コロナで変わる中央商業地区(CBD)

コロナで変わる中央商業地区(CBD)

2021年10月1日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2021年10月号 JBS

EY新日本有限責任監査法人 EYシドニー事務所 豪州勅許会計士 篠崎純也

2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポートしている。EYシドニー事務所 ディレクター。

Ⅰ はじめに

多くのオーストラリア人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック後もオフィスへの出勤日を減らしたいと考えています。これは、CBD(Central Business District)の将来にとって何を意味するのでしょうか。この大きな問題に、EYと業界団体の不動産評議会は、最新のレポート「Reimagining our economic powerhouses: How to turn CBDs into central experience districts」で答えようと試みました。

Ⅱ 変わりゆくCBD

CBDはオーストラリア経済にとって巨大エンジンです。シドニー、メルボルン、ブリスベン、パースの四大都心は、オーストラリアの経済活動の15%を生み出しており、単体の産業としては最大のものです。CBDは過去数十年間にわたり、オーストラリアの生産性、イノベーション、そして投資を促進するための中核的な役割を担ってきました。また、CBDは文化を観光に結び付け、旅行者を惹き付ける役割も担ってきました。
しかし、COVID-19の感染拡大でCBDは主役の座を奪われ、街の賑わいは郊外に移りました。デスクワーカーの分布が分かる不動産評議会のオフィス占有率データによると、メルボルンCBDの従業員のうちCOVID-19感染拡大前にオフィスで働いていたのは、全体の94%であったのに対し、今年の2月はわずか24%でした。シドニーのCBDでは全体の48%と、多少多いですが、COVID-19の世界的感染拡大前の94%には遠く及びません。

同時に、電子商取引の加速で消費者の購買行動が変わり、テクノロジーの進化は人々のバーチャルでの社会活動をさらに容易にしました。

Ⅲ ハイブリッドワークの時代に突入

リモート勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型ワークモデルが通常の勤務形態として一般化しつつあります。このモデルは、企業、オフィスのオーナー、そして重要なことに、CBDの在り方に影響を及ぼしています。

EYの調査によると、COVID-19終息後は、CBDの従業員の70%が柔軟な働き方をしたいと考えています。ハイブリッド型ワークモデルの理想は、平均的オフィス勤務日数が週3.3日で、出勤日としては木曜日が最も好まれるのに対し、月曜日と金曜日の人気は最も低くなっています。従業員はリモート勤務をフルタイムでずっと続けたいとは思っていませんが、より柔軟な勤務形態を望んでいます。

リモートで働くチームをどうコーディネートすべきでしょうか。各々離れて働く中、企業文化はどのように育むべきでしょうか。ソーシャルディスタンスを取りながら通勤の渋滞やオフィスビル内での移動といった問題にどう対処すべきでしょうか。そして、人々をCBDに引き寄せ、買い物をし、遊び、長く居てもらえるようにするにはどうすればよいのでしょうか。これらは、企業と自治体が今、取り組まなければならない大きな課題です。

オーストラリアの不動産業界は、スペースの見直しを行い、スマートビルディング・テクノロジーを採用し、人々が時間を過ごしたいと思うダイナミックな場を創造するための斬新な解決策への投資を行っています。しかし、私たちは個々のビルディングを超えた、より大きな視点からCBDを見ることも必要です。

Ⅳ CBDの再出発に向けた六つの案

EYの調査によると、オーストラリア人の82%は、CBDで働く人々、住人、そして旅行者のニーズに応え続けるためにCBDは進化しなければならないと考えています。しかし、どのように進化を進めていけばよいのでしょうか。

回答者は、CBDは単なる職場以上のものを提供する場であってほしいと述べています。こうした人々は、くつろぎ、ダイニング、ファッションや文化といった多様な体験の場をCBDに求めています。要は、CBDが人間としての基本的な欲求を満たしてくれる場であることを望んでいるのです。

「Thinker(シンカー)」26名の意見、CBD利用者600名からの回答、多数のフォーカスグループやラウンドテーブルミーティングからの知見を基に、EYと不動産評議会は、六つのテーマについて考え得る最良のアイデアを集め、以下の通りまとめました。

1. 中央体験地区の創出

オーストラリア人の62%は、COVID-19が落ち着いたら、CBDよりは自分が住んでいる地元を好むと考えています。そのためCBDに人々を呼び戻すためには、元気が出るような体験のほか、24時間営業を可能にし、制限的な税制度を撤廃し、留学生を歓迎する政策を組み合わせる必要があります。

2. 職場の見直し

大理石のロビーや街の展望では人々をオフィスに復帰させる十分な理由にはなりません。職場に関する意識は、都市部の輝く本社ビルから、キッチンテーブルや地元のカフェなど、どこでもよいという考え方に変わりました。ハイブリッド型ワークモデルのための健康的で生産的なスペースを作るのに必要なものは、新たなスキル、革新的なデザイン、顧客中心の考え方、そしてスマートテクノロジーです。

3. 品質の再定義

質の高い資産とは、建物の価値だけを意味するものではなくなりました。それは、衛生環境、ウェルビーイング、テクノロジーなど建物の価値を裏打ちするサステナビリティ評価によっても決まります。一等地の建物以外を保有するオーナーでも、こういった品質を高めることで、価値を再構成することができます。一方で、見直すべき建物もあるでしょう。

4. 緑化

回答者の86%が、草木に恵まれたオープンなスペースが人々をCBDに引き付けると述べています。公園以上の、健康的でサステイナブルな職場、観葉植物に取り囲まれた小道、スカイパーク、ガーデンオアシスのような屋上バーなどです。

5. 未来の交通機関へ加速

回答者の44%が頻繁で混まない公共交通機関を求めていることから、公共交通機関の改善で人々がCBDで過ごす時間が増えると期待されます。今後の活発な動きを促し、将来的な選択肢を広めるために道路スペースを優先的に確保することで、安全性を高め、健康的で活気のある人々の動きを促し、街並みを活性化できます。

6. オーストラリアブランドの促進

COVID-19への対処に比較的成功したことで、オーストラリアブランドを観光の目玉に据えたり、新たな知識ワーカーや資本を惹き付けたりすることが可能と思われます。留学生や技能移住者に国境を開放することで再び人口増加に拍車がかかれば、都心部における体験を一段階引き上げることができます。

Ⅴ おわりに

CBDを競争力があり、生産性が高く、活気に満ちた場所にする絶好の機会が訪れています。今こそ、政府、消費者、都市の街づくりや活動を担う人々、企業やビルのオーナー、小売店やレストランなどCBDに関わる全ての人が一丸となって取り組む必要があります。試行錯誤を繰り返しながら、ビジネスの場を体験の場に変えていく時が来たのです。

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2021年10月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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