監査役と財務・会計に相当の程度の知見

監査役と財務・会計に相当の程度の知見

2021年10月1日 PDF
カテゴリー 特別寄稿

情報センサー2021年10月号 特別寄稿

獨協大学 法学部教授 高橋 均

一橋大学博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、日本製鉄(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。法的諸課題に対して、法理論と実務面の双方からのアプローチを実践している。近著として『グループ会社リスク管理の法務(第3版)』中央経済社(2018年)、『実務の視点から考える会社法(第2版)』中央経済社(2020年)、『監査役監査の実務と対応(第7版)』同文舘出版(2021年)。

Ⅰ はじめに

監査役監査、会計監査人監査、内部監査部門監査をまとめて三様監査と言います。三様監査の中で、監査役監査と会計監査人監査は法定監査であり、内部監査部門による監査は任意監査と区分されています。また、同じ法定監査であっても、会計監査人は公認会計士又は監査法人(5名以上の公認会計士を社員として設立された法人)でなければならないと会社法で規定しています(会社法337条1項)。公認会計士は、国家資格の一つである公認会計士試験に合格していなければ就任できないことから、会計の職業的専門家と言われる所以です。一方において、監査役は特段、専門的な資格を有することを就任要件とはしていません。監査役の場合は、経理・法務・総務等のコーポレート部門から、営業・購買・技術等に至るまで、社内のさまざまな部署の出身者が就任しています。社内出身監査役の場合には、どの部門の出身であっても、業務監査上、それまでの職歴を活用できます。例えば、営業出身の監査役の場合は、談合による独禁法違反については、どのあたりにリスクが潜んでいるか肌感覚で分かるケースも多いと考えられます。複数の監査役が就任していれば、職歴による専門性をお互いが補いながら相互の意思疎通を図ることによって、監査役会として法定監査義務を果たすこともできます。

他方で、公開会社の場合は、監査役・監査等委員・監査委員(以下、まとめて「監査役」)が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実を事業報告に記載しなければならないとの規定が存在します(会社法施行規則121条9号)。あくまで、財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているときであって、財務及び会計に関する相当程度の知見を有する者であることを法的に監査役に義務付けているわけではありません。しかし、あえて財務・会計の知見者の開示を求めているのには、それ相当の理由があるはずです。

そこで、本稿では、監査役と財務・会計の知見者との関係とその意義を確認しつつ、現状と課題を踏まえて今後の在り方について検討することにします。

Ⅱ 事業報告開示と記載状況

1. 事業報告の開示の意義

事業報告は会社の重要な事項について、会社から株主に対して株主総会参考書類として通知・開示され、株主にとって株主総会前の会社からの情報提供の一つとして重要な意味を持っています。例えば株主から見れば、計算書類や会計帳簿類を理解したり会計監査人の監査の相当性を判断することができる財務や会計にある程度精通した監査役が望ましいと考えます。したがって、株主への情報提供の実質性という観点から見ても、監査役が財務・会計の知見者であることが事業報告に記載されることは、意義があります。また、単に株主への情報提供にとどまらず、事業報告への開示規定は、会社に一定の規律を求める側面もあります。立案過程において、本来は法定化を目指す合理的な理由が認められるものの、一方で反対意見も強く出された場合に、とりあえず事業報告での記載を通じて方向性を示しつつ、実務の定着状況を確認する方法が採用されることが多々あります※1。公開会社の事業報告において、財務・会計の知見者の記載が定められたことは、監査役は、財務・会計の知見者の就任が望ましいとの会社へのメッセージと解せられます。

2. 事業報告の記載状況

それでは、実務実態として、財務・会計の知見者についての事業報告での記載状況はどのようになっているのでしょうか。日本監査役協会のアンケート※2から見ると、以下の状況が分かります(監査役設置会社かつ公開会社の1,574社が母数)。

財務・会計の知見者を記載している会社は、1,424社(90.5%)と約9割の数字となっています。要するに、ほとんどの会社は、何らかの財務・会計に知見を有する監査役が就任していると公表していることになります。その内訳を確認してみますと、財務・会計の知見者である監査役数が3名以上の会社数は758社(48.2%)と最も多くなっています。もっとも、その属性は、非常勤社外監査役が2,275人(64.2%)と6割を超える割合となっているのに対して、常勤社内監査役は、781人(22.3%)です。すなわち、財務・会計の知見者である監査役は、非常勤社外監査役が主流となっていることがうかがわれます。

