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電子帳簿保存制度の見直し(令和3年度税制改正大綱)

2021年4月30日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2021年5月号 Tax update

EY税理士法人 公認会計士 髙田昂志

公認会計士試験合格後、新日本監査法人(現、EY新日本有限責任監査法人)に入所。現在、EY税理士法人の電子帳簿保存法担当マネージャーとして、法人内の全てのペーパーレスプロジェクトを統括。大手自動車メーカー等の国税関係帳簿の電子保存対応、大手製薬メーカー等のスキャナ保存導入プロジェクト対応、大手自動車金融会社等の電子取引プロジェクトを担当している。

Ⅰ はじめに

令和3年度税制改正大綱では、コロナ禍でのリモートワーク等の促進、生産性向上の観点から電子帳簿保存法についての大幅な改正が行われ、事前承認が不要になるなど要件が緩和される一方で、不正があった場合の重加算税が加重されることや、電子取引について紙に出力しての保存が認められなくなるなどの改正が行われる予定です。本稿では、令和3年度税制改正大綱における電子帳簿保存制度の見直しの趣旨を中心に解説します。

Ⅱ 国税関係帳簿書類の電子保存

国税関係帳簿書類の電子保存については、現行の電子帳簿保存法の中でも最も多くの法人が申請を行っていたものですが、これについては「一般電子帳簿」と「優良な電子帳簿」に区分されます(<表1>参照)。

表1 国税関係帳簿書類に係る主な改正内容

現行の電子帳簿保存法で国税関係帳簿書類の電子保存申請を行っていない法人については、本来は全ての国税関係帳簿書類について紙に印刷して保存しなければならないところ、実情として多くの法人では、システム上にデータを保存し、必要に応じて印刷を行うといった対応を行っているものと考えられます。これは本来的には電子帳簿保存法の要件違反となるため税務は指摘を受ける可能性がありますが、今回の税制改正大綱によって、このような場合でも「一般電子帳簿」の要件を満たすことが可能になるケースがほとんどであると考えられます。そのためこのような法人については、令和4年度以降に国税関係帳簿書類をデータのまま保存することが可能になると考えられます。

一般電子帳簿に係る改正については、上記のような帳簿保存の実情を踏まえた改正と考えられます。

次に優良な電子帳簿については、現行の電子帳簿保存の要件とほとんど変わりませんが、そのような信頼性の高い電子帳簿保存を行っている法人についてはより明確なインセンティブを与えることで、記帳水準の向上を図ることなどを目的として、優良な電子帳簿に関連して過少申告があった場合には、過少申告加算税が5%軽減されることになりました。

そのため、現行の電子帳簿保存法における国税関係帳簿保存の申請を行っている法人及び現在申請を行っていない法人であっても優良な電子帳簿保存に係る要件を満たす場合には、優良な電子帳簿保存の届出を出すことが望ましいと考えられます。

Ⅲ スキャナ保存

多くの企業にとってハードルの高かったスキャナ保存については、タイムスタンプの付与期限が緩和されることや承認申請が廃止されるなどの緩和措置が講じられています(<表2>参照)。

表2 スキャナ保存に係る主な改正内容

スキャナ保存についてはここ5年ほどの間に要件緩和が進み、2020年では3,000を超える法人が適用しています。しかし、日本全体における法人数からすると依然としてごくわずかです。

これはスキャナ保存に関してはタイムスタンプなどのシステム的な要件が厳しいことに加え、中小企業においては承認制度への対応の難しさや十分な職務分掌が機能しないことから定期検査などの適正事務処理要件を満たすことが難しいなどの要因があったことが考えられます。

今回の改正では、このような状況を改善し、中小企業も含め広くスキャナ保存が普及するように、電磁的記録について訂正削除を行った事実及び内容を確認できるシステムを使用することでタイムスタンプの付与に代えることが可能になることのほか、承認制度の廃止、事後的な定期検査などの適正事務処理要件が廃止されることとなりました。これらによって現行のスキャナ保存制度の高いハードルとなっていた点が緩和され、さらなるペーパーレス化の促進が期待されます。

Ⅳ 電子取引

電子取引については、税務職員の質問検査権に基づくデータのダウンロード要請に応じる場合の検索要件の一部緩和などが行われる一方で、電子取引データの書面出力保存が廃止されるといった改正が行われます(<表3>参照)。

表3 電子取引に係る主な改正内容

電子取引については、以前から承認申請はありませんでしたが、一般的にスキャナ保存との区別がつきにくく管理上も複雑となるため、電子データで受領した請求書等については、紙面に印刷して紙で受領した請求書等と同様に紙面で保存しているケースが多いものと考えられます。

今回の改正では、さらなる電子化推進の観点から電子取引に関して電子データで保存することとされたと考えられます。この結果、電子データについて紙面に印刷して行う保存が法人税法上は認められなくなるため、多くの企業が対応を迫られています。

すなわち、従来は電子データで受領した請求書等は紙面に印刷して保存するだけで税務上の要件を満たしていましたが、改正後は電子データで受領した請求書等は電子データで保存の上、データの保全に係る保存上の措置や検索機能といった要件を満たす必要があります。

これらの要件を満たすためには、データの保全措置や取引データについて日付・金額・取引先での検索ができる必要がありますので、単にPDFデータをフォルダに格納するだけでは要件を満たせず、これらの要件を満たすデータベースやシステム等の導入を検討する必要があると考えられます。

なお、上記の取扱いは申告所得税及び法人税が対象とされていることから、消費税については、電子取引データを印刷して保存したとしても仕入税額控除は認められますが、法人税等の取扱いを含めて対応を検討することが望ましいと考えられます。

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