サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年6月号

EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

注:夏季休暇のため7月号はお休みさせて頂きます。次回は8月号になります。



地域別アップデート

【Global】

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

5月28日、IFRS財団(*1)は、現時点で(世界のGDPと温室効果ガス排出量の半分以上を占める)20以上の法域において、自国のサステナビリティ開示基準をISSB基準に実質的または完全に整合させることを予定している、と発表しました。この発表は、5月27日に中国財務省がISSB基準と整合したフレームワークの草案を公表した翌日に行われました。(詳細は「Asia-Pacific」のセクションを参照)。

ISSBはこれらの法域の取り組みを支援するため、各法域の政策立案者がISSB基準の導入ロードマップを作成し、規制の枠組みに組み込むための戦略を検討することを支援する、ISSB基準の導入やその他の使用に関する「法域ガイド」(*2)を5月23日に公表しました。IFRS財団はこのガイドの中で、各法域における(ISSB基準の導入やその他の使用を含む)サステナビリティ関連開示要求の状況を示す「法域プロファイル」を公表する計画についても述べています。このプロファイルは、各法域との二者間協議に基づき情報収集され、各法域のサステナビリティ報告に対するアプローチが最終化し、コンサルテーションが終了した時点で作成される予定です。

比較可能性と相互運用可能性を促進するため、ISSBはグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)との連携を強化する計画(*3)を5月24日に公表しました。この連携は、GRIの「101生物多様性」(*4)と、ISSBの「生物多様性、生態系、生態系サービス」に関するプロジェクトに焦点を当て開始される予定です。


Science-Based Targets Network (SBTN)

5月29日、科学に基づく目標設定イニシアチブ(Science Based Targets initiative, SBTi)の姉妹組織である科学に基づく目標設定ネットワーク(Science-Based Targets Network, SBTN)(*5)は、自然に関する科学に基づく目標設定(Science-based targets for nature, SBT for Nature)(*6)の審査を担う認定プロバイダーを指名したことを公表しました。SBTNはまた、この審査を利用することに関心のある企業へ参加意向の表明を求めています。審査プロセスでは、目標設定がSBT for Natureと整合することを確かめ、審査後は、これらの目標に対する企業の遵守状況を確かめます。


【Americas】

米国

米国財務省と内国歳入庁(IRS)(*7)は5月29日、インフレ抑制法に基づき創設されたクリーン電力生産控除とクリーン電力投資控除に関するガイダンス案(*8)を公表しました。これらの控除は、温室効果ガス排出がゼロとなるエネルギープロジェクトにインセンティブを与えることを意図しており、ガイダンス案では、控除の対象となる具体的な技術を示しています(これらの控除は、2024年以降に使用開始された設備または貯蔵技術に対して利用できるようになります)。意見募集期間は2024年8月2日までです。

5月28日、バイデン政権は、米国の炭素市場を強化することを目的とした新しい「信頼性の高い自主炭素市場の原則」(*9)を公表しました。この原則は、既存市場の質と信頼性に関する懸念に対応するもので、拘束力はないものの、その遵守により市場に対する信頼の回復及び気候変動への対策と経済的な機会創出の促進が期待されています。米国はまた、G7で議論されているパリ協定6条4項のクレジット・メカニズム(*10)や、国連(*11)世界銀行(*12)自主的炭素市場のための十全性評議会(ICVCM)(*13)の取り組みなど、脱炭素化の野心を達成する手段として、信頼性の高い炭素市場を支持する他の取り組みにも積極的に関与しています。

5月23日、米連邦準備制度理事会(FRB)は大手米国銀行持株会社6社を対象に行った気候シナリオ分析のパイロットテストの結果(*14)を公表しました。このパイロットテストでは、各銀行の気候リスク管理手法を評価しました。その結果、気候関連リスクは不確実性が高く、その測定が困難であることが示されました。また、気候関連リスクの発生時期やその規模は不確実であるため、銀行はこれらのリスクを通常のリスク管理フレームワークにどのように取り入れるべきかを見極めるのが困難である、とされています。FRBは、このパイロットテストが銀行の資本や監督に直ちに影響を及ぼすものではないと述べています。

5月14日、メキシコの財務報告基準審議会(CINIF)は、メキシコの財務報告基準(Norma de Información Financiera, NIF)を使用する非上場企業(上場企業は対象外)を対象とする、ISSBと連携した新しいサステナビリティ報告基準の導入(*15)を公表しました。メキシコの金融機関から融資を受けるためにはNIFへの準拠が前提条件となることが多いため、多くのメキシコ企業が対象となる可能性があります。また、金融機関はリスク分析や自社のESG報告書作成のために、顧客のサステナビリティ報告を使用することもあります。この基準は2025年1月に発効します。


