EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
バリュエーション、モデリング&エコノミクス
米国公認会計士 三森亮平
国内大手事業会社等の財務・経理部門を経て、2008年EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。主に事業・株式価値算定、ハイブリッド証券・オプション性金融商品の価値算定業務、エコノミック・アドバイザリー業務を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
バリュエーション、モデリング&エコノミクス
井上雄介
国内シンクタンク研究員・大学非常勤講師を経て、2019年より現職。専門領域はマクロ経済政策・日本経済論・計量経済学。19年より早稲田大学産業経営研究所招聘研究員。
本稿では、本誌2020年新年号(Vol.150)で紹介した産業連関分析の利用事例について概観し、経済効果の測定法として高い信任を得ている同分析の意義・役割について検討します。
代表的な事例として、インフラ事業が挙げられるでしょう(<表1>参照)。独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構では、東北新幹線・九州新幹線の経済波及効果は、各々約235億円、約734億円、生産額変化率は、東北地方で青森県が0.117%/年、九州地方で鹿児島県が0.220%/年としています※1。
さらに、新路線開設に関する事前分析事例を二つ提示します。第一に、北陸新幹線・四国新幹線の事例です。北陸経済連合会が北陸新幹線の波及的効果額を約800億円とし、早期開業で生じる増分も試算しています※2。四国新幹線については、四国新幹線整備促進期成会が三つの経路を想定し、各々波及的効果額は、87億~169億円の範囲と計測しています※3。
またリニア中央新幹線についても、産業連関分析が利用されています。公益財団法人中部社会経済研究所では※4、日本に与える経済波及効果は、2018年から2037年までの累積額で約14兆8,204億円、内訳として、長野県2兆1,147 億円、岐阜県2兆278億円、愛知県2兆2,738億円等と公表しています。
続いて、国際スポーツ大会の事例を紹介します(<表2>参照)。記憶にも新しいラグビーワールドカップ2019日本大会では、公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会が※5、約4,372億円の波及的効果が生じると事前分析を行っています。この他、最大25,000人分の雇用創出効果、216億円分の税収効果が期待されております。
また2020年東京オリンピック・パラリンピック大会では、オリンピック・パラリンピック準備局が※6、日本全域での波及効果を約32兆円としています。直接的効果(直接的な需要増加分)およびレガシー効果(レガシーの活用で生じる需要増加分)に分解すると、前者は日本全域で約5兆円、後者は27兆円であり、レガシー効果がおよそ5倍直接的効果を上回っていることが確認できます。
最後に民間企業での利用事例を紹介します(<表3>参照)。
一つ目は、キオクシア株式会社(旧東芝メモリ株式会社)の事例です。同社が新工場を岩手県北上市に設立したことを受け、県および市は、その波及効果が約3,240億円に上ると公表しています※7。県では2019年から2023年の5年間で約50億円、市では2020年から2029年の10年間で約25億円規模の補助を行う計画を示しています。
二つ目は、華為技術(以下、ファーウェイ)の事例です。同社は、事業投資国に対する波及的効果の検証をオックスフォード・エコノミクスに委託しました※8。2018年度のファーウェイによるビジネス活動は約7,660億円の経済波及効果、46,400人の雇用創出効果、2,080億円の税収効果をもたらしました。ファーウェイは産業連関分析を用いて海外事業展開の改善を国際世界に訴えたのでした。
今回説明したケーススタディはほんの一部にすぎませんが、産業連関分析が汎用(はんよう)的かつ客観的に確立したアプローチであるといえるでしょう。一方、同じ産業連関分析であっても、前提条件が異なれば結果に大きな差が生じます。産業連関表を更新せずに長期予測を行えば、経済実態から乖離(かいり)した結果となり、また投入する初期値を多く見積もるなどすれば、意図的に波及効果を大きく計上する余地があるためです。
確立したアプローチであるからこそ、多くの方が適切な知見をもち、産業連関分析の健全性を満たすことで、その有用性を発揮できます。同分析の利活用が今後も期待されます。
※1独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構「九州新幹線(博多・新八代間)事後評価の概要」および「東北新幹線(八戸・新青森間)事後評価の概要」2016年
※2北陸経済連合会「北陸新幹線金沢-敦賀間の早期開業による経済効果」2012年
※3四国新幹線整備促進期成会「調査結果の概要 四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」2014年
※4公益財団法人中部社会経済研究所「中部圏経済白書2018」2017年
※5公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会"THE ECONOMIC IMPACT OF RUGBY WORLD CUP 2019™"2019年
※6東京都オリンピック・パラリンピック準備局「東京 2020 大会開催に伴う経済波及効果」2017年
※7岩手県日日新聞社「キオクシア稼働へ 多方面に経済波及効果 北上」2020年1月1日
※8オックスフォード・エコノミクス社「ファーウェイ 日本経済への貢献」2019年