2020年12月1日
メガトレンド

AIの役割が人間の能力を拡張に重点を置かれる現在、企業は何を目指すべきか

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

2020年12月1日

あらゆる場面ですぐさまAI(人工知能)がとって代わるという「AIブーム」が落ち着き「AIは人間の能力を拡張するもの」という理解が進んでいます。

5Gや量子コンピューターなど「人間拡張(Human Augmentation)」を実現するテクノロジーの開発が進み、産業革命と同じレベルの大きな革命が目前に迫っています。AIの基礎研究では米国のIT大手が突出している一方で、日本企業は何を目指すべきでしょうか。
 

AI(人工知能)ブームが巻き起こり「コンピューターが人間に置き換わる」という議論があった数年前を経てAIが人間に迫りつつあるその現在地とは

「AIに仕事が奪われる」と心配する人たちもいましたが、1つの仕事がロボットにすぐさま置き換わることはまだ「ありえない」、あるいは「まだまだ時間がかかる」段階です。そこでわれわれは「人間拡張」という考え方を提唱しています。コンピューター、AIが人間の能力を拡張するという意味です。

「人間拡張」を実現するためのキーテクノロジーは5つ。現在の4G(第四世代携帯電話)の百倍のスピードを持ち、遅延が大幅に少なくなる5G。現在の6分の1のコストで20倍の容量を持つ次世代電池。情報をいちいちクラウドに上げずデバイス上で処理してしまうエッジコンピューティング。高性能のセンサー。そして全ての情報を今よりはるかに速く処理する量子コンピューティングです。

われわれは、これらの技術が出そろった時、産業革命と同じレベルの新しい革命が起きると予測しており、これらの分野に投資していくべきだと考えています。産業革命では人間の歩く能力を拡張され、より速くより遠くへ移動できるようになりましたが、次の革命は、人間とテクノロジーを融合させることで、私たちの知能を拡張します。
 

AIの開発には米国のIT大手が巨額の投資を続けており、日本企業は大きく水を開けられている

AIの基礎研究では米国のIT大手にアドバンテージがあるでしょう。しかし、全てを「AIにやらせてみよう」というブームは去り、これからはAIをインダストリーの中にどう落とし込んでいくかという段階に入ります。日本企業にも大いにチャンスがあると考えています。

例えば、今は熟練工がその日の気温や湿度を元に判断している配合ノウハウをエッジコンピューターに落とし込めば、その日の天気に合わせて機械がその場で配合を調整するようになります。

工場やサプライチェーンから一つ一つデータを積み上げていく地道な作業で、日本人の得意な分野です。ボトムアップでノウハウをため込んでいくのは、日本企業の最も得意とするところです。現時点において、基礎研究の投資では米国にかなわないかもしれませんが、日本企業は基礎研究をビジネスに取り込むことでグローバルに付加価値を提供できると思います。
 

「人間拡張」が進む中で、コンピューターと人間の関わりはどう変わっていくのか

数字を照合する、書類をチェックするといった単純作業はAIに置き換わっていくでしょう。音声認識の正確性は100%にかなり近づいており、人間の言葉をほぼ確実に聞き取ります。コールセンターのAIは顧客の声のトーンで「この人は怒っている」と判断し、その電話をベテランのオペレーターに回したりしています。


量子コンピューティングが普及すれば、コンピューターは人間よりはるかに豊富なデータを元に人間より速く、賢明な判断を下すようになるかもしれません。シンギュラリティー(技術的特異点)が現実味をおびてきます。

ここまで来るとルーティンの仕事の多くはAIがこなすようになり、8時間の仕事がたとえば半分以下で終わることもあるでしょう。そこで浮上するのは「余った時間をどう使おうか」という問題です。

私はここでルネサンス、つまり「人間回帰」が起きると考えています。今までにない新しいことを考える、楽しいことや感動を生み出す。人間は人間にしかできないことに多くの時間を使えるようになるのです。最新のAIは楽曲を作ったり文章を書いたりもできますが、あくまで過去のデータに基づいたものであり、90点までは行きますが、100点あるいは110点の作品は作れません。
 

5Gのサービスが始まったことによりわれわれの生活はどう変わるか

5Gが普及すれば通信の遅延が大幅に減りますから、ロボットを使った遠隔手術などが今よりはるかにスムーズになります。データ量が実際に対面している時とほぼ同等になり、画質、音質が飛躍的に上がるのでより自然なコミュニケーションが可能になります。

本当に目の前にその人がいるような環境を作ることができるので、エンタテインメントではアーティストが目の前で演奏しているような臨場感が得られます。医療の診断や教育など、これまでリアルでの対面が前提になってきたサービスが、いつでもどこでも受けられるようになると思います。
 

企業は「人間拡張」をどう活用していくべきか

消費者向けのB to Cではさまざまな試みがなされていますが、B to Bはまだ十分に活用されていません。先ほど述べた熟練工のノウハウのような企業の中に蓄積されている知識をどうやってAIに落とし込んでいくかが課題です。

日本企業には全く新しいものを作ることができる可能性がありますが、規制に縛られて出遅れてしまう可能性があります。政府には規制緩和を進めもっと自由に挑戦できる環境を作ってほしいと思います。

サマリー

AIは人間の仕事を奪うのではなく、人間の能力を拡張する方向に進化しています。単純作業から解放された人間は、より創造的な仕事に時間を使うようになり、再び「ルネサンス(人間回帰)」が起きるでしょう。B to CではAIの活用が始まりましたが、B to Bでの活用かこれからです。企業内の知識をAIに落とし込んでいくのは地道な作業ですが、日本企業の得意とするところでもあります。それが実現すれば「全く新しいものづくり」が生まれる可能性もあります。

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執筆者 EY Japan

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