貴社の当局対応、税理士による対応だけで大丈夫ですか? -税務において弁護士ができること-

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2021年8月2日 PDF
カテゴリー EY Law

情報センサー2021年8月・9月合併号 Innovative Business & Law

EY弁護士法人 弁護士 公認会計士 竹原昌利

現EY新日本有限責任監査法人での勤務を経て、2014年弁護士登録。17年〜19年東京国税局調査第一部調査審理課にて国際調査審理官として勤務し、現在に至る。主な専門は、税務調査対応、税務争訟、会計・税務と関連する企業法務分野、会社関係訴訟。

Ⅰ はじめに

税務を専門分野とする弁護士のことをタックスロイヤーといいます。欧米では比較的メジャーな存在ですが、日本での人数は必ずしも多いとはいえません。その理由は、日本においては、士業の分業化により、税務についてはもっぱら税理士の業務とされてきたこと、税務争訟(再調査の請求、審査請求および税務訴訟のことを指します。また、再調査の請求と審査請求の二つをあわせて「不服申立て」といいます)を行ってまで当局と対立する風潮が日本企業になく、税務実務における弁護士の役割が十分に意識されてこなかったことにあるかと思います。税法も法である以上、本来弁護士も扱うことができる領域と考えられるものの、「弁護士が現実に税理士業務を行うについては、税理士法の手続規定に従い,同法18条の税理士の登録を受けるか同法51条1項による通知を要する」(太字部分筆者)とした裁判例もあり(大阪高判平成24年3月8日)、多くの弁護士は、税法は法律ではあっても、弁護士が気楽には扱えない特殊な領域という印象を持っているように思います。

そのような中で、タックスロイヤーは、弁護士的にあまりメジャーではない領域を専門分野とする特殊な弁護士です。しかし、筆者を含め、少ないながらそのような弁護士が存在するのは、そこに独自の役割があるからだと思っています。とりわけ、新型コロナウイルス感染症の影響や当局のデジタル化を背景とした課税強化が懸念される昨今、タックスロイヤーが果たせる役割は大きくなってきていると感じています。そこで、本稿では、タックスロイヤーが、納税者の皆さまにどのような貢献ができるかを紹介します。<図1>は概要図になります。

図1 DXの失敗要因

Ⅱ 各段階におけるタックスロイヤーの活動場面

1. トランザクションの計画と実行段階

(1)契約書作成の場面

新たな事業活動を始めるに際して、まずは契約書を作成することになります。契約書の作成は、税理士ではなく、弁護士が法律事務として行う業務になりますが、実務的には契約書の税務面への配慮が不十分と感じることが多々あります。この不十分性は、結果的に税務リスクを増加させます。

例えば、単純な役務提供契約でも、決算期をまたぐ場合には、今期の発生費用の損金算入時期の検討が必要となるケースもあると思います。そのような場合に、役務提供による成果物が契約の目的であるかのような書き方をしてしまうと、税務調査において今期の発生費用を今期の損金に算入することが否認される可能性が生じます。金額が大きい契約や、契約単位の金額は少額でも、ひな型として反復して使用されることが予定される契約書については、税務リスクの分析が重要となってきます。このような作業は、タックスロイヤーが他の法律家よりも長(た)けている部分になります。

(2)税法適用の前提としての法的概念の検討

税法は、私法の解釈の上に成り立っています。すなわち、税法の適用にあたっては、税法上の特別の規定がない限り、私法上の法律概念が借用されます。税理士は税法の条文を適用して税務上の検討を行うわけですが、当該税法の条文で使われている概念の意味を、私法をふまえて明確にしておく必要があるのです。例えば、タックスヘイブン対策税制の検討にあたり、合算対象となる外国「法人」を洗い出す際には、そもそも海外の法律によって組成された組織体が、本邦私法上の「法人」に該当するかをまず判断する必要があります。同様に、本邦税法において、組合は法人税の納税義務を負わず、その所得は構成員に直接帰属するものとされていますが、その規定の適用可否を考えるにあたっては、当該組織体が本当に民法上の「組合」なのかを確認しておく必要があります。