非常勤社外監査役の出身内訳は、公認会計士・税理士等が917人(40.3%)、弁護士533人(23.4%)、金融機関経験者289人(12.7%)と続きます。弁護士の割合が多いのは意外に思われるかもしれませんが、おそらくファイナンスを専門にしている弁護士がカウントされているものと推察されます。一方、常勤社内監査役の出身内訳は、財務・経理部門の役職員が455人(57.5%)と過半数を占めているのは当然として、その他が204人(25.8%)となっています。日本監査役協会でのアンケートでは、その他の内訳が明らかではありませんが、財務・経理部門の経験はないものの、経営企画や子会社管理の部門で実質的に財務や経理に相当する職歴がある監査役が一定数カウントされているものと思われます。なお、常勤社外監査役総数の385人中、176人(45.7%)が金融機関出身者であることは、財務・会計の知見者であることも期待されて、金融機関から監査役に一定数就任していることがうかがわれる結果となっています。

監査役協会のアンケートから判断する限り、9割もの会社が財務・会計に知見を有する監査役が就任していると公表していることを考えると※3、その実質性はともかくとして、会社が監査役の選任候補者を検討するにあたり、事業報告への記載を相当程度は意識しているものと推認されます。

3. 監査役に財務・会計の知見者の就任が望ましい理由

監査役に財務・会計の知見があることが望ましい理由として、大きく次の2点が考えられます。

第一は、会計監査人設置会社の場合、会計監査人との関係です。近時、三様監査の中で、相互に連携をはかる必要性が主張されています。この中で、監査役と会計監査人との連携を考えた場合、会計の職業的専門家である会計監査人と同じ土俵で議論できるためには、一定の財務・会計の知識は必要と考えられます。特に、上場会社では、KAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)に関して、監査役との協議が行われる際に、のれんの評価・収益認識・固定資産の減損・工事損失引当金・偶発債務等の概念や会計処理について一定の知見がないと、会計監査人と十分な議論が行われず、監査役としての適切な意見表明ができないかもしれません。その他、四半期決算関連の定期的な会計監査人との打ち合わせにおいても、そもそも会計用語の理解、企業会計基準の基本的なルールなどの知見がないと、会計監査人と対等に議論することは容易ではない可能性もあります。また、監査役は会計監査人の選・解任議案内容の決定権(会社法344条)や会計監査人の報酬同意権(同法399条1項・2項)を適切に行使する必要もあります※4。もちろん、監査役に就任してから、財務・会計について、研修会やセミナー、書籍等による知識の修得は大切ですが、一人でも、財務・会計に関する相当の知見を有する者が就任している方が、会計監査人との連携が表層的な関係となる懸念はなくなると思います。このような背景もあり、日本公認会計士協会は、監査役には財務・会計の知見者が選任される必要があると主張しています※5

第二は、会計監査人非設置会社において、監査役が会計監査を行う場合です。この場合は、文字通り監査役の職責として、業務監査と合わせて会計監査も自ら行うことになります。会計監査とは、会社の会計が一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従っていること(会社法431条)、及び執行部門の日々の会計処理の適切性から期末における適正な計算書類の作成まで監査することです。この場合、監査役が会計帳簿を直接監査することが求められているわけではなく、経理・財務部門からヒアリングを行ったり、公認会計士や税理士等の有資格者に助言を求めたり、必要に応じて一部の会計監査を依頼することも問題ありません※6

しかし、全てをヒアリングや有資格者に依拠するのではなく、必要最低限は、自ら会計監査をすることは必要です※7。このためには、貸借対照表をはじめとした計算書類(財務諸表)の読み方や作成手順、会計処理や税務等についての一定の知見は必要となります。予め、計算書類作成や会計処理に携わった経験があれば、それほど苦労することはなく対応が可能と思われます。

ちなみに、日本監査役協会は日本公認会計士協会と異なり、監査役のうち、少なくとも一人は、財務・会計の知見者が望ましいとしてトーンを弱めています※8。監査役に財務・会計の知見者であることを法的に義務付けると、監査役の就任が一人のみの場合には、必然的にその監査役は財務・会計の知見者に限定されると考えているからと思われます。会計監査限定監査役(会社法389条1項)でない限り、監査役は、業務監査においては、財務・会計以外の知見も必要となるからです。

