外食産業における不正の傾向と対策

外食産業における不正の傾向と対策


情報センサー2020年12月号 業種別シリーズ


外食セクターリーダー 公認会計士 藤原 選

上場企業の会計監査のほか、オーナー系企業やスタートアップ企業を中心に多数のIPO業務やスタートアップ支援を20年以上にわたり行う。また、EY外食セクターリーダーとして活動しながら、外食企業には20年以上にわたり関与し、最近5年間でも外食企業2社のIPOに業務執行社員として関与する。主な著書(共著)・執筆等に『金庫株の資本戦略』(ぎょうせい)、『外食産業のしくみと会計実務Q&A』(中央経済社)がある。

Ⅰ  はじめに

外食産業の事業運営上の特徴を踏まえ、外食産業における不正の傾向と対策を考察します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

 

Ⅱ 外食産業における不正の傾向と対策

1. 外食産業の特徴と不正パターン

(1) 外食産業の特徴

外食産業では、店舗で接客・調理・会計のみならず、在庫・労務管理など多くのオペレーションが人手を中心に行われています。特に、クレジットカードや電子決済等を導入していない現金商売中心の店舗がまだ多くあり、多くの従業員・アルバイト等が関与しながら店舗運営を行う特徴があります。
一方で、本社(以下、本部含む)では、店舗で使用する食材やドリンクの企画・単価決定を行う購買業務や、出店の際の内装設備購入業務や閉店・業態変更の意思決定業務等の全社業務を行う特徴があります。

(2) 不正パターン

外食産業における不正パターンは、①着服横領を典型とする資産の私的流用と②粉飾決算等をはじめとする不正な財務報告に大別され、実施場所/主体の観点からは店舗/従業員か本社/従業員・役員に分かれます。

① 着服横領を典型とする資産の私的流用

ⅰ 現金

店舗現金の着服は典型的な従業員不正です。具体的には、売上金または釣銭からの従業員による着服であり、特にPOSシステムのデータを操作して日々の売上金を数字上減らすとともに同額の現金を着服するケースが見られます。

ⅱ 商品

店舗従業員が自店の食材やドリンクなどを消費してしまうケースが典型的です。当該ケースは単独行動でなく、店舗の複数の人員が絡むケースが一般的であり、他の産業と異なり、商品を転売や横流しするのでなく、店舗で飲み食いするケースが多く見受けられます。

ⅲ キックバック

食材やドリンクの日常の購買業務は店舗で実施される一方、メニュー改定・納品単価決定等は本社で行われ、出店時の内装設備購入業務も出店の都度、本社にて行われます。
外食産業ではFL管理(Food & Labor,すなわち食材と店舗労務費の管理)が重視されており、その管理指標である店舗別の原価率は関係者が日常的にモニタリングしていること、ならびに発注は店舗で行い価格決定は本社で行う職務分離が一般的であることから、購買業務における不正発生はあまり多くないと考えられます。
一方で、経費関連(衛生関連等)は原価に比較して注視されておらず、本社一括で各店舗に共通して発注できることから、不正の観点で注意が必要です。特に、役務サービスを消費する場合は検収がしにくく価格も幅があることから、過大な金額で本社従業員等が発注してキックバックを受けるリスクがあります。
さらに内装設備の購入業務では、各店舗の間取りが異なり発注額が店舗により異なること、承認部署においても業務に精通した経験者を登用しているケースばかりでないこともあり、不当に高い金額で購入して本社の発注者がキックバックを受ける不正が見られます。

② 粉飾決算等をはじめとする不正な財務報告

外食産業の不正な財務報告の典型は、固定資産の減損損失を回避するための不採算店舗の直接経費の操作又は間接費の不適切な配賦です。こうした行為は業績不振店を多く抱える外食企業における不正事例として報告されています。
減損会計は、一般的には店舗単位でグルーピングされて減損の兆候判定からスタートします。その際、当該判定指標の一つである営業活動から生じる損益が継続してマイナス又はマイナスとなる見込み(いわゆる「2期連続マイナス」)を避けるために、直接経費を不採算店舗から業績好調店舗へ付替えたり、間接費の配賦基準を操作することにより減損兆候のある不採算店舗への配賦額を過少にするような不正が見られます。
一般的に減損の兆候判定はスプレッドシートを用いて費用の直課・配賦の計算を実施すること、費用の付け替えは内部計算の問題であり資金も絡まないことから、減損会計における不正は売上金額を調整するよりも複雑な計算過程がある費用サイドで実施される場合がほとんどのようです。

2. 不正に対する対策

従業員不正は、一般的に当初始める時は少額で頻度も低い傾向にありますが、次第に大胆に金額も大きく頻度も多くなり、不正を止められなくなる傾向があります。そのため何よりも不正を起こさせない仕組みが重要になります。
それには、「不正のトライアングル」、すなわち、不正の「機会」「動機」「正当化」の観点から対策を考えていくことが効果的と言えます。
不正を「正当化」しないようなコンプライアンス意識を高める組織風土作りはもちろん大事ですが、特に不正の「機会」を無くすように内部統制をしっかり構築し運用することが肝要です。
現金不正であれば、自動釣銭機を導入する、現金を2人でダブルカウントする、エリアマネージャーが定期的に現金実査を行う、防犯カメラを設置する、POS上の売上マイナス金額を一定額以上は営業日報にて報告する等の事前対策ができます。もちろん、事後的に売上マイナス等のデータを本社で内部監査等により毎月チェックする事後的なチェックも被害額の拡大を防ぎ、不正実行者を早期に発見するために有効な手続きです。
本社におけるキックバック等の不正防止のためには、当該業務への知識・経験を有する複数の者で発注・承認を行う適切な内部けん制体制を構築することも重要ですが、一番有効な手段は定期的なジョブローテーションであると考えます。「当該業務は現在の担当者しかできないとの理由で長く実質的に一人で業務を行っていた者が不正を行っていた」というケースもよく見られます。
また、最近では内部・外部通報制度で発覚する不正も多くあるため、通報制度を導入していない企業は早期の導入が有益と考えます。
減損の兆候を操作するような不正な財務報告は、経営者や経営者に近い役職者が指示することも多く、内部統制では防ぎきれないこともあります。よって、経営者クラスのコンプライアンス意識の向上や、経営者を適切に監視できるガバナンス体制を構築することが大事であると考えます。

 

Ⅲ おわりに

外食産業にも決済等の場面などデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せており、テクノロジー活用により不正が防げることも多くなってくると考えますが、最終的な判断や重要な作業ではヒトに依存する場面も残るはずです。
本稿が外食産業の不正対策の一助になること、そして不正が外食産業から出ないことを祈念して筆を置きたいと思います。

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情報センサー
2020年12月号

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