このようなタイプの問題について、タックスロイヤーは税務上の理解に基づき、税理士が税法上の当てはめをしやすい形で、検討結果をまとめることができます。したがって、税務を専門分野としない弁護士よりも税理士と協働しやすく、よりよい税務上のアウトプットの作成に寄与できるという強みをもっています。

(3)組織再編の場面

組織再編においては、事業面、財務面、法務面の検討のほかに、税務面の検討もなされることが通常でしょう。この点、組織再編スキームの税務面からの検討自体は、実務上は税理士あるいはFA等のアドバイザーによってなされることが多いように思います。よって、この場面での法律家としての関与は、まずもって組織再編の法的手続やイシューの検討、関係契約書の整備ということになり、税務面での関与は限定的なように思われます。しかし、以下のようにスキームの策定段階から、弁護士が関与した方がよい場合もあります。

例えば、クロスボーダーの組織再編の場合には、日本国内での税務上の取り扱いを分析するにあたっては、海外で予定されている組織再編行為が、日本の税法で規定されている組織再編行為(合併や会社分割等)と同等かを確認する必要があります。そして、そのためには、日本の税法が定義を参照している日本の会社法上の組織再編行為と当該海外で予定されている組織再編行為を比較することが必要となります。このような比較は、私法の解釈を普段から取り扱っている弁護士の得意とするところになります。

さらに、近時、組織再編行為において、当局が行為計算否認規定を用いて、納税者が行った法律行為の税法上の効果を否定するケースが増えています(近時の裁判例としてはTPR事件(東京高判令元年12月11日)、同族会社に係る行為計算否認規定を用いたものとしてユニバーサルミュージック事件(東京高判令2年6月24日)が著名です)。このようなケースにおいて、組織再編行為実行前に弁護士からの意見書を取得する納税者も増えてきていますが、このような業務は、規範の理解、事案の分析と事実の評価をベースとすることから、まさにタックスロイヤーの知見が活用できる領域です。筆者個人としては、およそすべての案件について意見書が必須とまでは考えていませんが、最低限規範に照らした検討を行い、その証跡を残す対応は今後重要になると考えています。このような意見書作成も含めた事前検討において、タックスロイヤーは税務判例に通じた弁護士として、有用なアドバイスを提供できるものと考えています。

2. 税務調査段階

(1)法的側面からの調査対応

税務調査が入った場合に、当局に前面で対応するのは税理士が一般的です。税理士は、普段から納税者と近い距離におり、納税者の内情にも詳しいため、窓口として当局とやりとりするのに最適な立場です。一方で、重要性をもつ税務処理について当局との見解の相違が顕在化した場合には、議論のサポート役として法律家を巻き込むことが有用と考えています。当局も紛争が見込まれる段階になれば課税要件(納税義務ないし租税債務が成立するために必要な要件)を意識した主張を、法律を主管する部門(審理セクション)と協議の上で主張してくることが通常です。この主張は、法律論に立脚した、争訟を見据えた主張です。このフェーズは、要件事実論や事実認定のノウハウ、裁判例の知識をもったタックスロイヤーが活躍できる局面になります。しかし、この場合でも、弁護士だけに当局対応が委ねられるわけではありません。税理士が通常の税務のプラクティスや、他社との比較などの税務実務の観点から反論するのとあわせて、タックスロイヤーが法律論を用いて反論することで、納税者の主張・反論に厚みをもたせることができ、更正処分を当局に思いとどまらせるような議論が可能となるように思います。