Ⅲ 財務・会計の知見者に関する課題と方向性

1. 財務・会計の知見の範囲と現実の対応

改めて、「財務及び会計に関する相当程度の知見を有する者」との条文を見てみますと、かなり漠然とした文言であることが分かります。広辞苑(第7版)によりますと、財務とは「財の管理・運営についての事務」、会計とは「①金銭・物品の出納の記録・計算・管理、②企業の財政状況と経営成績とを取引記録に基づいて明らかにし、その結果を報告する一連の手続」となっています。要するに、財務とは資金調達や予算や設備管理等を、会計とは金銭や物品の流れを把握して帳簿に記帳し、最終的には財務諸表等の法定書類を作成する概念のように考えられますが、明確な定義や基準があるわけではありません。

また、「相当程度の知見」の相当の程度や知見についても、形式要件と実質要件のどちらか明確ではありません。例えば20年前まで経理部に所属していたものの、その後は全く別の部門に異動した部長が監査役に就任したときは、財務・会計の知見者に該当するのか、若しくは、財務・経理部門の職歴はないものの、監査役に就任する直前に取締役管理部長として経理部門を管掌する立場にいた場合は該当するのか不明です。現役の公認会計士や税理士は、形式要件として該当することに異論はないと思いますが、若い時に公認会計士の資格を取得したものの、長らく公認会計士としての業務に携わっていなかった場合は、本人としては形式要件は満たしていても、実質要件として財務・会計の知見があるとされることに躊躇(ちゅうちょ)すると思われます。

他方、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では「監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである(下線、筆者)」(CGコード原則4-11)と記載しています。CGコードでは、適切な経験・能力と関連知識の必要性を示していることから、事業報告が記載を要請している文言と比較すれば、少しは明確化されているともいえます。CGコードによれば、相当以前に経理部門に在籍していた職歴のある総務部長が監査役に就任する際には、経理部門での経験を活かして財務・会計の能力を維持し、監査役として職務を遂行するのに十分な知見を有していれば財務・会計の知見者であるということになろうかと思います※9

しかし、CGコードの要件でも、経験の程度(経理部門の在籍期間や管理職経験の有無)や能力を図る指標があるわけではありません。この点については、明確な定義や基準がない以上、実務の現場ではどのように対処すべきか悩むことが多いと思います。特に、CGコードの場合は、事業報告の場合と異なり、Comply or Explain(実践さもなくば説明)となっていることから、拡大解釈して、監査役に財務・会計の知見者が就任しているとして、Explainしていないケースも、実態としては十分にあり得ると推認されます。また、事業報告においても、形式要件(公認会計士や税理士資格者、経理部門に入社以来在籍)のみならず、相当性があるという自己評価して記載しているケースが一定数あると思われるのは、日本監査役協会のアンケート結果からも言えると思いますし、現行法令の規定ぶりではやむを得ない状況と考えます。

2. 財務・会計の知見者であることの今後の論点

監査役の職務には、会計監査人との連携及び会計監査人の監査の相当性や会計監査人の報酬同意権の行使等があり、会計監査人非設置会社においては、自ら会計監査を実施しなければならないことから考えて、監査役に財務・会計の知見が必要であろうということについて、正面から反対する意見は多くはないと考えます。他方で、今後の論点として次の3点が考えられます。

第一には、複数名の監査役が就任している会社では、そのうち少なくとも一人は、財務・会計の知見者の選任を法定化することがあります。この場合、非常勤社外監査役が該当することでも問題はありません。会計監査人との会合において、通常は非常勤社外監査役も同席しますので、社外監査役であっても、十分にその職責を果たせるものと考えます。

第二では、常勤監査役に財務・会計の知見者が就任していない場合には、監査役スタッフに財務・経理部門出身者を配属すべきと思います。業種・業態によって特有の会計処理がありますので、その点に精通したスタッフを配属し、監査役をサポートすることは有意義と考えます。特に、監査役が一人の会社では、財務・会計の知見者である監査役の就任が困難な場合も想定されますので、この場合は、財務・経理出身のスタッフは必須であると考えます。専任が困難であれば、少なくとも財務・経理部門との兼任は考慮すべきです。CGコードに則って無理にComplyするよりは、財務・経理出身のスタッフを配属しているというExplainをしたほうがCGコードの本来の趣旨に則っていると思います。

