TradeWatch 2023年 Issue 3 EU:関税制度改革案 — 電子商取引への現代的アプローチ

TradeWatch 2023年 Issue 3 EU:関税制度改革案 — 電子商取引への現代的アプローチ


欧州委員会は2023年5月17日、EU関税同盟に関する長期計画を発表しました1。同委員会は、2028年までに全面的に改正された欧州連合関税法典(UCC)の完全導入を想定しています。今回の制度全般の見直しに加え、電子商取引に関する具体的な規則も提案されています2。

欧州委員会がパッケージ全体に含まれる措置をすべて実施することが可能かどうかは時間がたてば分かることですが、電子商取引に関する規則案を採用すれば、これらの貨物に関する付加価値税(VAT)と関税の規則および実務が大幅に整合することになります。また、望ましい導入時期は、パッケージ全体よりも早い、2028年からとなっています。

本稿では、提案されている電子商取引規則を説明および分類するために概要を簡潔に示すとともに、影響を受ける企業に推奨されるアクションをいくつか提案します。

「みなし供給者」

2021年、電子商取引に対処するため、EUのVAT指令に「みなし供給者」という新しい概念が導入されました。この概念は、オンラインマーケットプレイスやプラットフォームなどの電子インターフェースを対象としています。また、たとえ法的な契約が別途締結されていたとしても、VATの観点からプラットフォームをサプライチェーンに組み込むというフィクションを生み出します。

仕組みは以下の通りです。第三国の供給者がEU域内の個人顧客(B2C)に商品を販売する場合、VATの観点からは、供給者は商品をプラットフォームに供給し、プラットフォームは同じ商品を顧客に供給することになります。従って、VATを目的とした架空のサプライチェーンが構築されます。つまり、供給者とプラットフォーム間の最初の取引にはVATがかかりません。一方、プラットフォームは顧客との取引に係るVATを負担します。

欧州委員会は、VATの分野における2年間の経験を踏まえ、関税の分野にもこの概念を拡大することを提案しています。さらに、改正案は、VAT指令におけるフィクションの範囲を拡大するものでもあります。現在は、内在価値が150ユーロを超えない貨物にのみ適用されるからです。

現在、みなしフィクションが適用されるのは、商品の遠隔販売(第三国からEU域内の顧客への販売)と、EU域内に設立されていない課税対象者によるEU域内の商品の供給のみです。VATの将来に関する欧州委員会の提案、いわゆる「デジタル時代のVAT(VAT in the Digital Age : ViDA)」提案3では、とりわけ欧州委員会は特定のサービス、すなわち短期宿泊施設と旅客輸送の提供についても、みなしフィクションを提案しています。

「輸入者」の役割

「輸入者」という役割は、現在UCCには存在しません。欧州委員会の提案によると、輸入者とは、第三国からの商品をEUの関税地域に持ち込むことを決定する権限を有し、決定したすべての者と定義されます。

輸入者は適用される関税および税金を納付し、さまざまな手続き上および法律上の要件を確実に順守する責任を負うことになります。

みなし輸入者

さらに、欧州委員会は、関税の分野における「みなし輸入者」の役割の創設を提案しています。これは、VATの分野における電子商取引のみなし供給者に対応する概念です。

みなし輸入者は、VAT規則に基づいています。VATサプライチェーンのフィクションが適用される商品の遠隔販売に関与し、関係者が輸入ワンストップショップ(IOSS)を利用する場合、貿易事業者はみなし輸入者として定義されます。さらにIOSSを利用する場合、みなし輸入者またはその代理人が税関申告書を提出します。

現在、みなし輸入者がEUの関税地域内に設立されていない場合、間接代理人が必要です。VATの観点からも同様で、供給者がEU域内に拠点を持たない場合は、仲介業者が必要となります。

これらの提案は、電子商取引に関する関税とVATの規則を整合させることを目的としています。いずれの場合も、オンラインプラットフォームがチェーンの重要なアクターとなり、税金と関税に対する責任を負うことで、脱税を防止し、EU企業に公平な競争環境を提供します。欧州委員会は、これが電子商取引に対処するための現代的なアプローチであると考えています。

