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ベトナムにおける不正事例とその対応について

2020年4月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2020年5月号 JBS

ハノイ駐在員 公認会計士 若杉俊哉

2007年に当法人入所。一貫してグローバル企業に向けて監査業務を提供してきた。18年7月からEYベトナム(ハノイ)に駐在し、ベトナム北部で活躍する日系企業に進出から会計・税務、M&Aのアドバイザリーまで幅広くサポートしている。

Ⅰ はじめに

ベトナムでは近年のGDP成長率が7%前後と、大きな経済成長を継続的に遂げています。親日国であり、勤勉な国民性もあって引き続き有望な投資先の一つとして数えられている同国ですが、新興国であるため現在の日本との文化・慣習をはじめとする環境の違いから、企業不正が発生しやすい土壌も存在します。そのため、ベトナムへの進出後に予想していなかった不正のトラブルに巻き込まれてしまうケースも少なくありません。本稿では、ベトナムでの不正事例に焦点を当てて、その特徴や典型的な事例、およびその対応策について解説します。

Ⅱ ベトナムにおける不正の要因

ベトナムに日系企業が進出して直面する問題の一つとして、言語の壁が挙げられます。ベトナム語は日本人にとって習得が難しい言語といわれており、その結果、日本人マネジメントが不正に気付きにくいという点があります。また、近年コンプライアンスの重要性がますます高まっていますが、ベトナムではそのコンプライアンス意識がまだ根付いておらず、意識に差があることも事実です。加えて、慣習として学校や病院、役所等において心付けとしてお金を渡すケースも根強く残っており、結果として賄賂を不正だと意識する傾向が薄くなっています。これには、公務員の給与がいまだに著しく低く設定されているという、社会構造上の問題もあります。
NGOのTransparency Internationalが公表している腐敗認識指数国別ランキングでは、ベトナムは19年度で180カ国中96位に位置しています。18年度の117位から多少上昇しましたが、このランキングには内戦中の国等も含まれるため、日系企業が進出先として検討する国の中では低い順位と考えられます。

Ⅲ ベトナムにおける典型的な不正事例とその対応

1. 不正事例

職業上の不正は、大きく分けて「資産の不正流用」「汚職」「不正な報告」の三つに分類されます。その中でも、現在のベトナムにおいては「汚職」が問題になるケースが多いのが現状です。また、不正に得た金銭を複数の従業員で分配しているケースが多くあります。<表1>では、典型的な不正事例をまとめています。

表1 ベトナムにおける典型的な不正事例

2. 不正事例への対応

(1) 予防と発見

不正事例への対応策として、予防と発見に分けて解説します。予防については、最も重要なのが不正を決して許さないという雰囲気作りです。そのためには、まず日本とベトナム間での文化・慣習の違いを知り、何が不正なのかを社内で周知徹底することが必要です。例えば、キックバックの事例等においては、主導者は不正をしていたという自覚すらないケースも少なくありません。次に資産管理、業務分掌、ジョブローテーションといった内部統制の徹底が挙げられます。しかし、前述の通り、ベトナムでは不正に得た金銭が従業員の間で分配される傾向にあります。内部統制をせっかく整備しても、このように共謀されてしまうとうまく機能できません。そのため、日本人の駐在員を重要なチェックポイントに置くことが効果的です。また、不正を発見した際に徹底的に対処することも予防につながります。
発見については、第一に内部通報制度の整備が挙げられます。内部通報制度を創設する際のポイントは、通報を行った方の立場が保証されることを、社内でしっかりと周知することです。また、言語面の負担は生じますが、ベトナムの子会社ではなく本社に通報先を設定したり、外部専門家に制度自体の運用を委託したりすることが効果的です。次に、取引先リストとその取引金額を日本人マネジメントが定期的にチェックすることも有効です。不正が行われている場合には、取引の金額が徐々に増加していく等の傾向があります。チェックを行うことでけん制の効果も生まれます。その他、不正の蓋然性が高い従業員のPCに対して、外部専門家に依頼してEメールレビューを行うこともあります。この場合、削除済みのデータも可能な限り復元し、徹底的に調査が行われます。

(2) マネジメントが心がける事

日本人が派遣されてベトナム現地でマネジメントを行う場合、前述のとおり言語や文化・慣習の違いといった壁があり、かつ日本語を理解し業務に精通している社員が少ないことから、長年勤めているベトナム人のキーマン(いわゆるベテラン社員)に業務の遂行を頼らざるを得ないケースがあります。しかし、ベトナムではこういったキーマン自身が不正の中心にいるケースがあります。仮に不正の事実に気付いても、キーマンに話すことは避けるべきです。マネジメントの立場として海外で孤独を感じるときもあるかもしれませんが、そのようなときでもいわゆる「信用しても、信頼するな」という精神を忘れてはいけません。

Ⅳ おわりに

18年1月1日にベトナムにおける新刑法が適用され、従来は公務員のみに適用されていた贈収賄に関する規定が民間企業(民間人)も含まれることになりました。法律という点でも不正に関する対応が引き続き進められていますが、不正・汚職やコンプライアンスの意識については今後も改善されていく余地があります。前述の文化・慣習の違いをはじめとするベトナムの現況をよく理解しておくことは、日本から見たグループ管理体制という点でも大変重要と考えます。
EYベトナムにおいては、不正調査の専門チームを組成しており、不正に関する研修からEメール・PC内データのレビューまで幅広く対応しています。昨今では日本のコンプライアンス意識の高まりもあり、ベトナムでの相談件数も増加傾向にあります。現地で不正についての問題に直面した場合には、専門家に問い合わせ、慎重に対処されることをお勧めします。

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