第三は、現行の会社法施行規則で規定されている「財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているもの」の定義を明確化すべきです。例えば、現役の公認会計士・税理士又は簿記検定1級保持者、財務・経理部門在籍10年かつ管理職経験者、金融機関出身者かつ企業会計の実務経験者等が該当すると考えられます。定義そのものとして規定するか、あるいはガイドラインや基準として示すことは検討の余地があります。

Ⅳ おわりに

監査役の財務・会計の知見者の開示を拡大解釈し、本来期待される知見者ではなかったとしても、そのことが直ちに問題となるわけではありません。一方において、法令が要請している役割を適切に果たすことができる財務・会計の知見者の選任が会社ひいては株主の共同の利益に合致します。また、何より、企業の実務担当者(事業報告の開示をとりまとめる総務部門等の担当者)が対処に悩む状況に置かれていることは、健全な状況とも言えません。

M&Aをはじめとして組織再編行為(合併・分割等)の計画・実行や会計不祥事に遭遇する場合には、監査役としては、会社の会計処理等を自ら監査すること、又は財務・経理部門からのヒアリングや会計監査人との緊密な連携が重要となります。このためにも、財務・会計の知見者の開示をするにあたって、この点を社内外から評価される監査役が就任し、かつ自らがその自覚を持って職責を果たすことが株主や投資家からの期待に沿うことになります。

※1 例えば、平成26年会社法改正時の社外取締役の選任義務化について、法制審議会会社法制部会で強い反対意見が出されたことから、最終的には、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告に開示する形で落ち着いた(平成27年会社法施行規則124条2項)。その後、社外取締役の就任は上場会社において95%を超える実務実態を反映し、令和元年会社法において、公開会社等の一定の会社には、社外取締役の設置が法定化された(会社法327条の2)。

※2 (公社)日本監査役協会「役員等の構成の変化などに関する第21回インターネット・アンケート集計結果」月刊監査役722号別冊付録(2021年)43~45ページ

※3 指名委員会等設置会社では40社(100%)、監査等委員会設置会社では554社(94.2%)となっており、監査役設置会社より財務・会計の知見者であるとの記載の割合は多い。前掲※2指名委員会等設置会社版28ページ 同監査等委員会設置会社版43ページ

※4 例えば、神作教授は「監査役の資格に会計・財務に通じたものが含まれることを要件とすれば、監査役の報酬決定権もあると思われる」と主張している。法制審議会会社法制部会「第19回部会議事録」(平成24年4月18日開催)[神作裕之発言]46ページ

※5 第2回法制審議会会社法制部会(平成22年5月26日開催)に提出された「監査人の選任議案・報酬の決定権に関する論点等について」(参考資料8)2ページ。なお、日本公認会計士協会が行った監査事務所(監査人)へのアンケート(母数934社)では、上場会社の監査役の資質として、少なくとも1名は財務・会計の知見を有する者が選任される必要があるとの回答が807社(86.4%)あったとのことである。日本公認会計士協会「会計監査人の選任議案・報酬の決定への監査役等の関与に関する調査結果」(平成21年11月30日公表)27ページ

※6 監査役制度を長年研究された西山教授(九州大学名誉教授)は、「会計専門家である会計監査人の監査は、特段の事情がない限り、十分に信頼のおけるものであることから、監査役が重ねて同様の監査を行う必要はなく」と主張している。西山芳喜『監査役とは何か~日本型企業システムにおける役割』同文舘出版(2014年)247~248ページ

※7 会計監査人非設置会社の監査役のためのチェックリストの活用も考えられる。チェックリストの一例として、日本監査役協会「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル(改定版)」(令和元年11月14日)37~54ページがある。

※8 第3回法制審議会会社法制部会(平成22年6月23日開催)に提出された「監査役制度の実効性確保に関する日本監査役協会の考え~制度的担保の必要性」(参考資料12)4~5ページ。日本監査役協会の築舘会長(当時)も、同趣旨の発言を行っている。同部会「第3回部会議事録」[築舘勝利発言]33ページ

※9 米国でも、証券取引委員会規則において監査委員に少なくとも1人の財務専門家が就任(就任していないときにはその理由の開示)することになっているが、財務専門家とは、一般に認められた会計原則の理解と適用能力を有すること、財務諸表の作成・監査・分析・評価の経験を有するとともに、財務報告の内部統制や監査委員会の機能を理解しているものを指しているとのことである。弥永真生『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則[第3版]』商事法務(2021年)693ページ

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