情報センサー

ディスカッション・ペーパー「共通支配下の企業結合」の公表


情報センサー2021年4月号 IFRS実務講座


EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 大島 隼

当法人入所後、外資系を含む証券会社の会計監査及び内部統制監査に従事。2017年より2年間EY Canadaに出向し、現地企業の会計監査及び内部統制監査に従事。19年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2020年11月に、共通支配下の企業結合(以下、BCUCC)に関するリサーチ・プロジェクトの一環として、ディスカッション・ペーパー「共通支配下の企業結合」(以下、本DP)を公表しました。

本稿では、本DPで示されたIASBの予備的見解について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 概要

共通支配下の企業結合(以下、BCUCC)とは、すべての結合企業又は事業が、結合の前後で同一の当事者により最終的に支配されている企業結合取引をいいます。BCUCCは、企業結合に取得法の適用を求めるIFRS第3号「企業結合」の対象範囲外とされており、適用すべきIFRS基準が存在しないことから、実務にばらつきが生じていました。本DPは、BCUCCの影響を理解する上で財務諸表が提供する情報に依拠せざるを得ない支配当事者以外の利害関係者の情報ニーズに焦点を当て、<図1>における移転先企業であるB社が適用すべき会計処理に関するIASBの予備的見解を示しています。

1. 取得法と簿価法の選択

IASBは、BCUCCとして考え得るすべてのシナリオに適用すべき単一の会計処理は存在しないと考えています。従って、BCUCCの移転先企業の会計処理を検討する際に、以下の点を考慮すべきとしています。

  • BCUCCがIFRS第3号の対象となる企業結合と類似しているか
  • 移転先企業(B社)の財務諸表利用者にとって最も有用な情報は何か
  • 取得法を適用するコストとベネフィットの比較

これらに基づきIASBは、BCUCCが移転先企業の非支配株主に影響を与える場合には原則として取得法を適用することとし、そうでない場合には簿価法を適用することを提案しています。本測定方法の選択をより具体的に判断フローとして示したのが<図2>です。

<図2>の通り、移転先企業の株式が公開市場で取引されている場合には、取得法の適用を要求することが提案されています。移転先企業が上場企業である場合、通常は前述のベネフィットがコストを上回ると考えられるためです。

また、IASBは、移転先企業が非公開企業である場合に取得法を適用するベネフィットがコストを必ずしも正当化しない状況が存在することに留意し、移転先企業が非公開企業である場合について、二つの具体的な指針を提案しています。一つ目は、移転先企業の非支配株主のすべてが企業の関連当事者である場合、簿価法の適用を要求することです。二つ目は、移転先企業が簿価法を適用することを非支配株主に通知し、非支配株主がそれに反対しない場合、簿価法の適用を認めるというものです。

2. 取得法の適用

本DPでは、取得法を適用するBCUCCはIFRS第3号の対象となる企業結合に類似するものであることから、原則としてIFRS第3号の規定通りに取得法の会計処理を行うこととしています。しかし、BCUCCでは、支払対価が交渉の結果としてではなく支配当事者の意向により決定される場合があるなど、支払対価が独立企業間取引価格とは異なる可能性があることを考慮し、一部IFRS第3号と異なる処理を提案しています。

本DPの提案によれば、支払対価が被移転企業の識別可能資産及び負債の公正価値を超える場合には、IFRS第3号の規定通りの会計処理を行う、すなわち、資本の分配に相当する部分をのれんと別個に識別する必要はないとしています。一方で、支払対価が識別可能資産及び負債の公正価値を下回る場合、IFRS第3号に従えば、当該超過部分は割安購入益として純損益に認識することになります。しかし、本DPでは、当該超過部分を純損益で認識せず、資本の拠出として資本の変動を通じて認識する会計処理を提案しています。

3. 簿価法の適用

前述の通り、IASBは、非支配株主に影響を与えないBCUCCには簿価法を適用すべきであると考えています。簿価法を適用する場合、支払対価と引受けた資産及び負債との差額は資本の増減として認識し、のれんは認識しません。

また、簿価法を適用するにあたっての実務のばらつきを軽減するため、IASBは以下の提案を本DPに含めています。これらの提案も、前述の通り、移転先企業の財務諸表利用者にとって最も有用な情報は何か、及びコスト・ベネフィットの観点に基づいたものです。

  • 受領した資産・引受けた負債の測定には、支配当事者ではなく被移転企業の簿価を使用する
  •  現金以外の支払対価のうち、移転先企業の保有資産による場合には結合日の移転先企業の簿価、負債の発生・引受けによる場合には結合日におけるIFRS基準に基づく負債の認識額により測定する
  •  取引費用は、原則として発生時に費用処理する
  •  結合日から受領した資産・引受けた負債の認識を開始する(結合前に遡って財務諸表に含めることはしない)

4. 開示

(1) 取得法の場合

取得法の場合、IFRS第3号の開示規定を適用することを提案しています。これには、本誌20年6月号、7月号で紹介したDP「企業結合―開示、のれん及び減損」に関連するプロジェクトによる将来的な開示要求の変更も含まれます。さらに、BCUCCには関連当事者が関与するため、IAS第24号「関連当事者についての開示」の開示要求や、その適用に役立つガイダンスも提供すべきであるとしています。

(2) 簿価法の場合

簿価法の場合、IFRS第3号の開示規定のすべてを要求するのは適切でないことから、その一部のみを要求するものとし、また結合前の情報の開示は要求しないことが提案されています。一方で、支払対価と受領した資産・引受けた負債の簿価の差額について、その金額と認識した資本の構成要素を開示することが提案されています。

Ⅲ おわりに

本DPに対するコメント期限は、21年9月1日です。本DPの取り扱う共通支配下の企業結合は、いわゆる親子上場が比較的多いとされる日本市場における影響が懸念されることから、積極的なコメントの提出が期待されます。

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