(2)証拠関係のコントロール

税務調査段階で意識すべきこととして、証拠関係のコントロールが挙げられます。当局から要求される資料について、その趣旨をくみ取り、どの資料を提出するか、その提出がどれだけ納税者の不利に働くかを検討する必要があります。必要に応じて、補足説明や調査官の目的を先取りした反論資料を合わせて提出することが必要な場面も出てきます。また、調査官は質問応答記録書を作成し、供述証拠として使用する場合がありますが、全体の文脈を無視して、言葉の端々をとらえて当局に有利に解釈しようとする調査官もいないわけではありません。事後的な争訟で、そのような当局の主張を覆すことも可能ですが(例えば、事実歪曲(わいきょく)の故意が否定された近時の裁決として国税不服審判所裁決令元7月2日)、事前に不利に解釈されかねない言質をとられないようにしておくことも重要です。特に寄附金課税や、前述の行為計算否認規定、あるいは重加算税における仮装隠蔽(いんぺい)の故意など、納税者の主観の立証が重要となる課税要件については、質問応答記録書の記載内容が重要になってきますので、事前の理解と準備が必要です。

実務的には、税務調査の初期から、税理士とともに弁護士が同席することはまれなように思います。紛争の蓋然(がいぜん)性がそれなりに高まった状態でないと弁護士の出番がないというのが実態ではないでしょうか。しかし、税務調査の最終局面で、弁護士がサポートに入っても、すでに納税者に争訟上不利となる資料が当局に提出されており、リカバリーが困難という場合もあります。税務調査の当初からというのは難しくても、意見の相違が顕在化した早期から、金額的インパクトを考慮の上でタックスロイヤーを介在させることが、争訟まで見据えた証拠のコントロールの観点から有用と考えます。

(3)調査の適法性の監視

当局の調査の適法性を確認するのもタックスロイヤーの重要な職務です。受忍限度を超えるような調査対応を納税者に課していないか、事前通知等は国税通則法に従って適切になされているか、再調査の規定には抵触しないかなどをチェックし、逸脱があれば当局に指摘したり、後の税務争訟に備えて証拠化したりしておきます。

上記対応を問題なくやっている税理士も多いですが、特に法理論と判例に基づいた証拠化という点では、業務として弁護士に親和性があると考えています。また現場での調査手法の適法性に対する反論は、主題が適法性だけに、弁護士が行った方がインパクトは大きいように思います。

3. 争訟段階

(1)更正処分への対応

税務調査において、当局と議論したにもかかわらず、更正処分をされてしまった場合、当該処分を受容するか、不服申立てを行うかといった判断をする必要があります。その判断にあたっては、納税者としての納得度や、将来のビジネスに与える影響、プレスリリースされた場合の社会的影響などを総合考慮するわけですが、その中の重要なファクターとして、当然に勝敗見込が含まれます。タックスロイヤーはその勝敗見込の検討を高い精度で行うことが可能です。具体的には、問題となっている税法規定の要件の意義や趣旨、類似する裁決・裁判例の判断やその射程の分析、事実認定の妥当性の検証等を通じて、問題となっている個別事案の性質に応じた検討を行います。その際には、前述の証拠のコントロールのところでも述べた、どのような資料を当局に提出し、どの程度まで当局の証拠収集が行われているか(当局がどの程度課税要件事実を立証できているか)という情報も重要になってきます。

あくまで筆者個人の方針ですが、上記分析の結果、勝てる見込みが著しく低い場合は、納税者からのご要望があっても、争訟に持ち込むことはお勧めしていません。国家全体の利益に資する適正課税という点からは、当局の人的リソースをいたずらに割くことには謙抑的であるべきですし、今後の当局との関係性といったソフト面の影響も必ずしも無視できないと考えています。株主への説明責任などの点から争訟に入る選択を強く望まれる納税者もおられますが、争訟に要する費用と社内リソースの消費がかえって株主価値を毀損(きそん)することにならないかという点も重要であり、そのような観点から納税者へアドバイスすることも、タックスロイヤーの社会的役割の一つだと考えています。