簡素化された関税制度

VATと関税に関してオンラインプラットフォームが主導権を握ることで、オンラインプラットフォームは大きな課題に直面する可能性があります。これらの課題に対処するため、欧州委員会は、遠隔販売に関する新たな簡素化された関税措置の導入を提案しています。

現在、150ユーロまでの遠隔販売は「ごくわずかな」価値の商品とみなされ、輸入関税は免除されています。欧州委員会の提案によると、この規定は廃止される予定です。欧州委員会に加え、他の複数の関係筋も同意しているように、この規定は市場に不均衡をもたらし、通関手続きや支払いを避けるために輸入品が過小評価されるなどの濫用につながっているとのことです。

そこで、遠隔販売のための5段階のバケット制度(bucket system)が提案されています。各バケットには0%、5%、8%、12%、17%の関税率が設定されます。遠隔販売の場合、商品は5つのバケットのいずれかに分類され、それぞれの関税率が商品の関税評価額に適用されます。

このバケット制度は、低価格商品の免税制度に事実上取って代わることを意図したものです。他の管轄区域ではすでにこのような制度を採用し、遠隔販売の関税措置を簡素化しています。簡素化された制度は完全に任意であり、輸入者の要請があった場合のみ、提案された制度に従って関税が課されます。

なお、簡素化された関税措置は、統一物品税の対象となる商品、または反ダンピング、反補助金、セーフガード措置の対象となる商品には適用されません。

さらに、特定の製品はその性質上、簡素化された関税措置の範囲から除外されます(鉄鋼製品、工業プラント一式、特別な状況下で輸出入される商品など)。

VAT指令改正案

最後に、欧州委員会はVAT指令に直接変更を加え、みなし供給者制度の適用範囲を拡大することを提案しています。この措置は現在、電子インターフェースの使用を通じて、内在価値が150ユーロを超えない貨物で、第三地域または第三国から輸入された商品の遠隔販売を促進する課税対象者に適用されます。将来的には、欧州委員会の提案に基づき、価値のしきい値に関係なく適用されることになります。これにより、150ユーロの「関税のしきい値」もVAT規則から削除されます。

この削除は、2021年7月1日より廃止された22ユーロのVATしきい値との関連で見る必要があります。それ以来、EU域内では低価格商品のVAT免除は存在しません。低価格商品のしきい値の廃止は、国際的な潮流ともいえます。例えば、オーストラリアは2018年7月1日付で物品サービス税のしきい値を撤廃しました4。現在予定されているみなし供給者フィクションにおける150ユーロのしきい値の廃止により、輸入品はVATと関税の両方の目的において完全に「しきい値なし」となります。

企業に求められる対応

これらの変更は何年にもわたって行われますが、その影響は重大です。従って、影響を受ける企業は、予想される影響を調査し、特に以下の点について適切な対応を検討し始める必要があります。

  • 変更がビジネスに与える影響を評価する。
  • どのような責任と義務が実際の販売者に残るのか、またはこれらの責任がプラットフォームやマーケットプレイスに移行するのかどうかを評価する。
  • 顧客、価格設定、契約関係、取引条件への影響を検討する。
  • 新たな義務を果たすためのプロセスを導入する。

巻末注

  1. ”EU: Customs legislation reform,” TradeWatch Issue 2 2023、24ページ。こちらをご覧ください。
  2. EYは、欧州委員会のウェブサイトに掲載されたEUの関税制度改革案に関するフィードバック募集に応じ、欧州委員会にフィードバックペーパーを提出しました。「Feedback from: EY」、欧州委員会ウェブサイト、2023年11月7日。こちらをご覧ください。
  3. 「デジタル時代のVAT(VAT in the Digital Age)」、欧州委員会ウェブサイト、2022年12月8日。こちらをご覧ください。
  4. 「オーストラリアに販売する場合の物品サービス税(GST)(Goods and services tax (GST) when you sell to Australia)」、オーストラリア国税庁ウェブサイト。こちらをご覧ください。

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