【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

6月4日、欧州監督機関(ESAs)である欧州銀行監督機構(EBA)、欧州証券市場監督機構(ESMA)、欧州保険年金監督機構(EIOPA)は、金融セクターにおけるグリーンウォッシュの現状に関する最終報告書を公表(*16)し、サステナビリティ関連用語の使用に対するモニタリングの強化をEU規制当局に求めました。この報告書は、ESMAが2024年5月に発表したESGやサステナビリティ関連用語(「環境」、「インパクト」、「社会」、「移行」など)を冠したファンド名に関する最終ガイドライン(*17)を受けたものです。

モーニングスターの最新の分析(*18)によると、このガイドラインはEU内の約4,300のファンドに影響を及ぼす可能性があり、その中で1,600以上のファンドが最大400億ドルに相当する資産のリブランディングや売却を迫られるかもしれません。ESMAは5月14日のプレスリリースで、ガイドラインがEUの全公用語に翻訳され、ESMAのウェブサイトで公開されると発表しました。ガイドラインは、翻訳版が公開されてから3ヶ月後に施行される予定です。

5月31日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、最初の3つの欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)適用ガイダンスの最終版(*19)を公表しました。このガイダンスは、2024年2月に一般から募集されたコメントを取り入れたもので、マテリアリティ評価、バリューチェーン報告、ESRSのデータポイントに関するものです。
 

英国

5月24日、英国の首相が総選挙を7月4日に実施(*20)することを発表しました。次回のニュースレターでは、この選挙がサステナビリティ関連の政策立案に与える影響をお伝えする予定です。
 

欧州議会

欧州議会選挙(*21)が6月6日から9日にかけて行われ、気候変動対策を推進する政党が議席を失い、反対派の政党が議席を伸ばしました。しかし、EUの政策決定において中心的役割を果たしてきた中道派の政党は依然として勢力を保持しており、現行の気候政策の方向性が大きく変更される可能性は低いと見られています。既存の政策枠組みの継続的な推進が期待され、欧州議会は来年、2040年までに温室効果ガス排出量を90%削減する提案を検討する予定です。また、2035年までにガソリン等の内燃機関車の新車販売を段階的に終了するかどうかについても、2026年に投票が予定されています。これらの投票は、選挙前よりも接戦となる可能性があります。


【Asia-Pacific】

中国

5月30日、中国財政部(MoF)は、新しいハイレベルの公開サステナビリティ報告基準の草案を公表(*22)しました。この公開草案(*23)は、全国で統一されたサステナビリティ開示基準制度の最初の構成要素を概説したもので、段階的に導入され、上場企業と非上場企業の両方に適用されます。草案はISSBのIFRS S1と整合性のあるものとなっていますが、いくつかの相違点があり、ダブル・マテリアリティのアプローチが含まれているのが特筆すべき点です。公開草案に対する意見募集期間は2024年6月24日まででした。MoFはまた、2027年までに気候関連開示基準を制定し、2030年までに全ての基準とガイダンスを制定する予定です。

本基準における要求事項は、今年初めに中国の主要証券取引所(SSE(*24)SZSE(*25)BSE(*26))が公表した開示要求事項とは別のものです。そのため、新たな開示基準が既存のESG要求事項と両立するように、MoFが取引所や他の政府機関とどのように調整するかが注目されます。


今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年上半期:ISSBが2年間の作業計画を最終化

  • 2024年7月31日:日本SSBJによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年8月31日:韓国KSSBによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化

  • 2024年10月:COP16(生物多様性)がコロンビアのカリで始まる

  • 2024年11月:COP29(気候)がアゼルバイジャンのバクーで始まる

  • 2024年末または2025年初め:EFRAGがセクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始
     


その他の重要トピック

“APAC Climate Action Progress Report.”

このMSCIの最新レポート(*27)において、アジアパシフィック地域で企業のバリューチェーンにおける排出量と気候変動に関連する目標の開示は増加しているものの、その進捗状況にはばらつきがあると報告されています。


自主的なカーボン・クレジット市場に関する会計士の主な検討事項

IFAC、カナダ勅許職業会計士協会及びISFは、会計士と市場参加者向けに、自主的なカーボン・クレジット市場の現状と今後の発展に関する資料(*28)を公表しました。


ESRSのQ&A解説

EFRAGは、ESRSに関するステークホルダーからの専門的な質問に答えるため、オーソライズされていない68項目の解説集(*29)を公表しました。




〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室


牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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