ではあるものの、可能な限り客観的な目線でチェックしてします。その結果について、俯瞰(ふかん)して項目別の回答傾向を見ると、検討の優先順位の高い項目が把握できます。例えば、「勤務環境」に関する項目よりも「育成、評価、配置」に関する項目のほうが相対的に低い値となっている場合、「育成、評価、配置」についての検討優先順位は高いと言えます。
さらには以下のような使い方を想定しています。
特に、経営者の方々に自らの気づきとしてシートを活用いただくだけでなく、経営に携わる方々や人事部などさまざまな立場の方が自社もしくは自事業部についてチェックした結果を比較しながら、その違いの元は何かをディスカッションすることで一人では見えないさまざまなものが見えてくるのではないかと考えています。
診断シートには、<図1>に示す設問以外に、各属性別の従業員数や採用者/離職者数などの定量値を入力する箇所もあり、定量データも参照できます。さらには、フレームワークに沿って「現状」「在りたい姿」「課題」をメモすることが可能となっており、設問に答えるだけではなく、より具体的な内容についても記して活用できるものとなっています。
当法人は、これまで経済産業省のダイバーシティ経営企業100選事業の受託や多くの企業との付き合いの中で、規模・業種を含む多様な企業とダイバーシティ経営に関する話をしてきました。
その中で、どの企業においても重要なポイントなのは、「働きがい」を高めるための工夫として、自社の状況を鑑みて何をやるのが重要かを突き詰めることだと感じています。
また、そこで特に重要なのは、個々人の個性を活かす形で役割を明確にし、自社のビジネスモデルにつながるように活動(挑戦)できるようなマネジメントをいかに経営層または上位者が実施できるかにかかっていると考えます。
そうした取組の第一歩として、組織の戦略と個人の働きやすさ・働きがいをつなげて考えることのできるこのツールを用いて分析を行うことが有効です。
※1 meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html
※2 本フレームワークは30 ~ 50人規模の企業(組織)を想定して作成したものだが、規模の大小にかかわらず適宜活用できるものとなっている。