(2)方法選択

処分を争うことにした場合、争う方法の選択を検討する必要があります。現行の不服申立制度は、最初に再調査の請求を行うか、審査請求を行うかを納税者が選択できるようになっています。再調査の請求は処分を行った行政庁自身に処分内容の見直しを求めるもので、審査請求は行政庁内の第三者的機関である国税不服審判所に、処分の見直しを求めるものです。再調査における決定に不服がある場合は、さらに審査請求に進めるという制度になっています。そして、税務訴訟で裁判所の判断を得るには、審査請求を経ることが必要です。したがって、処分を争いたい納税者は、審査請求の前に再調査の請求を行うかどうか、また不服申立手続きで請求が認容されなかった場合、税務訴訟まで貫徹して争うかどうかの意思決定をすることが必要となります。

前記の意思決定を行うには、各手続きの特徴や傾向を理解しておく必要があります。例えば、再調査の請求は、処分を行った行政庁自身が判断権者であることから、明らかな計算の誤りや事実認定の誤認など、極端な場合に限ってその請求が認められるという傾向があります。したがって、それ以外の場合で再調査の請求を行うのは、更正処分の詳細についての情報を取得したい場合など、限定的なケースかと思います。

審査請求と税務訴訟について、<表1>において、納税者の主張が認められた割合を3年分記載しています。どちらも振れ幅はあるものの、約10%程度の事案で、納税者の主張が認められています。このように、割合的には、審査請求と訴訟に有意な差はありませんが、納税者の主張が認められる事案の特色としては、大きな差があります。具体的には、審査請求の場合、事実認定がポイントとなる事案で、処分が取り消されることが多いです。一方で、不服審判所も行政機関ですから、過去の税務当局の取り扱いや通達、法令解釈に拘束される傾向があります。そのような場合に、審判所で請求が棄却されたものが、税務訴訟の土台に乗り、裁判所の法令解釈によって納税者の主張が認められる場合があります(もっとも、税務訴訟で事実認定が争点になる場合もありますし、実際の事案では、争点が複合的であることも少なくありません)。このように考えると、証拠から導かれる事実認定に争いがあるタイプの事案については、審判でしっかり争う実益があると思われる反面、法令解釈が争点になっているような事案については、早期に税務訴訟に移行した方が、労力と経済面からは望ましいかもしれません(審査請求の開始から3カ月を経れば税務訴訟の提起が可能になります)。実際の事案では、納税者の不満の程度や、主張の具体的内容、争訟対応における戦略等を総合的に判断し、適切な手続きを決めていくことになります。その際、前述の勝敗見込の予測同様、タックスロイヤーが有意な視点を提供することが可能です。

図1 DXの失敗要因

(3)審判請求・訴訟の遂行

審査請求の段階においては税理士も代理人となることが可能です。しかし、単純に事実の有無が問題となっているような事案はさておき、事実の評価や、課税要件への該当性が争点となっているような事案に関しては、その後の税務訴訟まで見据えた場合、タックスロイヤーも関与させた方が、一貫した対応が期待できるように思います。

また税務訴訟において、代理人となれるのは弁護士のみです。この局面になると、タックスロイヤーの存在が不可欠になるわけですが、一方で税務実務家としての税理士の視点が不要になるわけではなりません。主張書面作成において、税理士と見解をすりあわせることは税務調査対応における場合と同様に重要です。専門家を期日に出頭させ、陳述の補足をさせる補佐人制度も存在しますので、このような制度を積極的に利用し、税理士と協働することで、納税者の利益をよりよく防御できるものと考えています。

Ⅲ おわりに

以上のように、税務実務の各段階において、タックスロイヤーは独自の役割を果たします。今後、コロナ禍に配慮した昨事務年度までの当局の姿勢に揺れ戻しが生じ、課税強化がなされるであろうことは想像に難くありません。今まで以上に、不必要な課税を受けないようにするための事前の防御や、更正後の適切な事後対応が重要になってくると考えられます。EY弁護士法人とEY税理士法人には、それぞれ税務を専門分野とするタックスロイヤーが所属していますので、そのような防御の一環と税務リスクの低減の点から、タックスロイヤーを税理士とともに積極的に起用いただければと思います。

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